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■苦しんできた人のもつ「当事者固有の価値」という資産

 1116日、元NHK千葉放送局 アナウンサーの田代美歩さんが亡くなられた。
 それをFacebookで共通の友人から知らされ、意外なほど自分が動揺してるのがわかった。
 冷静になるために、彼女について書きとめておこう。

 田代さんと会ったのは、僕が住む千葉県市原市のカフェだ。
 彼女は女性ばかりの小さな会社にいて、そこの社員が僕の『ソーシャルデザイン50の方法』を読み、社員を連れて社会貢献事業を始めるために、ソーシャルな事業のコンサルをしている僕に会いに来たのだ。

 熱心に何回も会いに来られた田代さんは、がんを患っていたが、末期がんで全身転移の体でもいつも笑顔で仕事も辞めなかったし、シングルマザーとして子どもたちを立派に育て上げた、とてもパワフルな雰囲気の人だった。
 そこで、新規事業の一つとして、僕は当事者講演を勧めた。

 当事者講演とは、何かに苦しんでる当事者がどうやってその苦しみを乗り越え、今日まで生きて来れたのかについて、自分と同じ苦しみを乗り越えようとしている当事者やその家族・友人・同僚などを対象にオープンに語る講演会だ。

 苦しみをもちながらの仕事や子育てのスタイル、闘病中の周囲の人間関係、苦しんできた当事者にしかわからない生活上の悩みを、「当事者固有の価値」として分かち合うことにより、同じ当事者の抱える問題の解決にヒントを与え、当事者の周囲の方々に当事者への理解を深めるものだ。

 人前で話す講演業は、えらい先生や有名人の専売特許ではない。
 苦しんできた人ほど、えらい先生や有名人でも語れない「当事者固有の価値」を持っている。
 その価値をきちんと収益化することによって、当事者自身が自分の価値を知ると同時に、「支援される」という受け身の人生から解放されるチャンスにもできる。



 この当事者講演を、田代さんの勤めていた会社は元アナウンサーの集まりだったので、取締役が田代さんから話を聞き出す「インタビュー・セミナー」という形にアレンジし、始めた。

 これなら、自分の話を一方的に語るだけでないのでカジュアルに聞けるし、どこまで聞いていいのかも観客が判断できるので、あとで観客が質問をする際にも役立つスタイルだ。
 何よりも、人前で自分の話をするのが苦手な人でも、その実体験を収益化しやすくなる。

 田代さんはこのインタビュー・セミナーの後、一人で話す講演会にも登壇し、電子書籍『いつも隣にいた君が、今日、乳がんになった。支えられる男になるための私達からのメッセージ』も発表するなど、がんと共に生きてこそつかんだ彼女自身の価値をより多くの方へ提供する仕事を精力的に続けていた。

 そういうようすをFacebookなどオンライン上でぽつぽつ見ていたから、がん告知から10年以上、何度手術をしても、そのたびに笑顔で仕事をしてきた田代さんについて、「彼女は死なないんじゃないか」と心のどこかで思ってしまっていたような気がする。
 だから、数時間前に下記のメッセージを共通の友人からもらって複雑な思いを抱いたのだ。

「今さんのお陰で、美歩さん最後まで当事者の声を届ける講演、頑張ってた。
 先々週まで、ギリギリの体をおして講演してました。
 しゃべること、伝えることが好きで、いつも誰かの役に立ちたいっていってて、最後まで自分の声を届けるんだと諦めずに前進してました。
 最初に講演をするよう提案してくれた今さんのお陰で、美歩さん、やりたいことやれたんじゃないかと思う。
 まだ歌ってライブやる計画まで立ててたし。
 美歩さんにかわって、今さんに心から感謝します」

 やりがいのある仕事を見つけられたら、人は無理を重ねてがんばってしまう。
 そのがんばりが彼女の死期を早めてしまったなら、僕はなんと罪深い提案をしてしまったのか。
 そんなことはない、と思いたいが…。

 同世代で同業者の友人・長田美穂さんが先日、がんで亡くなったばかりで、僕の心のやらかいところが反応してしまうのだ。
 少しでも1個でも自分のしたいことを続けられたのなら、そのこと自体を喜んでいいのかもしれない。

 気丈な田代さんが自身のがんについて4分間ほど語っていた動画が残っている。
 その語り口の中に、当事者固有の価値を(専門家でなく)当事者自身が語ることの社会的意義の大きさを感じながら、今後も僕は「当事者固有の価値」についてしつこく主張していくつもりだ。
 専門家や高学歴層が幅を利かせ、支配力を持つ社会のカウンターとして、まだ十分に掘り起こされていない当事者固有の価値の大きさを信じたい。

 田代さん、おつかれさまでした。
 俺も、まだまだしぶとくがんばるよ。
 合掌。



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