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■『小さな留学生』の中国人少女は新聞記者に…

 2006年、フジテレビの『小さな留学生』というドキュメンタリーを再放送で観た。
 最初に放送されたのは2000年だそうだから、かなり遅れて見たことになる。

 9歳の中国人の小学生・張素(ちょう・そ)ちゃんが、父の転勤で北京から東京の小学校に通った1996年から1998年の約2年間を追ったものだ。

「日本人は昔、戦争で中国を侵略した。
 だから、日本人には負けられない」
 北京では学年3番以内だった優秀な張素ちゃんは、そう決意した。

 いざ日本の教室に入ってみると、日本語で行われる授業についていけない。
 負けん気の強そうな子で、泣くまいとこらえる。
 でも、自分の無力に、どうしても涙があふれてしまう。

 それでも、隣の机の男の子は、教科書のどこを読んでいるのかを指で示してくれた。
 先生は、ピアニカの練習などを通じてクラスに溶け込ませてくれた。
 近所の友達は、毎朝張素ちゃんを出迎えてお話しながら一緒に通学してくれた。
 ささやかだけど確かな思いやりに支えられて、彼女は次第にみんなの人気者になり、成績も1番になっていく。

 ところが、父の勤務先の倒産で中国に帰ることに…。
 中国人のクラスメイトが、「日本で学級委員長になれた?」と尋ねる。
 張素ちゃんはこう答えた。
「日本では、手を挙ればなれるんだよ。
 成績は関係なし。
 もっと大事なことがあるの」

 



●国境なんて、やがてなくなるよ!

 本作は中国でも放送され、「日本人も人間だ」と大反響を集めたという。
 制作したのは、中国人女性・張麗玲さん。

 彼女自身、日本語がわからないまま日本の大学に留学し、日本企業に入社した。
 そして、フジテレビに本作の制作を申し出てカメラを借り、素人ながら2足のわらじで完成させた。
 当惑するプロデューサーに、こう訴えたのだそうだ。

「中国では、日本人のことを鬼士と書きます。
 だから私自身も、小学校までは日本人を人間だとは思っていませんでした。
 私は自分が日本から、日本人から受けたことを人々に伝えたかった」
(フジテレビ広報部「パブペパNo.00-94200045日発行より)

 曇天の雲間から差す一条の光のような番組で、涙があふれて止まらなかった。
 日中間の過去は実感としてはわからない。
 でも、僕らは美しい理想を分かち合える。
 そんな気がした。

 あの張素ちゃんは今、どうしてるんだろう?

 昨年、Youtubeに近況の動画がアップされていた。

 彼女は、復旦大学に入り、早稲田大学に1年間の留学を経て、北京大学の大学院を卒業後、2012年から中國新聞社に入社し、ロンドンで記者をしているらしい。
 負けず嫌いで賢い彼女は、ジャーナリストになっていたのだ。

 より若い世代にとって、日本だの、中国だのという国家の枠組みは、遅かれ早かれ薄れてゆくだろう。
 どこで育とうと、どこで暮らそうと、新しい世代では子どもの頃から国境を越えて交じり合っていく。

 そうしたチャンスが国家の事情で妨げられることなく増え続けてゆけるなら、今日では想像もできない世界状況もやがて生み出していけるだろう。

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