「極めて普通だった。
いや、駄作だと言ってもいい。
というか、カンチとリカの現在のルックスにがっかりというか。
これもまた現実なのだが」
これは、ビックコミックスピリッツに特別読切として掲載されたマンガ『東京ラブストーリー ~After 25 years~』に対する常見陽平さんの感想だ。
それで、さっそく読んでみたのだが、僕の感想は逆だった。
僕は50歳で、カンチと同い年だ。
バブルの頃にリアルタイムでマンガもドラマも見ていた世代に相当する。
ネタバレになるので詳細は書かないが、娘がつきあってる恋人がリカの息子だと知ったカンチがリカと再会する筋立てだ。
今回の新作は、まるでこの新作のために25年前のドラマが伏線として存在していたかのように、きっちりリカとカンチの関係に決着をつけている。
結婚するだの、別れるだのという表面的な決着ではなく、男女関係がどうしてもその先に進まない「巡り合わせ」の妙をきちんと描いているのだ。
25年前のドラマでは、女性の方から「ねぇ、セックスしよ」と声をかけるリカのセリフに注目が集まっていた。
25年前に「肉食系女子」を先取りしていたのではなく、むしろ逆だったから「女の方から声をかけること」が話題になったのだ。
でも、僕は当時から違和感を覚えていた。
「女にそれを言わせる前に、なんで自分から言えないの? 気づかないの?」と。
●男たちよ、自分自身の失敗から学ぼう。失敗を怖がるな
アフリカ育ち(※ドラマではアメリカで生活していた帰国子女)で自分自身に素直に生きている開放的なキャラのリカの性格に驚いてばかりいないで、内気な自分の自意識にとらわれずにリカをちゃんと見ようとしていれば、「こんな魅力的な女、なかなかいない。手放してはいけない」と気づいたはずだ。
しかし、カンチには、いや、多くの男たちには、若さゆえにそれができない危うさがあることを、どうしようもなく認めざるを得ないことを、「新作」は見事に浮き彫りにして見せたのだ。
未来にどんな困難が待ち受けていようと、今ここにある関係の確かさによって二人で一緒に解決していこう。
そうした覚悟を共有できなければ、どんなに親しい間柄でも結婚には進まない。
覚悟の共有がなければ、結婚しても時限爆弾を抱えるようなものだから破綻は見えている。
『東京ラブストーリー』は、時代状況と共に語られる必要もある。
バブルが弾けることなど想像すらできない頃にドラマ化されたことで人気も出たが、その後の日本はバブルが弾け、がんばってもなかなか結果の出せない仕事に悩み、地方移住や就農でスローな生き方へ変えた人も、僕の世代では珍しくない。
しかし、農園婚活をプロデュースするなど、リカの方がカンチより時代の半歩先を歩いている。
たいていの男はいつも女より遅れているのだ。
大事なものに気づくのも、遅いのだ。
気づいても、覚悟するのに疲れたところで安心できる女を選んでしまったりもする。
この「新作」、50歳の男性読者が読めば、かなりズキズキと胸に来ると思う。
何も感じないとしたら、この25年間に何も学んでいないってことだ。
踏み絵のようなスパイシーな問題作を、柴門ふみさんは描いてみせた。
一読する価値は十分以上にある。
スピリッツという男性誌に発表されたことは、より若い世代の男への警鐘であることも付記しておこう。
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