約2年間に及ぶ一連の「わいせつ」表現をめぐるこの騒動は、端的に面白い。
「面白い」という形容が、一番ふさわしい気がするのだ。
2014年7月、ろくでなし子さんが自分の女性器を3Dプリンタ用データにし、活動資金を寄付した人たちにデータ送付の形でダウンロードさせたとして、警視庁はわいせつ物頒布等の罪などの疑いで逮捕。
同年12月にも、わいせつ物公然陳列の疑いで逮捕された。
東京地検は彼女を起訴し、公判で罰金80万円を求刑した。
ろくでなし子さん自身は、一貫して「私の作品はわいせつではない」「性欲を刺激するために作品を作ったわけではない」と主張し続けている。
彼女の作品や逮捕劇、わいせつに関する考えなどは、彼女自身が書いた『ワイセツって何ですか? 「自称芸術家」と呼ばれた私』(金曜日)や『私の体がワイセツ?!: 女のそこだけなぜタブー』(筑摩書房)などの本を読んでみてほしい。
そもそも、ろくでなし子さんが逮捕されるきっかけになった「3Dプリンタ用データ」によるアート作品作りはどういう意図で始まったのか?
彼女自身の語っていた約7分間の動画を見てみよう。
2013年6月に作品制作の資金を集めるために公開されたものだ。
公判で検察側は、「作品」の展示について「性器を公然に露出したことと同じだ」と指摘。
検察幹部は、「性器の鮮明な写真は誰でも違法と気づく。それを立体化しただけ」と説明。
一方、ろくでなし子弁護団の山口貴士弁護士は「インターネットに性的刺激物があふれる時代に、一目では性器だと分からない作品のわいせつ性が強いと言えるのか」と強調した。
この法廷闘争における検察の言動のトホホぶりは、「保守的メディア」であるはずの産経新聞グループのiRONNAにろくでなし子さん自身がレポート記事を発表し、逐一明らかになった。
もっとも、こうした法的な決着の次元を超えて、逮捕以降、ろくでなし子さん自身の身辺状況が劇的に変わったことの方がはるかに面白い。
ろくでなし子さんは、2014年7月に外国人記者クラブでの会見でも「MANKO」を連発。
その後、前述の2冊の本を発表し、国内外からのマスメディアからの取材も殺到。
英語版のwikipediaでも紹介されることになった。
●判決が「半ケツ」ぐらいにしか思えないほど、人生は変わる
2015年3月、ろくでなし子さんはアメリカのニュースサイト「artnet
news」で“社会のタブーを打ち破る10人の女性アーティスト”に選ばれた(※本名のMegumi Igarashiと表記)。
すると、同年11月、イギリスのバンドThe Waterboys の Mike Scottが、ろくでなし子のテーマソング『ROK ROK
ROKUDENASHIKO』というオリジナルソングを発表。
(Youtube画面のタイトルが「ROKUDENADHIKO」となっているあたりもご愛嬌)
しかも、今年(2016年)に入ると、4月19日にろくでなし子さんはマイクとの婚約を発表!
今秋には結婚の予定で、その後はマイクのいるアイルランドに移住し、活動を続けるという。
たかが「まんこ」のアート作品の陳列やデータ提供で逮捕されたり、裁判沙汰になってしまうというマンガのような展開は、ろくでなし子さんに痛快かつ劇的な人生をもたらしたのだ。
一連の流れを見ると、「まんこ」が世界共通の話題としてどれだけ広く注目されるかに驚かされる。
極東の日本で行われていることも、それが世界共通の関心事である場合、オンラインニュースとして世界中の人々の目に触れる。
そして、どこかの国の誰かが反応し、新しい現実が生まれる。
そういう時代に僕らは生きていることを、ろくでなし子さんの作品や騒動は改めて教えてくれた。
この時代にムーブメントが生まれる素地があることを、彼女は身を持って示してくれたのだ。
日本国内でも、フェミニズムの重鎮・上野千鶴子さんが、朝日新聞でろくでなし子さんの作品について以下のように論評している。
もっとも、僕がろくでなし子さんの騒動の中で一番適切に評した文章にふれたと思ったのは、柴田英里さんの言葉だ。
彼女はろくでなし子さんのまんこ作品の「バカバカしさ」を指摘し、『ワイセツって何ですか? 「自称芸術家」と呼ばれた私』(金曜日)に収録された対談では「ポルノから性器を脱臼させた」と述べている。
赤塚不二夫的なバカバカしさは、同調圧力的な正義の旗より強いのだ。
少なくとも、多くの人たちを巻き込み、社会に生きやすさを作り出す表現としては。
それにしても、本来、歴史的に性のタブーがないほど性の文化におおらかだった日本は、どこへ行ってしまったんだろう?
授乳すら人前ではできず、「ちんこ」には寛容なメディアは「まんこ」だけ一方的に神経質になり、「人権侵害」の名の下にAVや風俗を非合法化したがる法曹関係者も出てきている。
毎日新聞によると、「わいせつ」について最高裁は1957年、小説「チャタレイ夫人の恋人」を巡る裁判の判決で、いたずらに性欲を興奮・刺激させる▽一般人の正常な性的羞恥心を害する−−などの判断基準を示しているという。
表現の自由の問題に詳しい五十嵐二葉弁護士は「わいせつだとして罰せられる範囲が狭まりつつある。データ配布の違法性は、3Dプリンターにかければわいせつ物になると購入者が認識していたかが一つの判断基準になるのではないか」とみている。
判決では、データ転送で有罪、作品陳列では無罪となり、罰金40万円の支払いが命じられた。
ろくでなし子さんは、これを不服として即日控訴した。
高裁がどう判断するかは、わからない。
逮捕をきっかけに劇的に動き出したろくでなし子さんの人生は、これからも続く。
そして、僕らの日本社会も、世界中の人々と関心を分かち合う形で変わっていく。
「今、ここ」を生きることは、世界と個人が同期してるってことなんだ。
それは、あまりにおかしく、かつ想定外に面白い時代状況になってるってこと。
最後に、ろくでなし子弁護団でシンガーソングライターの藤元達弥・弁護士が歌う 『ワイセツって何ですか?』を聞いて、この騒動をしめくくろう。
このギター1本で歌うのほほんソングが、一連の騒動の終わりにはふさわしい。
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この時代にムーブメントが生まれる素地があることを、彼女は身を持って示してくれたのだ。
日本国内でも、フェミニズムの重鎮・上野千鶴子さんが、朝日新聞でろくでなし子さんの作品について以下のように論評している。
もっとも、僕がろくでなし子さんの騒動の中で一番適切に評した文章にふれたと思ったのは、柴田英里さんの言葉だ。
彼女はろくでなし子さんのまんこ作品の「バカバカしさ」を指摘し、『ワイセツって何ですか? 「自称芸術家」と呼ばれた私』(金曜日)に収録された対談では「ポルノから性器を脱臼させた」と述べている。
赤塚不二夫的なバカバカしさは、同調圧力的な正義の旗より強いのだ。
少なくとも、多くの人たちを巻き込み、社会に生きやすさを作り出す表現としては。
それにしても、本来、歴史的に性のタブーがないほど性の文化におおらかだった日本は、どこへ行ってしまったんだろう?
授乳すら人前ではできず、「ちんこ」には寛容なメディアは「まんこ」だけ一方的に神経質になり、「人権侵害」の名の下にAVや風俗を非合法化したがる法曹関係者も出てきている。
毎日新聞によると、「わいせつ」について最高裁は1957年、小説「チャタレイ夫人の恋人」を巡る裁判の判決で、いたずらに性欲を興奮・刺激させる▽一般人の正常な性的羞恥心を害する−−などの判断基準を示しているという。
表現の自由の問題に詳しい五十嵐二葉弁護士は「わいせつだとして罰せられる範囲が狭まりつつある。データ配布の違法性は、3Dプリンターにかければわいせつ物になると購入者が認識していたかが一つの判断基準になるのではないか」とみている。
判決では、データ転送で有罪、作品陳列では無罪となり、罰金40万円の支払いが命じられた。
ろくでなし子さんは、これを不服として即日控訴した。
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逮捕をきっかけに劇的に動き出したろくでなし子さんの人生は、これからも続く。
そして、僕らの日本社会も、世界中の人々と関心を分かち合う形で変わっていく。
「今、ここ」を生きることは、世界と個人が同期してるってことなんだ。
それは、あまりにおかしく、かつ想定外に面白い時代状況になってるってこと。
最後に、ろくでなし子弁護団でシンガーソングライターの藤元達弥・弁護士が歌う 『ワイセツって何ですか?』を聞いて、この騒動をしめくくろう。
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