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■「失敗してもよい居酒屋」で働くニートたち

 山形県米沢市のNPO法人 Withは、20132月、会員制居酒屋「結」をオープンした。
 もう、2年半以上、続いている。
 「結」のFacebookページには、「スタッフが某有名寿司チェーン店に就職できました」の報告が書かれている。
 
 同法人ではこれまでに学校になじめずに不登校やひきこもりになる小中学生から高校生を対象にしたフリースクールを運営し、高卒認定試験の合格や大学進学などの実績を作ってきた。
 子どもたちや若者の就労体験の場としてカフェ・レストランを手がけていたが、18歳以上の若者たちの就労トレーニングの場として居酒屋は「失敗してもよい場」がコンセプトになっている。

 開業資金は300万円程度かかる見積もりだった。
 だが、白石祥和代表によると、「150人以上の個人から寄付をいただきました」という。

「それまでに法人の主たる財源は、寄付ではなく、委託事業や助成金でした。
 初めてプロジェクトに対する寄付を募ったのですが、活動を随時報告していたフェイスブックを通して地域の市民が芋づる式に広めていただき、1人で1万円を寄付された方が最も多くいました。
 私たちの活動の趣旨をご理解いただき、若者を一緒に支援したい方のみ300円で会員になれて利用できる居酒屋ですが、1650人ほどの会員がいます」
2014517日時点)

 就労のトレーニングとしては、調理の衛生面、接客ノウハウなどで不定期に地元の居酒屋やリタイアした地域住民の方からの指導を受けている。
 トレーニングする若者たちの指導を行う職員の人件費は今のところ県が負担しているが、「ゆくゆくは事業として自立していかなければ」と白石代表は言う。

「長くても半年ぐらいでこの店を卒業できるように計画していて、週34日スタッフとして通ってくる方が多いです。
 オープンしてトレーニングを積んでから、56人がよそで働けるようになりました。
 まだニートという人は2人だけ。
 この居酒屋から民間のジョブトレなどを経て、ほとんど就労につながりました。
 コミュニケーションに不安を抱えている人や若者どうしがつながり続けられる居場所でありたい。
 就労した後に本当の壁にぶつかってやめてしまい、本人から連絡が来ないこともあるため、何かあった時の相談の場でもありたい」

 月に1回全体ミーティングがあり、若者たちも「こんな商品があれば売れるのでは」と発表。
 メニューや運営方法も一緒に考えている。
 今後は農業にも力を入れる。
 2013年度は、企業から支援を受けて、ニンニクやタマネギを作った。
 フリースクールでも、農作物を余していたり、ノウハウをもっている地域の農家と連携していく予定だ。

「2014年は、みんなで農業に挑戦。
 農業を底上げする意味でも、カフェ・レストランと居酒屋を運営できるようにしたい」




●一番ダメな人間をみんなで称賛する居酒屋があってもいい

 以上の記事は、昨年7月に「オルタナ」に書いたものだ。
 欠損BARが「欠損女子」の当事者によって運営され、客が予約満杯になったように、いろんな事情でニートやひきこもりになった人たちが居酒屋を開けば、彼らを応援したい家族や友人などを中心に集客できるだろう。

 美味しい酒や食事を提供し、丁寧なサービスをするのは、飲食店の基本的なスペックだ。
 つまり、それだけでは、飲食店の価値は「平均以下」にすぎないってこと。
 基本スペックに加えてどんな価値があるのか?
 そこに客は関心を持つし、他の店より選んでもらえる魅力がある。

 「結」の場合、ニートやひきこもりの当事者がいるだけで、関心を持つ人はいるはずだ。
 まだ支援団体に相談できていない当事者の家族、不登校の生徒を減らしたい学校関係者、求人広告にお金をかけたくない中小企業の経営者や、若者支援の現実を学びたい大学生やNPO関係者も、潜在的な顧客といえるだろう。

 こうした当事者の働く場所が、「失敗してもよい場」としてゆるく運営されてることは、ステキだ。
 実際、スローペースで接客してもらったり、客とつい話が盛り上がってしまう店員がいる方が、マニュアルで縛られ、そそくさと「お運びさん」をするチェーン店とは違った空気を醸し出すだろうから。

 「結」は、就労支援を目的にしてはいるが、同時に当事者の居場所としても機能させたいようだ。
 それなら、2号店を当事者だけで運営してもらうような試みがあってもいいかもしれない。
 10人も入れば満員の小さなスナックを経営するのは、それほど難しいことではないからだ。

 そこでは、就労支援ではなく、ニートやひきこもりならではの「当事者固有の価値」を存分に活かした仕組みがあるといい。
 たとえば、睡眠障害のスタッフが、接客中に突然、眠ってしまっても、そのこと自体が当事者の現実を知るというサービスとして価値があると位置づけるわけだ。

 それこそ、毎晩、その場のお客さんも交えて、「ダメ人間グランプリ」を試みると面白い。
 どれだけ自分がダメな人間かを1人ずつ語り、一番ダメな人をその場の投票で決め、優勝した人には全員が1000円ずつ払うことにする。
 スタッフと客を合わせて、その場にいるのが11人なら、1万円を総取りだ。

 客が優勝したら自分が払った飲食代以上の利益になるかもしれないし、スタッフが優勝したらその日の純利益以上にチップをもらえることになる。
 「失敗してもいい店」どころか、「失敗しまくってきた人間が報われる店」だ。
 一晩に3回「ダメ人間グランプリ」のトークが行われれば、3万円を手にする人も出てくるかもね。

 平日昼前の仕事現場では、「ダメじゃないこと」が絶賛される。
 だが、むしろ「ダメであること」が絶賛されるという価値の転換のあるところに、人々は癒しという価値を発見するはずだ。
 そんな店をニートやひきこもりの当事者たちが仲間を募って作ってみるのも、面白い人生の始まりじゃないかな?

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