もし、その通りなら、企業の活動における長い歴史の中で、貧困や失業、環境問題や自殺などまですべての社会的課題がすっかり解決されてるはずではないか?
現実は、まるで逆だ。
それらの深刻な課題ほど、今なお根強くこの社会に残っていて、そのために今日も明日も明後日も苦しみ続けている人たちが少なからずいるわけだ。
社会起業家とは、従来の社会を変革する仕事なので、常識や既存のルールなどの既得権益とぶつかりかねない危うさを持ちながら、課題を解決する画期的な仕組みを作り出す。
だから、社会貢献のようなざっくりした仕事ではない。
世界の社会起業家で一番有名なのは、ノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌスだ。
彼がやったのは、文字もまともに読めない田舎の貧しい農家の女性たちに高利で金を貸して起業させ、ビジネスを教えながらまともに返済できる仕組みを作ったことだ。
彼の仕事によって、「貧困の無い世界」というありえない希望が少しずつ実現していった。
その成功の理由は、「学力も経済力もない人には希望を担保するものが無い」という常識を疑い、それまで誰も発見できなかった「貧農の女性たちの間にある信頼関係」を掘り出したことだ。
これは、革新的な発想が救済を求める当事者との泥臭い付き合いからしか生まれないことの発見でもあった。
自分とは異なる境遇に生きている低学歴層に近づこうともせず、金を恵んでやる程度のことしか考えていなかった従来の高学歴層の「支援の仕事」の浅さを浮き彫りにすることでもあった。
一方、日本では国民の1割程度しか、まだ社会起業(ソーシャルビジネス)が何かを知らない。
だから、社会起業家の仕事の革新性に気づかないまま、冒頭のような誤解を恥ずかしげもなくネットに書けるのだ。
(※2008年4月経済産業省取り纏めの「ソーシャルビジネス研究会報告書」より)
●高学歴層の価値基準を塗り替える
時代に生まれた社会起業家
僕はここ10年ほどソーシャルビジネスだけでなく、従来のNPOや最新のCSR(企業の社会的責任)活動なども取材してきた。
すると、社会的課題を解決できる画期的な仕組みを作り出すには、必ず社会的課題に苦しんでいる当事者との深い付き合いが欠かせないことが、はっきりとわかった。
逆に言えば、当事者との深い付き合いを避けてしまう高学歴文化(=学校的価値観)自体が、社会的課題を「支援」の美名の下で温存してきたと言える。
たとえば、ホームレス支援にしても、行政や古いNPOは食料や金、情報を渡すことを「支援」だと言い張り、それ以上のことをしない。
だから、当事者は再就職の準備も動機づけられず、路上生活を辞める方法を知らないまま、結局は老いていく果てに孤独死を覚悟するしかないのだ。
その気になれば、路上生活を辞められるだけの伴走をしてくれるパートナーが日常的にいないのだから、当事者はいつまでも孤立を強いられる。
そこに気づいた若き社会起業家のNPO法人Homedoorは、女子大生たちを中心にした団体として出発したが、今は自分たちで作ったNPOと仕事を「ホームレスのおっちゃんたち」と一緒に取り組むことで一緒に汗をかき、自立したい人に再就職の道を開く事業を展開している。
他方、児童虐待を防止する広報活動をしている某団体は、毎年キャンペーンを張っている。
だが、親から虐待された当事者の子どもを救済する泥臭い仕事はしないまま、有名企業から巨額な助成金を受け取っている。
金を出す企業側にも、課題に苦しんでる当事者と泥臭く付き合う経験も関心も無いのだから、子どもたちは浮かばれない。
Homedoorの女性たちは、「ホームレスのおっちゃんたち」と日々付き合う中で、おっちゃんたちが放置自転車をすぐに修理できる技術を持っていることや、路上生活の事情にくわしく、街を案内できるだけの経験・知恵があることを発見した。
だから、自転車を直して市民に貸し出すシェアサイクル事業をビジネス化し、おっちゃんたちを雇うことで再就職への道を開くことに成功しているのだ。
このように、高学歴文化(=学校的価値観)が信じている「支援」の常識を捨て、自分の体で当事者と向き合い、付き合いを深めていく中で、当事者自身があらかじめ持っている価値を発見しようとすることが、社会を変革する大事な構えだ。
ひきこもりの若者を「ひきこもらせないように」と一方的に支援しようとしたり、ニートの若者を「なるだけ早く就職させたい」と強いたり、自殺志願者に「死ぬな」と説得を続けるような支援は、当事者にケンカを売っているだけでなく、支配しようとしているのと同じだ。
支援は、容易に既得権益的な価値基準によって当事者を支配することにつながる。
社会的課題に苦しむ当事者を自分より能力が無い人間とみなす「上から目線」のままでは、社会は変わらない。
社会起業家はむしろ、そうした常識を疑い、新しい価値観をこの社会に作り出す仕事なのだ。
それは、「ひきこもりのままでも当事者が困らない仕組み」かもしれないし、「自殺志願者が『死ぬな』の説教にさらされずに安心できる仕組み」かもしれない。
あくまでも当事者自身の声に真摯に耳を澄ませば、その仕組みは発想できるはずのものだ。
そのように、従来の価値基準を疑い、新しい生き方を実現できる画期的な仕組みを作り出し、誰にとっても自由で安心できる世界を実現するのが、社会起業家の存在価値なのだ。
この社会起業家が世界中で生まれ、すでにムーブメント化している現実を見ると、すでに時代は「高学歴層が作ったよのなかの仕組み」を更新しなければ生きにくい段階に入ったと言えるだろう。
ソーシャルビジネスに関心をもってくれたら、僕が早稲田大学で講義した動画を観て、僕の書いた本を読んでみてほしい(※あなたのまちや学校で講演が必要ならコチラ)。
低学歴層ほどピンとくる動画だが、高学歴層にもわかりやすい内容になっている。
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