橋が1937年に完成して以来、1600人が飛び降り自殺をしていることで「世界でも悪名高い自殺の名所」として報じられており、観光の目玉に対するイメージダウンを恐れる人たちが少なからずいるのだろう。
自殺防止ネットは世界中にあり、欧米では自殺防止になるそうだが、そのことによって「自由に死ねる場所」が減っていくわけだ。
もっとも、ネット自体が自殺の象徴になるため、「景観を損ねる」という反発もあり、同じ予算をメンタルヘルスに回した方が訴える人もいるという。
防止ネットを張ろうと、それに使う金をメンタルヘルスに回そうと、その動機はどちらも「自殺してほしくない」ものであって、「死ぬ時ぐらい自由に死なせてくれ」という思いは頭から否定されている。
だから、自殺対策=メンタルヘルス対策という誤解を平気で信じ込んでいるんだろう。
そもそもメンタルヘルスは、自殺防止の必要条件であって、十分条件ではない。
メンタルヘルスが自殺対策なら、「優秀な医師にめぐりあえ」という話になりかねないし、「医師や臨床心理士と同レベルの専門知識で自殺志願者と付き合え」という理屈になってしまう。
それだけでも十分、非現実的な対策であることがわかる。
すでに精神科に通っている自殺志願者はいるが、彼らの多くは、脳機能のトラブルを一時的に正常化させるために薬を買いに通院してるだけだ。
当事者を自殺にまで追い詰める苦しみは、メンタルヘルス以外のことでそれぞれ違う。
ある人にとって一番深刻なのは孤独かもしれないし、べつの人は生活保護を受給してしまったために時間を持て余し、有り余る時間が自分を責めてしまうことかもしれない。
それならば、孤独や失業などの具体的な課題に対して解決できる仕組みを作り出さないと、いつまでも病院通いだけが人生になってしまう。
それが続けば、死にたくなってしまうのも道理だろう。
日本の自殺対策には、すでに10年間も多額の税金が支出されている。
しかし、大した成果を上げてないことをイギリスの新聞が伝えていた。
世界中の誰が見ても、課題解決にとって費用対効果の悪い仕組みを考える人たちに10年も公金を払い続けているなんて、おかしな事態だ。
そこで、自殺対策が失敗する致命的な理由の一つとして、「社会的少数派を腫れ物のように扱う文化」について書いておこう。
●生きづらさを作っているのは、きみ自身かもしれない
学校的価値観に基づく「高学歴文化」には、中央省庁の官僚や全国紙の新聞記者、キー局のテレビ局の社員などが属し、彼らは世論を形成、大衆を誘導している。
たとえば、朝日新聞は、貧困の深刻さを読者に訴える際に、嫌々ながらセックスワーカーをしている女性の事例を引用する。
そこには、貧困に追い詰められた人々が「職業選択の自由」を奪われている現実を印象づけたいという思惑がある。
しかし、それはテレビが「いかにもなゲイ」を「オネエ」と呼んで、「オネエらしく振る舞え」と演出しているのと同様に、すでに社会にある「風俗は悪いものだ」というマスイメージに乗っかっただけ。
「当事者と付き合うことなしに少数派を語る愚かさ」を地で行ってるわけだ。
だから、その記事には、貧困層に占めるセックスワーカーの割合を示す客観的なデータが無い。
さらに言うなら、貧困ゆえにセックスワーカーになった人を対象にした就労満足度も示されていない。
風俗に務めず、ブラック企業で務めればよかったの?
それとも、給与はいいが、企業舎弟(ヤクザ)とつるんでる業界に入ればよかったの?
ヤクザとつるんでない業界って、どこの業界?
そうした問いかけすら、朝日新聞の記事には無かった。
編集部にはボンボンやお嬢さんが集まってるのかもしれないが、「風俗=不幸」のイメージを上塗りすることは、社会的少数派のセックスワーカーを不当に貶める。
「風俗でしか働けない」と思い込んでしまってる方々を「日陰の存在」に追いやってるのは、自分と同じ所得層の人しか友人にいない高学歴文化圏の人々なのだ。
セックスワーク(風俗・売春・援助交際など)と他の職種を比較した満足度の数字もないまま、セックスワーカーになることを不幸のように描き出せば、それはセックスワーカーやセックスワークに対する差別や偏見を温存・助長しかねない。
「男らしくない男」やゲイに対して、「あいつはキモチ悪い奴だ」とか、「いつかは女が好きになる」とか、とんでもない考えを長らく温存してきたのも、既得権益的価値観を教える学校だったし、その考えを鵜呑みにして高学歴のトップに立った人たちだった。
親の所得と子どもの学歴が比例してる今日、こうしたガチガチな高学歴文化を疑わない人たちが、マスメディアや中央官僚の仕事をしてるんだから、既得権益的な価値観だけで政策や世論を決められてしまう恐れが大いにある。
家族関係に恵まれた人間には、親から虐待されるということの深刻さはわからない。
だから平気で「家出は不良」というメディアからの刷り込みを良識だと思い込む。
たとえごく一部に家出して売春で生き延びる子がいても、実の親からレイプされ続ける地獄よりマシだという現実の重みを理解してほしい。
— 今一生 (@conisshow) 2015, 10月 14
●生活保護の受給者の自殺率は、全国平均の2倍以上
その恐れは、自殺対策にも表れている。
だから、精神科医や福祉職など多彩なプロを「死にたい当事者」の周囲に配置しても、いっこうに自殺防止策として機能しない。
当事者のニーズは、当事者自身が知っているというのに、内閣府の自殺対策メンバーは、当事者の声を吸い上げることもなければ、彼らの声に基づいた施策すら作れずにいる。
責任をとって自発的に辞めることすらしないんだから、政治家に「即刻クビにしろ!」と訴える必要があるだろう。
人の命がかかってるんだから。
医療や福祉や教育などの「単一の役割だけで非日常的にしか付き合えない不安定な関係」では、死にたい当事者の日常的な孤独や不安、失業は解決できない。
彼らが切実に求めてるのは、「日常的に自分の苦しみを解消するために伴走してくれる安心で確かな関係」であり、ありていに言えば「対等な付き合いの出来る信じられる友人」だ。
それは、当事者と泥臭い人間関係を覚悟しながら付き合える人材か、そうできるだけの研修を受けた人材だけだろう。
少なくとも、自殺志願者を数値でしか把握できず、葬式にも行ったことがない人たちが、有効な防止策を作れるとは思えない。
そもそも、「働けない人だから生活保護を受給させれば万事OK」とか、「そこで自分の仕事が終わった」と勘違いする福祉職は、プロじゃない。
生活保護の受給者の自殺率は、全国平均の自殺率より2倍以上も高いのだ。
しかも、若い世代ほど、自殺しやすくなってしまう。
だから、僕は当事者との泥臭い付き合いこそが必要だと20年前から主張している。
「社会的少数派を腫れ物のように扱う文化」は、自殺志願者やLGBT、セックスワーカーなどに限らず、ひきこもりやニート、障がい者や外国人、童貞や処女、非婚者など幅広いシーンに見られ、彼らの「支援」に取り組む人たちも、当事者を友人ではなく「被支援対象」として上から見ている。
それが、従来型の日本の生きづらさを温存してるんだよ。
生まれてくる時は、親も土地も時代も選べない。
なのに、課題を解決できないくせに公金を使いまくる連中が賞賛される社会で生きなきゃいけない。
誰が自殺へ追い詰めてるか、ほぼ同じ所得層に属する友人たちの顔を思い浮かべながら、よく考えてみてほしい。
そして、せめて死ぬ時ぐらい、自由にさせてくれ。
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