全国に先がけて高校中退者の受け入れ制度をつくったことで知られる北星学園余市高校(北海道余市町)が2017年度を最後に生徒募集を停止し、2019年度末に閉校する方向で検討していることがわかった。
同校は「ヤンキー先生」こと義家弘介・文部科学副大臣の母校。
同校は1965年に開校。
88年に中退者の転編入制度を導入し、全国から生徒を受け入れてきた。
北星学園によると、転編入を受け入れる高校やフリースクールが増え、定員140人に対し今春の入学者が41人にとどまるなど、ここ数年は定員割れが続いていた。
今年(2016年)2月20日には、「CHRISTIAN TODAY」に以下の続報が載った。
日本基督教団余市教会(余市郡)は16日、北海道キリスト教学園リタ幼稚園と共に昨年12月16日付で北星学園理事長・理事会・評議員会宛てに出した同校の存続を求める要望書を、同教会の公式サイトで公表した。
「キリスト教主義教育を志す北星学園余市高校をわたしたちは全力で支えます!」と、余市教会のホームページやそのリンクサイトには大きな太字で記されている。
余市高校は昨年12月14日、「メディア報道と学園の方針を受けて」と題する二つの文書を公式サイトに掲載。
受験生とその保護者向けの文書には、こうある。
「北星学園は、2016年度春の入学生が90名に満たない場合、2018年度入試の生徒募集から募集停止措置をとる方針を持つこととなりました。
これは決定事項ではなく、あくまで学園運営の方向性を決める常任理事会がそのような方向性を持ったということ。
この後、学園内の決定機関での審議を経る性質のもの」
また、同窓生・PTA・PTAOB向けの文書には、次のように記されている。
「90名を集めることは、近年の入学者数の動向から考えると難しいことではありますが、教職員はこの決定に対して諦めの気持ちは一切ございません。
北星余市の教育は、不登校や高校中退、非行、ひきこもりなどを経験した子ども・若者たちが、人との関わりの中で社会的力を身につけ、巣立っていく教育。
この教育の灯を守るためには、90名を集めるという手段しか残されておりません。
母校を救うため、今一度お力をお貸しいただければ幸いです。
お知り合いで子育てに悩まれている方がいらっしゃいましたら、本校の存在をお知らせください」
同校は全国約300カ所以上で教育講演会・相談会を開催中。
開催日程や会場など詳しくはこちら。
2015年春の入学者は、たった40名。
母体となる北星学園の理事は、「1年ごとに1億円を超す赤字」とTBSテレビの「報道特集」で説明した。
不良生徒が多かった1988年から、北星余市は高校中退者や不登校の生徒の受け入れを始めた。
当時、新任の教師だった安河内敏さん(※現・校長)以外に、当時の教師は1人も残っていない。
その安河内さんが廃校を回避するために味方にしたのは、生徒会長の小林毘鞍(こばやし・びあん)くんだった。
彼はラップを自作していた。
そこで、安河内校長は小林くんに学園生活をテーマにした歌作りをお願いした。
「報道特集」では、生徒減少について以下のように報じていた。
高校中退者は、11万6617人(1988年)から5万3403人(2014年)と半減している。
だが、不登校の小中学生は、6万6817人(1992年)から12万2902人(2014年)と倍増している。
地元の学校に通えなくなっているのに、「貧困の問題が大きくて、(余市に)行かせたいけど行かせるお金がない」(校長・談)そうだ。
北星余市高の生徒の9割は、余市の市内に下宿している。
下宿代(家賃)は、6万8000円(平均)。
これに、授業料2万9400円を加えると、毎月9万7400円を親が負担することになる。
現時点の生徒の親の4分の1が、母子家庭、非正規労働者などの所得の低い「非課税世帯」。
通学している生徒たちも、小遣いや生活費を捻出するため、アルバイトせざるを得ない。
一昨年、北星余市高では、非課税世帯の生徒に対して入学金免除を始めた。
下宿代の半額程度を賄える奨学金もある。
それでも不登校の子を呼びこむことが難しくなっているという。
そんな北星余市高では、入学してきた生徒がどう変わったのかを、生徒たち自身に尋ねた動画を公開している。
この動画を見てるだけでも、北星余市高に通う生徒たちが、同校での教育や生活、体験に対して満足度が高いことがわかる。
しかも、彼らを受け入れる寮母のみなさんや、教職員、かつての生徒やその親たちも含め、北星余市高の存続を望む熱い声は高まっている。
僕にも、同校の卒業生の友人がいる。
同校が毎年のように定員割れし、存続が危ぶまれていることを、何年も前から聞かされてきた。
せっかく共感者がいるのに、高校自体が経営再建のノウハウが足りないのでは、母体となっている北星学園が億単位の赤字を理由に廃校を迫る商売の論理に勝てないだろう。
そこで、再建策をこのブログを通じて、多くの人と考えてみたい。
いったい、どんな打開策があるのか?
●生徒が地元や全国の企業と組めば、「稼げる人材」に育つ
まず、北星余市高の社会的価値の大きさを考えてみよう。
同校が生徒を受け入れなくなったら、入学できていたら自殺や犯罪に至らなかった子どもが、やむにやまれず自殺や犯罪に走る危険を残すことになる。
それは、その子の家族だけでなく、その子が暮らす地域社会にも迷惑をかけるかもしれない。
もちろん、暴れる子や自傷行為に及ぶ子は、そうしたくて、そうしてるんじゃない。
自分でもどうしようもないから、自殺や犯罪をしてしまうのだ。
自分でもどうしようもなく問題を引き起こしてしまう子どもにとって、北星余市高の存在は真っ暗な孤独の穴に差し込む、たった一つの光かもしれない。
それが失われることは、日本全国でくすぶっている10代の社会に対する不信感を爆発させる引き金にすらなってしまう恐れがある。
北星余市高が20年以上の長い年月をかけて築いてきた独自の「人間力」的な指導には、既存の教育では解決できないノウハウがあるはずだ。
それを残し、次世代に継承し、他の多くの学校の教職員に学んでいただくためにも、北星余市高は、当事者の子どもだけでなく、日本社会の全体にとって大きな存在価値がある。
北星余市を存続させることは、日本全国にいる「居場所のない若者」を自殺や犯罪へ走らせない仕組みを守ることなのだ。
ただし、現状の問題の核心は、端的に経営上の資金不足にすぎない。
金で解決できることなら、真っ先に必要なのは、経営者を安心させることだ。
財務のプロの方なら、このページ(←クリック)にある北星学園グループの事業報告を分析してみてほしい。
北星余市高を経営してきた母体である北星学園が、北星余市高の経営面でどの程度の裁量権を現場の安河内校長に委任しているかは、わからない。
だが、短期・中期・長期で解決策を考えるなら、以下の試みが有効なのではないか?
まず、短期的な課題として、年間1億円の赤字がある。
せめてその半分だけでも、日本全国の財団に緊急支援してもらうのはどうだろう?
たとえば、日本財団は少年院出院者や刑務所出所者の再犯防止を目指し、企業と連携して少年院出院者や刑務所出所者に就労機会を提供する支援策「職親(しょくしん)プロジェクト」を関東・関西地域に次いで九州地域でも実施している。
この職親プロジェクトは少年院出院者や刑務所出所者の円滑な社会復帰を支援するとともに、1997年以降上昇傾向にある再犯者率の低下の実現を目指し、立ち上げた民間発意による取り組みだ。
少年院や刑務所内で採用活動を行い、企業が職場と住居を提供、矯正・更生保護関係者はじめ、社会資源と連携することで、「みんなで一人を支える」という新たな支援スキームを実現するという。
それならば、北星余市高の存続を支援すれば、少年の時点で再犯防止になるため、社会復帰そのものを容易にできるようになる。
日本財団にとっても、2000万円程度の寄付を提供する価値は大いにあるだろう。
「寄付のプロ」を自称してる日本ファンドレイジング協会に相談してもいいかもしれない。
北星余市高を寄付で建て直せたら、同協会にとっても社会的信用を獲得できる。
支援者は、ソフトバンクやGoogleなどに直接交渉に行くぐらいのことはしてほしい。
北星余市高は、日本にとってそれだけ大きな社会的価値があるのだから。
どうしても足りない分は、クラウドファンディングで調達してもいいだろう。
見返りとして、生徒やOB、保護者から感謝の手紙を送るだけで十分だ。
次に、中期的な課題として、慢性的な資金不足の解決を考えてみたい。
入学者を1人でも増やすために、低所得の家庭が安心して入れるよう、下宿代や授業料を年間100万円程度代わりに出してくれる「北星余市あしなが基金」を立ち上げてはどうか。
顔の見えない学校法人に寄付するよりも、「この子の育った家庭環境はこんな具合」と具体的に貧困の窮状を訴えれば、寄付は集まりやすくなる。
校内で弁論大会をやってるぐらいだから、具体的な事例を話してくれる生徒もいるはずだ。
顔の見える寄付は、寄付金アップのセオリーだ(※べつに名前を出す必要はない。卒業後に本人の意志で寄付者に挨拶に行けばいい)。
日本では、年間100万円程度ならポンと出せる富裕層や企業が少なくない。
そうした個人・法人が100あるだけで、100人の入学者が確定する。
そういう試みは、テレビや新聞などで北星余市高の窮状を知った全国の有志にとっては、自分のできるささやかな支援になる。
従業員が1000人規模の大企業なら、1人あたりたった1000円を出すだけで、1人の子を1年間高校へ通わせることができるのだ。
しかも、自分たちの住む地域の少年犯罪を減らす一助ともなる。
自殺できずに無差別大量殺人をしてしまう若者による事件の被害者も減らせるかもしれない。
寄付で通学できる生徒になれるかどうかは、2年目も3年目も寄付の恩恵を受けるためには一定の学業成績が考慮されることにすれば、学習意欲を担保するインセンティブになる。
こうした新たなアクションは、卒業生やその親、現役の生徒のPTA、寮母さんなど「学校の支援者」で新たにNPO法人や一般社団法人を設立し、その新団体に集めた多額の寄付を、北星余市高の運営コストを賄う資金として提供するといい。
それなら、僕が運営している「学術書チャリティ」も活用できるかもしれない。
そして、長期的な解決には、生徒たちと市内・道内の企業が連携し、新しい商品やサービスを開発できる授業を作り出し、「稼げる人材」になるための実践的な起業教育を施す必要があるだろう。
北星余市高の慢性的な資金不足は、単に生徒数が足りないという問題に起因するのではなく、教職員にも生徒にも親にも「稼ぐ技術」が足りないという致命的な問題に起因する。
ただ高校を卒業するのではなく、卒業後は生徒たちが余市市内でどんどん起業するようになれば、余市の市民も歓迎するだろうし、何より生徒の親たちが安心するだろう。
今日の日本では、全国の高校生たちが、親や教師に教わらなくても起業している。
和歌山の元ひきこもりの高校生は、地元にほりえもんを招いたイベントを開催し、入場料3000円☓500名の集客動員で、150万円の粗利を手にした。
こんなことは、どこの田舎町でもできることだ。
三重県多気町には、高校生レストラン「まごの店」で有名になった県立相可高等学校がある。
その高校の生産経済科の生徒たちが立ち上げたNPO法人「植える美ING」は町内企業の万協製薬株式会社と組み、高校生の企画するハンドクリームの製造を実現した。
ハンドジェルを作るに当たっては、多気町の農産物を成分に入れ込むことを条件に生徒
たちがハンドジェルのコンセプトからパッケージデザイン、ネーミング、入れ込む成分まですべてをプロデュースし、利益の一部はもちろんNPOに入る。
初期費用がかからないビジネスなんて、いくらでもある。
北星余市高で人生をやり直せた生徒たちを、講演会の講師として全国の教育研修会に有料で派遣する事業だってできるだろう。
自分自身が苦しんで得た学びを人前で披露することで、その対価としてのお金を得る。
それは誇らしい仕事になるはずだ。
そういう最先端の若者たちの試みを、僕は『よのなかを変える技術 14歳からのソーシャルデザイン入門』(河出書房新社)という本に書いている。
すでに、全国の教職員がソーシャルデザインを教える際の副教材としてまとめ買いしている。
北星余市高には、さまざまなビジネススキルをもった若者たちが入学している。
生徒たちこそが、新しいビジネスを作り出せる大きな資産だ。
そこに投資する企業が現れてもおかしくない。
試しに、以下のラップを聞いてみてほしい。
前述の生徒会長・小林くんが、北星余市高で得た学びを歌にしたものだ。
ネット配信でもいいから、尊敬するプロと組んでオリジナルトラックで商品化してほしい。
それが「仕事を作る」ということだから。
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