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■「ひとり親」を貧困から救うために署名する意味

 ひとり親の貧困は子どもの教育機会を奪い、子どももまた貧困となっていく「負の連鎖」がある。
 こうした状況を打開するために、児童扶養手当の加算額を1万円に増額してほしいと政府へ要望する署名を集めているサイトがある。

 この主催者は、「ひとり親を救え!プロジェクト」だ。
 この署名サイトにある説明を、ざっくり言えば、次の通りだ。

 日本のひとり親家庭の多くは、母子家庭(母子家庭123.8万世帯、父子家庭22.3万世帯)。
 母子家庭の就労率は約81%だが、非正規雇用が47%で、平均年間就労収入は181万円
 その結果、日本のひとり親家庭の子どもの貧困率は54.6%と、先進国で最悪

 しかし、ひとり親家庭に国から支給される児童扶養手当は、1人目の子どもには最高月額42,000円、2人目には月額5000、さらに3人目以降は3,000
 「食べ盛りの子どもに、1100円で何を食べさせればいいのでしょう?」
 署名サイトは、そう問いかけている。

 僕は、この署名に賛同し、SNSで拡散した。
 しかし、SEALDsのデモが「意思表示の可視化」については共感を持てるものだとしても、それ以上の意味を持たないように、この署名も、署名の内容を政府に通すための戦略が見えないのが難点だ。
(少なくとも10月23日の時点では)

 これまで政治家は、なぜ手当追加に十分な予算をつけられずにいるのか?
 この課題について正確に知り、解決できる仕組みを提案できてないところが弱い。
 交渉は、一方の都合だけでは進まないからだ。

 僕は、予算を通せるだけの戦略を今後作るという期待を含めて、署名に賛同した。
 しかし、その戦略は、政治家に選挙での得票や献金というメリットを提供する従来の「パワーゲームへの参加」では、将来に遺恨を残すだけだろう。

 むしろ、通しやすい法案内容や仕組みにすることが大事になってくるはずだ。
 それは、「2人以上の子のいるひとり親に1万円を」というざっくりしたものでは困るということだ。



●政治家と官僚を上手に抱き込むために民間でやるべきこと

 額面が法律に盛り込まれると、物価の上昇でその価値は小さくなってしまうし、一度法律になれば、額面を変えるために新たな努力を国民が強いられる。

 そこで、2人以上の子どもをもつひとり親で、1万円以上の手当てを希望する世帯の数を実態調査して、最大で年間いくらの歳出になるのかを試算したほうがいい。

 世帯別では低い年収でも、遠く離れた実家が裕福だったり、元のパートナーが残した資産を現金化できる場合もある。
 また、どんなに貧しくても、役所に行けば支給される手当があることを知らない低学歴の親も少なくない。

 実態調査を丁寧にすれば、一律1万円以上(年間で12万円以上)を2人以上の子どもがいるひとり親のすべてに支給する額面より、ぐっと低い予算で済むはずだ。
 同時に、手当をもらえることを知らずに苦しんでる親も発掘でき、本当に貧しい親子を救うことにもつながる。



 そのように、税金を費用対効果の良い形で有効に使える仕組みは、マクロな数字に詳しくても世間知らずの官僚や政治家には苦手なところだし、「余計な歳出ではない」ことを数字で示せば、世論もマスメディアも味方にしやすい。

 つまり、初年度は、実態調査のためだけの予算を政治家にロビイングするか、省庁内予算でできるように官僚に入れ知恵して、児童福祉の予算の総額自体をさほど変えなくても「1万円増額」が無理なくやりくりできる根拠を示すことは、とても政策実現に向けて必要なプロセスだろう。

 ひとり親の約8割は離婚による貧困なので、離婚率を下げるための画期的なノウハウを持っている人材を探し、段階的にひとり親の数自体を減らしていける仕組みを民間で作る準備も同時に進めれば、ただでさえ予算増が難しい中で、削減していける暫定的な予算として「1万円増額」を位置付けられる。

 また、夫婦でいた時から貧困だった場合は、離婚前から子育てを担うと決めた側が起業を学んで低賃金の暮らしから脱却できる機会を民間で作れば、手当を返上する人も増えるだろう。
 パートナーの死別でひとり親になる割合は少なく、しかも上の子が働ける年齢の場合もあるため、手のかかる年齢以下の子どもに絞って手当ての額面を底上げすることも提案できるはずだ。

 さらに、社会起業家ならではの「仕組み」改善にも、新たな努力が必要だ。
 東京を中心に病児保育サービスを提供しているフローレンスなら、貧しいひとり親にはサービス代をゼロにできる仕組みを考えてほしいし、再婚を望む当事者には再婚しやすい環境を作れば、貧困に苦しむ期間を短縮できる。
 ひとり親家庭どうしで助け合って生きるシェアハウスもある時代なのだから、再婚しなくても生きていける道もある。

 子どもをいざという時だけ預けられるサービスを全国に急速に拡大しているAsMama(アズママ)なら、1時間500円程度の子ども預かり謝礼を他の人が肩代わりできる仕組みを作れば、生活コスト全体をその分だけ下げられるので、国からの手当てを上げることのメリットが大きくなり、貧困当事者の満足度も大きくなる。

 そのような仕組みを民間で考えるにも、実態調査と全国の子育て支援NPOをネットワークする組織が必要になる。
 実態調査のコストを見積もり、それだけを初年度に内閣府の予算にひもづけるなら、政治家も官僚も無理なく飲める条件に大きく近づける。

 政府に提案する側の民間が自助努力を示した上で、最小限度の予算額面を示せば、いきなり巨額の予算追加を求めるよりは現実的な選択になるし、政治家にとっても次年度に予算をつけやすくなるだろう。

 もっとも、僕はロビイングのプロではないので、この予算追加を実現するには、厚労省の担当役人や児童福祉に関心のある国会議員などを巻き込んだ民間主導の「国民会議」を主催することを勧めたい。

 子どもの貧困について政府は「無策」といってよく、「子供の未来応援基金」なんていうトンデモな民間基金が安倍総理も発起人になって立ち上げられた。

 政策論議には、実際に「通る政策」を考えるプロである官僚や、決定するためにさまざまなネゴ(交渉)を試みる議員と仲良くなるつきあいが必要だし、そのつきあいの中から彼らの思惑をしたたかに読みとることが、民間人に求められている。

 なお、このブログの「続き」として、「常見さんと駒崎さんのツィートで考えたひとり親家庭」という記事も読んでみてほしい。

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