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■売れ行き不振の雑誌が生き残るための3要素

 東京・渋谷区の「アイア株式会社」という出版社は、20152月までの約1年間に販売した「クロスワードパクロス」などの8つの雑誌で、「現金や旅行券が当たる」などと記載した。

 雑誌に載った当選者数は、約1万2000人。
 ところが、実際に景品が届いたのは6000人ほど。
 それ以外は実在しないうその名前を掲載するなどしたり、実際の当選者が1人もいない時もあった。

 そこで、消費者庁が景品表示法違反にあたるとして改善命令を出した。
 問題になった雑誌の発行部数は約189万部もあったが、アイアは「予算が足りなかった」とコメント。
 特に比較的高額の景品が送られていなかったという。
(以上、Yahoo!ニュースより)

 189万部も累計で売れていても、懸賞品が送れないとは、どれだけ高額な懸賞だったのだろう?
 いずれにせよ、高い景品をちらつかせ、読者をつなぎとめようとしたのだろう。
 出版業界において、これと同様の不祥事は、これが初めてではない。

 20138月に、秋田書店の漫画雑誌の読者プレゼントの当選者が、50人のはずが、3人だった。
 消費者庁は発行元の秋田書店に対して、景品表示法違反(有利誤認)として措置命令を出した。
 しかも、「水増し」を告発した30代女性は告発後に解雇された。
 そこで、同社に対して解雇の取り消しと損害賠償などを求める訴訟を起こした。
 今年(2015年)1028日、やっと女性に120万円を払うことで和解が成立したのだ。

 雑誌自体は売れているのに、「予算が足りなかった」。
 不正を内部で改善できにから告発したら、解雇。
 出版社って、雑誌が売れなくなれば、「貧すれば鈍する」を地で行くのか?

 講談社が発行し、創刊10周年を迎える月刊誌「COURRiER Japon」(クーリエ・ジャポン)は、2016225日発売号で廃刊し、デジタルベースの有料会員制コンテンツサービスとして生まれ変わるそうだ。
 廃刊の理由は、「クーリエ・ジャポン」の告知文によると、以下の通り。

「ネット環境の変化とともにWebメディアが数多く誕生した現在、月に一度、紙の雑誌で情報を届けるというモデルが読者のライフスタイルにそぐわなくなった」
 
 本当にそうだろうか?



●市場ニーズに忠実なネット記事より、文化を作り出す仕事に誇りを

 確かに、雑誌は、休刊・廃刊が相次いでいる。
 それは、中高年以上の読者層が高齢化し、視力低下で購読の習慣から離れていったことにも一因があり、これは新聞離れ・出版不況の一因でもある。

 しかし、それでも売れ続けている雑誌や新聞がまだしっかりある現実を見据えれば、「紙の雑誌で情報を届けるというモデルが読者の利府スタイルにそぐわない」という理屈は、言い訳めいている。

 そもそも、「雑誌が売れない」という嘆きを聞いて久しい。
 10年以上前から、業界内でそういう声は聞こえていた。
 そして、はっきり数字に出ている。

 では、読みたい記事を提供できていたか?
 オンライン・サービスとの連動やまったく新しい仕掛けで紙の出版物を買ってもらえる仕組みは作ったか?
 どちらも、とても十分とは言えないし、イノベーションを起こした例も聞かない。

 僕自身、25年も出版業界にいて、雑誌もいまだに少し書いてはいるが、読者としてはほとんど読まない。
 読みたい記事がないからだ。
 雑誌が売れないのは、これに尽きると思う。
 商品としての価値が見込めないものを、進んで買いたがる人はいない。

 今後も商品価値のある紙の雑誌がまだしばらく生き残れる根拠は、いくつもある。
 それは根拠であると同時に、雑誌編集者が解決すべき課題でもある。

 一つは、取材にかける経費だ。
 オンラインの記事では、フリーライターが執筆する原稿を1本5000円~1万円で買い切ってしまう上に、取材にかかる交通費や飲食費、資料代などの経費が基本的に支払われない。
 他方、有名な雑誌なら1ページ1~4万円の執筆ギャラに、最低限度の取材経費は編集部から出る。

 オンラインニュースの編集部は、雑誌を超える取材の深さや精度、商品価値を生み出せる仕組みを、まだ作っていないのだ。
 これでは、半信半疑で情報の薄い記事を読み、確認のためにググりながら信憑性を見積もらないと、本当のことはわからない。
 つまり、ネットが雑誌に信憑性で勝つには、ビジネスモデルを変える必要があり、それにはまだ数年の時間が平気でかかるため、雑誌が十分な経費をかけて商品品質を守れば、まだ持ちこたえられる。

 2つめの根拠は、潤沢な経費を払うのを前提に、時代に見合った商品価値たりうる記事を収録することだ。
 これはとても基本的なことだが、時代の変化に雑誌編集者がついていってないのは、明らかだ。
 実は、このことのほうが致命的なことかもしれない。
 「雑誌」は文字通り雑多な情報が載っているものだが、そのチョイスのセンスに「遊び心」がないと、偏狭になりかねない。

 有名性や売れ筋に後からついて便乗するだけの発想で編集するのは、「良い子マニュアル」の社員の得意技だが、実は雑誌とはそもそも不良文化なのだ。
 これには、常識にとらわれない発想力や、それを養う日ごろの遊びが編集者自身に問われる。
 遊んでいれば、よのなかには実にいろいろな人生や生き方の人間がいることがわかるし、そうした出会いによって雑誌を構成する「多様な視点」を獲得できる。

 この雑多な視点こそが時代の風向きを読む感性を育て、読者と「同時代感」を分かち合うのに寄与する。
 しかし、最近では知らない相手からの企画の売り込みを歓迎することもなく、アポなしの訪問を面白がることもない。
 きっちりしすぎた暮らしの中で、自分の知らない現実に気づかされるワクワクをどうやって醸成できるだろうか?

 3点めは、出版とは文化を作り出す仕事であることを思い出すことだ。
 これは、週刊プレイボーイを100万部にまで伸ばした伝説の編集者・島地勝彦さんからの受け売りだ。

 週刊プレイボーイといえば、ヌードグラビアを載せながら、片方で政治や経済などのカタイ記事まで読ませる「雑誌」だ。
 島地さんが仕事をしていた1970年代は、今東光さんという70代の人気作家に人生相談コーナーを預け、大人気マンガ家の本宮ひろ志さんのマンガ『俺の空』を連載させていた。

 現代でいえば、『ワンピース』の尾田栄一郎さんを口説いて連載させたり、村上春樹の連載を引っ張ってくるようなものだ。
 「それができたら面白いじゃないか」と思ったら、やっちまう。
 それが、雑誌編集者というものなのだ。
 だから、読者がついてきたのだ。

 自分が本気で面白いと思うなら、それまで「ありえない」とみんなが思うような現実を作ってしまう。
 それが、文化を作り出すってことだ。
 それが、編集者もライターも読者もみんなが求めるクリエイティブってもんだ。

 島地さんは、新宿の伊勢丹メンズ館にサロンを開いている。
 雑誌編集者、諸君。
 足を運んでみようじゃないか。
 金や、売上や、〆切の前に、「雑誌」について語るべきことが、僕らにはあるはずさ。

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