EXILEや安室奈美恵など人気アーティストの楽曲を抱えるエイベックス・グループ・ホールディングスは、約10万曲の管理について日本音楽著作権協会(JASRAC)への委託をやめ、同社系列の「イーライセンス」に委ねる方針を決めた。
記事は、「著作権管理業務に本腰を入れ、音楽ビジネスに新たな競争が生まれそうだ」と結んでいる。
CDが売れなくなり、ストリーミング配信などによる新たな収益源を模索してる音楽業界は、今のところライブ入場料やアーチスト関連グッズなどでなんとか食いつなごうとしてる。
そうした状況下では、楽曲の著作権の2次使用による収益を他社に委託するより、自社グループの系列で直接売った方が稼ぎになると考えるレコード会社は今後も増えるのかもしれない。
ただし、楽曲自体がテレビ・ラジオのCMや映画の主題歌などに起用されない限り、メガヒットにはならないという発想は、業界ではさほど変わっていないようだ。
もっとも、それはそれで大変に売り込みの労力がかかるため、その労力に釣り合う莫大な利益を今後も得られるかどうかは、何とも言えないところだ。
個人の趣味が多様化し、市場が細分化した今日では、どんなにサウンド面で高品質な楽曲を作れても、日本語で歌う限りは、市場は頭打ちする。
そこで、「きゃりーぱみゅぱみゅやBABYMETAL、アニソンなど世界で売れてる楽曲もあるんじゃないか?」と考える人もいるが、21世紀に入ってもビルボードTOP100(総合ランキング)には、日本人アーチストはほとんど入っていない。
日本の「カワイイ文化」とアニメ・ゲームの文化がごく一部のヲタ外国人に愛され、Youtubeなどで愛されてるだけで、J-POPの購入には必ずしもつながっていないことがわかる。
つまり、「クール・ジャパン」はあくまでも日本人ウケするキャッチコピーであり、日本人が思っているほどの市場にまでは成熟していないのだ。
日本語で歌う外国人の姿をネットやテレビで見ただけで、それをJ-POPへの消費行動と受け取るのは危ういってことだ。
むしろ、言葉の壁を超え、英語圏や中国圏などの巨大市場で勝てるJ-POPをどう作り出せるかがキーになっているように思う。
そうした巨大市場で1つでもメガヒットを出せば、楽曲の制作依頼も世界規模で増えるだけでなく、日本人アーチストに対する関心も高まる。
しかし、それには少なくとも3つの課題をクリアしなければならないだろう。
●社内公用語を英語にし、作詞力を鍛え、そして…
英語圏で楽曲を売るには、英語圏の文化にも受け入れられやすい普遍的なメッセージや世界観、思いなどを歌詞に込める必要が出てくる。
2009年以後、三菱地所、楽天、ユニクロ、アサヒビール、シャープ、三井不動産、三井住友銀行、三菱商事、日立製作所、日本電産、武田薬品などの大企業は社内公用語を導入し、今年はホンダも導入した。
ところが、日本のレコード会社で社内公用語を英語にしたという企業は聞いたことが無い。
(僕が知らないだけかもしれないので、ご存じの方は教えてください)
音楽は、サウンドだけでいえば、世界の誰もが受け入れられる普遍的な魅力と価値を持っているのに、聞き手の気持ちや関心に届かない日本語では、ガラパゴス商品になるだけだ。
実際、1960年代から日本で大ヒットした楽曲は、世界中で盛んにカバーされてきた。
海賊版で歌われていた頃から、世界中のヒット曲の「良いとこどり」で編集・加工されたJ-POPには、洋の東西を問わず、サウンド面での魅力が潜在的にあるといえる。
しかし、そのままの日本語では、海外では大きなヒットになることは極めてまれだ。
やはり、英語圏の文化で生まれ育った人たちには、英語で聞かせる必要がある。
そこで、社内公用語を英語にしなくても、ネイティブ英語を日常的に話せる人材を採用すればいい。
そう考える人もいるだろう。
だが、それは事実上、帰国子女か外国人の雇用を促進することになり、日本人の雇用が奪われるだけでなく、日本の良い文化を活かせる人材かどうかの課題も生まれる。
いずれにせよ、英語圏の文化に関心を持たなければ、英語圏で生まれ育って暮らしているリスナーが聞きたい言葉やメッセージ、思いを歌詞に込めることは難しい。
実際、多くの日本人ミュージシャンが海外進出を試み、残念な結果になってしまった背景には、経済大国第3位の裕福な日本のぬるい社会の空気を吸って作詞をしても、経済的に恵まれてない世界中の国々の人たち(=圧倒的な多数派)の胸には届かないという難点がある。
楽曲制作が上手でも、それで儲けた金で僕らの社会に何かを還元しているか?
欧米のリスナーは、それをきっちり見る。
それだけでも、英語圏の市場が日本とはまるで違うことにピンと来るだろう。
エリック・クラプトンは、自分が薬物依存症に苦しんだ経験から、所有していたギターをオークションで売り、その収益金で他の依存症の方々のために治療施設の運営費に充てた。
日本では、覚せい剤で逮捕された後に「僕は元気です」と新聞に一面広告を載せる恥ずかしい再デビューをした有名ミュージシャンもいる。
彼はその後で派手に売れたが、覚せい剤に今なお苦しんでる人たちのいる施設へ富を還元したという話は聞かない。
自分の世間体ばかり気にする浅ましさは、英語圏では端的に「誠意がない」とみなされる。
そんな自意識のままで世界に届く言葉がつむげると思うなら、傲慢もはなはだしい。
黒人として成功したマイケル・ジャクソンが「死んでいく人もいるんだ」と歌ってる意味の重さを理解できなければ、なぜ自分の音楽をやるのかという意味も浅いままだろう。
約50年前に世界的に大ヒットしたビートルズは、その歌詞において、熟年離婚への不安、家出少女、子だくさんのシングルマザーの貧困、ツンデレ、萌え、男女同権など、実は社会の現実に向き合った内容を、労働者階級出身の視点で描いていた(参考リンク)。
ジョンやポールは、ソロになってからも反戦歌を書いている。
欧米で労働者として生きるリアルな実感は、平和な日本社会の日常感覚からは出てこないかもしれない。
しかし、突破口はある。
音楽業界歴45年で、洋楽の販売のプロである高橋裕二さんは言う。
●アニメ映画と提携し、多国籍のアーチストに歌ってもらう
もちろん、サウンドだけは日本人に作らせ、日本語歌詞の意味を脱臭して、まったくべつの意味を現地語で現地の歌手に歌ってもらうという手もある。
ただし、それだと正確にはJ-POPや日本文化を輸出したことにはならない。
むしろ、日本語の歌詞を世界に通じる普遍的な表現に「編集」する技術が必要だし、それをふまえて英語の歌詞に翻訳できるスキルをもった人材に英訳を依頼する必要があるだろう。
その際、音楽業界より、出版業界の人材に目を向ける方がベターな気がする。
ドナルド・キーン先生や、村上春樹さんなどの小説を海外で翻訳してる外国人にレコード会社が発注する手もあるはずだ。
英訳や文藝のスキルを蓄積してきたプロの力を借りつつ、仕上げの際に往年の有名作詞家たちに監修をお願いすればいい。
そのうえで、英語圏・中国圏などいろいろな国の歌手100人ぐらいに同時に同じ歌を歌ってもらってはどうだろう?
日本では、演歌で同じ新曲を違う歌手が何人も同時に歌って、短期間に特定の楽曲の知名度を上げるという商習慣があるじゃないか。
それを世界各国のレーベルと契約すれば、Youtubeなどネット上話題になりやすく、楽曲を母国語でコピーするリスナーも短期間に増えるだろう。
宣伝費をかけるより、そうした「同時多発」的な交渉に労力と資金をかける方が、「日本式の音楽ビジネス」を活かせる道のような気がする。
それには、追い風も必要だ。
追い風になるのは、世界共通言語である「映画」を使うといいだろう。
しかも、アニメなら「日本製」がすでに世界中で受けている。
企画の段階から「日本文化を売るプロジェクト」として、世界へ配給してる映画会社と組めばいい。
音楽業界・出版業界・映画業界が同じ志で連携すれば、予算も持ち寄れる。
そこで、広告代理店を使わずに、プロジェクト委員会に参加した企業自体が、スポンサー企業を集める動きをすれば、なお良い。
英語圏市場への進出や自社のブランディング力を高めるために、歌や映像に連動したキャラクター商品を作りたい企業は、ゴマンとあるだろう。
テレビや新聞が広告に依存しすぎて自由な報道が難しくなっている今日、従来のように代理店にお任せする仕事では、自由な表現が疲弊し、コンテンツ力が落ち、売れる作品を作れるアーチストすら売れなくなってしまうのだから。
なお、以上のことは、従来の発想に縛られている歴史のあるレコード会社や、自分たちの会社や業界だけの利益しか考えられない人たちが実現できないなら、インディーズのミュージシャンたちが仲間を集めて始めてしまえばいいことだ。
ネットの時代、そうした個人のフットワークの軽さが、世界進出を容易にするかもしれない。
その際にも、世界的なムーブメントになっているソーシャルデザインや社会起業(ソーシャルビジネス)の事例を学べば、目からウロコの発想も意外と簡単にできることがわかるだろう。
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