深刻なのは、職員不足だ。
全国の医療職に「力を貸してください。この地の医療を守りたい」と呼びかけ、2014年2月から3月まで4回のバスツアーを受け入れると、都会などから計46人の看護師が見学に訪れた。
同病院の事務長の高野己保さんに電話で取材すると、こんな実情を教えてくれた。
「結果的に常勤・非常勤を含めて4人が来てくれましたが、バスツアーより私のブログやツイッター、テレビ番組などを見て来てくれた方が圧倒的に多い。
鹿児島や札幌、広島、京都など全国各地から来られた看護師の方もいて、買い上げた寮の部屋が満室になり、いわき市に新築の賃貸物件を作っているところ。
家賃は補助金で負担し、家電やお茶碗などまで用意し、身一つで来られるようにしています」
しかし、安心はしていられない。
「(昨年)5月9日現在、入院患者は内科で66人、精神科で39人。彼らに常勤97人と非常勤7人の看護師で対応しています。
震災前は看護職員だけで33人、そのうち9人が正看護師。
正看護師が21人、准看護師18人で39人。
『人は足りているじゃないか』とよく誤解されますが、39人のうち震災前から働いているスタッフは11人のみ。
21人の7割が他県から来られた方です。
当院では看護職員全体の4割が他県から駆けつけてくれた人材です。
そうした方々はご家族を地元に残しての単身赴任などの事情を抱えているため、みなさん1年単位での勤務を考えられており、最短1年で帰郷されます。
人材を地元で採用できないと、地域医療の存続が厳しくなります。
うちのような小さな民間病院は震災の記憶と共に人々から忘れ去られてしまい、経営も厳しくなります。
自治体からの補助金をもらえないまま、人材不足になる恐れがあるからです。
民間病院がまちに一つだと『なぜ助けるんだ』という声があり、支援が入りにくいのです」
●人手不足を解消する情報発信と広報戦略を経営者が学ぼう
高野病院については、『福島原発22キロ 高野病院奮戦記』(東京新聞編集委員 井上能行 ・著/東京新聞出版局)という本も参照されたい。同病院では今も、年齢不問(未経験可、新卒可)で職員の応募を公式サイトから受け付けている。
医療・看護・介護のスタッフはただでさえ不足がちだが、サービスの品質を保つためには人員確保が常に経営課題になっている。
高野病院については昨年「オルタナ」に書いた記事だが、今年は関東・東北豪雨で茨城県常総市の鬼怒川の堤防が決壊した水害も起こり、今後も震災や津波、台風や水害などの天災に見舞われる地域が全国で増えることになるだろう。
そうなると、OBの職員や、子育て中の方の現役復帰、あるいは海外からの人員調達などの仕組みをなるだけ早めに整備しておくことが、社会的課題になってくるのは必至だ。
生まれ育った故郷で暮らし、なじみの人に囲まれ、サービスを受けながらそこで死んでいきたいと願う人の気持ちを否定することなど誰にもできないからだ。
もっとも、へき地や海外の戦場での仕事になかなか人が集まらないのと同様に、被災地で働くことを決意するまでに大きな不安を抱える人は少なくないだろう。
病院は、緊急時にこそ切実に必要とされる。
それを「想定外」にせず、日頃から広く国民に訴えていく必要があるのだ。
高野病院のブログでは、こんな呼びかけもされていた。
「どなたか、『高野病院でご飯を作ってもいいよ!』という方、いらっしゃいませんかぁ?
『作るのは無理だけど、盛りつけならオッケー!』
『盛りつけは無理だけど、食器並べくらいならオッケー!』と言う方、
いらっしゃいませんでしょうか?
短時間でも、お好きな時間と曜日でも可能です」
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