丸善ジュンク堂書店は10月22日、渋谷店で実施されていた「自由と民主主義のための必読書50」というフェアを内容について精査したうえで選書を見直し、再開すると同時に、一部従業員によるツイートについて同社の公式な意見や見解とは異なると発表した。
(Yahoo!ニュースより)
同社は「本来のフェアタイトルの趣旨にそぐわない選書内容」があったというが、どれが該当するのかは、再開してみないとわからない。
ジュンク堂書店の難波店(大阪市浪速区)は、5月下旬に相続税の本を並べていた一角を反ヘイト本の常設コーナーに変えた。
設置を決めた福嶋あきら店長(56歳)は、こう言う。
「市場原理に任せて隣国への憎悪をあおる本を並べていることに違和感があった。
なぜ国籍だけで攻撃するのか、素朴に分からなかった。
ヘイト本も反ヘイト本も、常に目に見える形にし、両方の立場をお客さんに意識してほしい」
(朝日新聞より)
朝日新聞の記事には、店長の弁を擁護するように、こう書かれている。
「嫌中・嫌韓本より出版数が少なく、売り上げも良くない反ヘイト本は、放っておけば店頭からほとんど消えるからだ。このようなコーナーを設ける書店はまだ少ない」
商売は、商品が売れないことにはやっていけない。
だから、売れ筋を目立たせるのは当然の行為だ。
しかし、売れる商品なら、どんなものでも売ればいいという論理は、倫理をかなぐり捨てても飯が食えれば十分だという貧者の居直りにすぎない。
(ハフポスト日本版より)
確かに、どんな低賃金で重労働でも、自分にはその会社しか雇ってもらえる会社がないと思い込んだ貧者がイヤでもブラック企業に勤め続けるしかないように、ジリ貧の業界として金融業界から「沈没船」と言われてる出版業界では、倫理をかなぐり捨てても目先の利益を得ようとする企業が昨今目立つようになってきた。
太田出版は身元不明の著者による本を出版して荒稼ぎをしたし、TSUTAYAは図書館に売れ筋以外の在庫本を置いて市民の批判を浴びた。
出版科学研究所によると、日本における紙の本の販売金額は1996年をピークに毎年減少し続けている。
収益の作り方も含めた「新たな出版文化」を構築しなければならない時代が到来しているのに、「売れないものは売れないから」という理屈に居直り続けるなら、自らの首を締め上げるだけだ。
放っておけば店頭からほとんど消える「売り上げも良くない反ヘイト本」でも目立たせようとした難波店や、市民のニーズをふまえて「自由と民主主義のための必読書50」を企画した渋谷店など、丸善ジュンク堂の販売現場の社員は自分自身の頭で考え、まっとうな倫理を守りながら小売りの努力をしているように見える。
●ジリ貧の時こそ自社が社会にできることの豊かさに気づこう
昨今では、どこの企業でも、顧客や株主を含む社会に対して自社が約束する行動指針を、公式サイトで社是や企業理念、CSRなどのページに明示している。
丸善ジュンク堂の場合は、以下の通りだ。
☆"人と人との出会いを大切に"をテーマに
☆愚直なまでに"本と文具"の品揃え
☆"図書館よりも図書館らしい"店づくり
☆豊富な商品知識を持った販売員の育成
もちろん、この方針がすべての社員の仕事ぶりに行き届いているかどうかは、常に経営者や店長などのマネジメント側の努力目標になる。
ここで考えてほしいのは、どんな組織にもそこに属する人間の行動を規定するルール(内規)があり、それをただの建前にするか、それとも忠実に守り抜くかで、社会のありようは変わってくるということだ。
丸善ジュンク堂は、前述のとおり、売れ筋でない本でも売るための努力をしている。
これは、企業理念で定めた「図書館よりも図書館らしい店づくり」という理念を実現するためだ。
もし、企業理念そのものが無かったり、社会に対して明示されていなかったり、立派な企業理念を掲げていても「あくまでも努力目標で実際は無視する」という商売に居直ってしまったら、営利企業は利益最優先の金儲け至上主義に途端に堕落してしまう。
そうなれば、毎日のように社員に「カネ、カネ、カネ…」と売れ筋の本だけを考えさせ、顧客は「大衆受けはするが、マイノリティへの関心を失う」本ばかりを買うことになる。
それは、自分がいざマイノリティの境遇になった時に頼れる本が簡単には得られない社会を作ることだ。
同時に、短期で荒稼ぎはできても長くは支持されない本を乱発する必要があるため、いつまでも忙しく売れ筋を血眼になって探す生き方しかできない社会を作ることになる。
社会を作るのは、政治だけでなく、民間の毎日の仕事そのものなのだ。
企業理念とは、政党で言えば、公約やマニフェストのようなものだ。
政治家は公約を破っても大して困らないが、企業が自分の掲げた理念を偽れば、商売が成り立たなくなる。
誰のために、どんな商品を作るのか?
誰のために、どんな商品を売るのか?
どういう方法で収益を上げるのか?
どういう労力で同じ収益を上げられるようになるのか?
そうしたことをすべての社員が考えられるようになれば、そしてマネジメント側の人間が社員の要望にもっと耳をすませば、社会は変わる。
そのためにも、雇われている人は、職場での不満をなるだけ口にした方がいいと思うし、マネジメント側も社員がためらいなく不満をもらせる環境を作る必要があるだろう。
そして、僕らは労働者であると同時に、消費者でもある。
どんな商品を買いたいのか?
どんな店で買いたいのか?
どんな会社を儲けさせたいのか?
どういう仕組みならより安く買えるのか?
そうした自問も含め、僕らは毎日、仕事を通じて、商品・サービスを通じて僕らの生きる社会を作っているんだ。
それは、どこの職場でも同じ。
それに気づけば、自社だけの利益を追うばかりの発想では、持続可能なビジネスにならないこともわかるはずだ。
とくに、地域に根差した店の場合、地域の市民のニーズを組むことは大事だ。
一般には売れ筋ではない商品でも、その商品を必要とする属性の人たちは一定層いる。
彼ら自身に商品セレクトと、販売フェアの広報を協力してもらえば、ずっとほこりをかぶっていた商品も短期間に売りさばけるかもしれない。
自社が扱う商品を喜んでくれる人の顔を思い浮かべれば、商品によって人を幸せにできる喜びを経営者と労働者が分かち合える。
そういうシンプルな発想から自分の仕事を見直さないと、「自社だけが勝ち抜けばいい」という偏狭な人間になってしまうだろう。
貧しくなった時こそ、人間の本性が出る。
それはただの自己愛か? それとも…
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