青森県三沢市の青い森鉄道・三沢駅から徒歩5分。
「がんばるめん」というラーメン屋がある。
齋藤聖子さんが、2013年12月、発達障がいを持つ息子(当時16歳)と共に開業した店だ。
息子は、小学校高学年から不登校になり、高校受験の頃には鬱発症の診断まで出た。
そこで彼女は、高校進学を控える息子に、「高校に行く代わりにラーメン屋をやってみたらどうだろうね」と提案した。
息子は、少しだけほっとしたような表情をしたという。
もともと彼は、お菓子作りが趣味で、ケーキなどを作っていた。
そこで、息子の居場所と社会体験の場として、貯金をはたいてラーメン店を立ち上げることにしたのだ。
息子の高校進学は、本人の希望通り見送った。
齋藤さんには、ラーメン店で修業をした経験はない。
それでも、「私の子どもに食べさせたいラーメンをお客様にも賞味していただきたい」と、食材はなるべく近くで生産されたものだけを使うことにした。
麺作りで使う小麦粉は、岩手県盛岡周辺で栽培されている「南部地粉」。
練り混ぜるカンスイは、青森県の陸奥湾ホタテ貝の貝殻を焼成したカルシウム粉末を使用。
スープは八戸産煮干しで作り、チャーシューの代わりに三沢市で販売されているパイカ肉(胸の軟骨部分の肉)を採用した。
青森県産のゴボウを使ったノンカフェインのコーヒーも提供し、「お通じが良くなった」と評判だ。
店舗は、古い住宅を改装。
電気、水道工事と内装下地材までを業者に頼み、残りの内装は息子と一緒に作り始めた。
資金が足りなかったこともある。
だが、「息子にモノづくりの適性があれば、どこかで心の琴線に触れるかも」という思いもあった。
夏から作業を始めたが、木工の経験も知識もなかった。
そのため、ネットで一から調べ、ゆっくりと進めていった。
シックハウスの元になる素材は可能な限り排除し、取り外した木材などを再利用。
床の塗装には柿渋と荏油を使用するなど、「できる限り人の手で作った物だけで作り上げたい」との思いが込められている。
来店したブロガーからはこんな意見も寄せられた。
「シンプルな醤油ベースで、すっきりとした味。こ、こりゃ美味い。
どことなく津軽ラーメンを思わせる味。
背脂ギトギトのラーメンと違って、オジさんの体には優しい」
●「恥ずかしい子」とは、高学歴を活かす場所を知らない子
母親の聖子さんは、「私たちと同じように悩んでいる親子たちにこの店を開放し、NPOを立ち上げて就労支援の機会を増やしていきたい」と、不登校とひきこもりを考える親の会を運営している。
がんばるめんのFacebookページでは、「親の会」のようすを以下のように伝えている。
とても素直な気持ちを書かれているように感じる。
なんてステキな母親だろう。
「会を必要としているのは自分です」と、親が自分自身のとまどいや悩み、不安を告白するところに、僕は感動を覚えた。
子どものことで悩んでいる親は、少なくない。
でも、わが子が「ふつう」から逸脱することを「恥ずかしい」と感じ、世間からのまなざしの冷たさの前に一人で耐えていることが珍しくないのだ。
そのように耐え忍ぶことは、不当なガマンだ。
子どもがどのような人間であれ、世間が勝手に「逸脱した存在」としてあれこれレッテルを貼りたがるのは、世間のまなざしの方がおかしいからだ。
おかしいものは、変えていくしかない。
それを気づかせてくれたのは、子どもなのだ。
どんな子であろうと、幸せになる権利がある。
「障がいをもっているから人並には働けない」という声には、「では、誰もが人並に働ける仕組みをあなたは作ったの?」と問い返してやろう。
そもそも、「人並に働く」ことだけが生きる価値なら、どんな人も病気やケガ、犯罪や震災などに見舞われた時に、この社会に生きる価値を失ってしまう。
そんなバカなことがあるもんか。
人は、どんな人生を生きようが、自由なのだ。
バイクで暴走したら逮捕されてしまった10代も、いろんな事情で売春しながら生きている少女も、貧困家庭で育って低学歴にならざるを得なかった少年も、育ててくれる親がいないために養護施設で暮らしている子どもたちも、世間の側が作り上げた「高学歴→高所得」(低学歴→低所得)という仕組みを強いられて「弱者」のレッテルを貼られた被虐待児のようなものだ。
日本はつい最近やっと2人に1人が大学に進学するようになったが、高学歴になれずに高所得を強いられている存在について、高学歴で高所得の仕事をしている余裕のある方々は、何も「やましさ」を感じないのだろうか?
高学歴には、高学歴なりの生きづらさもあるだろう。
しかし、そこに居直って、低学歴層の文化に関心も持たず、いつまでも「お前も大卒者にしてやろう」という構えで「支援」をしたがるなら、それは自分の幸せを他人に押しつけているだけなのだ。
「がんばるめん」で働く息子さんが、そのままでもさまざまな友人を得て、お互いに助け合いながら生きていける社会を実現していくためには、息子さんしか持ち得ない「当事者固有の価値」を発見することが、高学歴層の仕事になるだろう。
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