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■障がい者の工賃を健常者並みに増やす方法

 1112日の河北新報に、「障害者の専門学校開設へ 介護や農業学ぶ」という記事が載った。
 以下に、記事から一部を抜粋する。


 社会福祉法人はらから福祉会(本部柴田町)は来春、宮城県蔵王町の別荘地に福祉事業所「はらから蔵王塾」を開設する。
 特別支援学校を卒業した知的障害者の専門学校と位置付け、介護や農業の6次産業化を担う人材を育成する。
 カリキュラムは4年制を基本とし、前期2年で自立生活訓練、後期2年で就労移行に取り組む。
 介護や介護補助の仕事、農産物の生産・加工・販売の基礎を学び、就労につなげる。
 特別養護老人ホームや介護老人保健施設、農産物直売所が、実習の場を提供。
 苑内に利用者のグループホームも整備する方針。
 福祉会の理事長は、「特別支援学校を卒業すると即、働けるかどうかが問われてしまう現状がある。大学や専門学校のようにじっくり時間をかけ、介護や農業のサービスを地域に提供できる人材を育てたい」と話す。

 社会福祉法人はらから福祉会の公式HPを見ると、同法人はこれまでも全事業所で大豆加工製品を中心にした食品加工と商品販売を実施しており、地元商工会や全国各地の障がい者作業所と連携し、地域の特産物や、特産物を使った商品の開発・製造にも力を入れているのがわかる。

 福祉事業所が、魅力的で売れる商品を開発・製造・販売する動きは、このところ全国的にも高まっているが、「障害者の専門学校」としてじっくり研修・教育の機会を提供する試みは興味深い。
 しかも、「介護や農業の6次産業化を担う人材」を育成するというのだから、期待が高まる。

 実際、地方ではそうした分野の人材不足とビジネスノウハウの欠如という課題があるわけだから、障害者がその担い手になれるとしたら、売上に乗じて過疎化を止める追い風にもなるかもしれない。

はらから福祉会が製造・販売している商品

 ただ、惜しいと思うのは、公式サイトで理事長が「利用者賃金(工賃)時給700円の支給を目指しています」と公言していたり、「月額7万円の工賃の実現を目標にして、障がい者年金と合わせて 月額15万円前後での暮らしを叶えたい」という目標額面に設定していることだ。

 それは、あくまで「福祉業界内での目標値」にすぎない。
 最近の社会起業的なアプローチで低い工賃の問題を解決しようとしている人たちの間では、仕事で健常者並みの最低賃金以上を達成させるのがスタンダードになりつつある。
 もちろん、はらから福祉会も、段階的にその目標を実現させるつもりではあるだろう。
 だからこそ、6次産業化における一番のキモである「第3次産業」の部分の強化に力を入れてほしいと思う。

●地域の多彩な人材とコラボすれば収益UPは実現できる

 はらから福祉会では、すでに商品の製造・商品化までは実現しているが、売上ベースでは大きな課題を残している。
 公式サイトにある収支報告を見ると、年間の物品販売益が100万円程度しかない。
 収入の多くを会費に依存しており、年間で1000万円に上る。
 会員は900名以上もいるのに、その全員が授産品を買ったとしても、年間で1人あたり福祉会の商品を1000円程度しか購入してないことになる。


 この課題を解決するには、真っ先に同じ商品をより多く流通・販売させる仕組みを作り出すことにある。
 販売チャンネルを増やしたり、広告費をかけずに宣伝する必要があるだろう。
 そのための解決策を3点だけ提示しておこう。

①パッケージデザインを変える
 現在の商品パッケージは、いかにも田舎の障がい者が作ったようなイメージで、実際の中身がたとえ美味しくても、「障がい者ががんばって作りました」の同情票でしか買ってもらえない。
 それでは、働く障がい者の苦労の成果も頭打ちしてしまう。
 そこで、プロの商品デザイナーに相談し、売上を作れてからの後払いでギャラを支払うことを約束し、商品パッケージを変更するといい。
 それがどうしてもできないなら、商品デザインを教えている専門学校や大学と相談し、担当の先生を通じて学生たちに制作を依頼するといい。
 自分のデザインが実際の商品に採用された学生にとっては就職活動での面接で大きなアピールポイントを作れることになるし、学校にとってはメディアを通じて自分たちの教育内容をアピールして受験者数を増やす起爆剤になる。

②ネーミングを変える
 福祉会の商品はどれも、商品名がベタすぎる。
 授産品であることを隠し、一般の商品のように消費者に手にとってもらいたい気持ちはわかる。
 しかし、それなら、他の似たような商品とはっきりと差別化できるようなネーミングが必要になる。
 豆腐一つにしても、「もめんとうふ」という名称では、福祉会の商品を選ぶ動機づけがない。
 他の商品から一歩抜け出すには、目を引くネーミングやキャッチコピーが必要になる。
 「風に吹かれて豆腐屋ジョニー」なんて奇抜な商品名もある時代だから、これも①と同様に地元のデザイン会社や広告制作会社、広告表現を学ぶ学校などに相談してみた方がいい。
 あるいは、消費者に対して新しい名称やキャッチコピーを公募してもいい。
 さらに言えば、ネーミングライツ(命名権)を販売し、買った企業の広告を商品パッケージにプリントしてもいいはずだ。

③販売チャンネルを拡大する
 年間で100万円程度しか収益になってないのには、さまざまな理由があるはずだ。
 ここでは、とりあえず日々製造される商品について早めに完売できるよう、販売チャンネルを拡大することを提案したい。
 早く売れるなら働く障がい者の数を増やせるし、それでも足りないならニートや生活保護受給者などにジョブトレとして働いてもらえばいい。
 現時点ですでにネット通販をしているのだから、ネット上の広報・宣伝をtwitterやfacebookなどのSNS、ブログなどでの情報発信は欠かせない。
 そして、そうした情報発信はニートや生活保護受給者でもできるし、一般の高校生でもできる。
 これも地域の若者支援NPOや高校に相談すれば、若い人にボランティアをお願いできる。
 高校を巻き込めば、文化祭などの行事で授産品を販売する機会を1つ増やせるかもしれない。
 中学の保護者会や青年会議所、商店会などに相談すれば、飲食店経営者も仕入れてくれるかもしれない。
 そうしたことに積極的に売り出せるような福祉課の下部組織を作らないかと若者たちに声をかければ、大学生がリーダーの販売促進に特化した「ビジネス実践サークル」が誕生するだろう。
 そうした実践の場が学生たちにあれば、彼らは起業教育の機会を得たのと同じだ。

 こうした試みだけでなく、商品の単価をなるだけ高く設定できるように、より高品質な商品を作り出す仕組みも必要だ。
 製造過程におけるレシピ指導を、有名な料理学校やパティシエなどに依頼し、共同開発するような試みも、よそではすでに試み始めていることだ。

 そうした先進事例を学ぶことも大事だが、組織のリーダーだけがあれこれ悩むより、なるだけ自分の組織の外部にあるさまざまな人材とスキルに頼る「借り物競争」が、課題解決の突破口になることを忘れてほしくない。
 障がい者の就労を支援したい人がいるように、チャンスがあれば、困っている組織のリーダーの力になりたいと考えている人は、現代ではたくさんいるのだから。

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