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■セックスワーカーが本当に求めている法律とは?

 TEDといえば、日本ではマスメディアに取り上げられた有名人がスピーチする”意識高い系”の演説会のようになっている。

 だが、本家のアメリカやイギリスでは、まだ多くの人に知られていない社会的価値の高い内容を話せる人を発掘し、知らなかったことの奥深さを伝える貴重なチャンスを作り出す場になっている。

 志の低い日本のTEDでは積極的には発掘されないだろう話題の一つに、セックスワークがある。

 イギリスで開催されたTEDでは、「セックスワーカーが本当に求めている法律」という提言を、セックスワーカーであるトニ・マックさんが2016年1月にロンドンでスピーチした。

 セックスワーク(売春)で働く当事者が、名前も顔も世界にさらしても人前で話さなくてはならない深刻さに思い当たってほしい。

 既にMoe Shojiさんによる日本語訳が発表されたが、句読点がなく読みにくいのを直し、わかりやすく独自の見出しをつけ、専門用語に注釈や参照リンクをつける形で全文を紹介したい。

 この話は、セックスワーカーの権利主張だけを意味しない。
 おかしな法律や制度のままセックスワークを取り締まり続ければ、性病が家庭に蔓延して妻子が病気や障害を負ったり、人身売買や飢えによる自殺が増えるなど、深刻な事態がセックスワークに無関心なあなたやあなたの大事な子どもに回ってくるのも時間の問題だからだ。

(※キャプションを他の言語に変えたい時は、画面の右下にある四角のアイコンから選択)

 以下、トニさんの発言。

■法律で取り締まれば、売春が減るという勘違い

 お金のためのセックスについて、お話ししたいと思います。
 皆さんがこれまでに聞いたような売春について語る人たちとは、私は違います。
 私は、警察官でもソーシャルワーカーでもなければ、研究者やジャーナリスト、政治家でもありません。
 マリヤムによる紹介からお察しの通り、私は尼さんでもありません(笑)。
 そういった人々の多くは、売春は品位を下げるものであり、誰も自ら望んで行いはせず、危険なものだというでしょう。
 女性は虐待され死に至ることもあると。
 こういった人々の多くはこう言うのです。
 「取り締まる法律が必要だ!」と。

 みなさんも「もっともだ」と思うかもしれません。
 2009年の暮れまでは、私もそうでした。
 その頃、私は最低賃金の仕事を2つ掛け持ちしていました。
 毎月のお給料は、借り越したお金の支払いに消えていきました。

 私は疲れきっており、生活は行き詰まっていました。
 他の女性たちがそうであったように、セックスでお金を稼ぐのがましな方法だと考えました。
 でも、勘違いしないでください。
 宝くじが当たるなら、その方がずっと良かったです。
 でも、そんなことがすぐに起こるはずもなく、家賃の支払いは迫っていました。

 そこで私は、売春宿での最初のシフトに登録しました。
 何年も経つ内に、考える時間がたくさんありました。
 売春に対するかつての考えを考え直しました。
 同意や資本主義下での仕事のあり方について、大いに考えさせられました。
 ジェンダー間での不平等や、女性に課せられた性や、生殖に関する労働について考えました。
 私は職場で搾取されたり、暴力を受けたことがあります。

 このようなことから、「他のセックスワーカーを守るには何が必要か」を考えました。
 みなさんも考えたことがあるかもしれません。
 このトークでは、セックスワークに対して世界中で用いられている4つの法的アプローチをご紹介し、それらが有効でない理由と、性産業の禁止はセックスワーカーが被りやすい危害を実際に悪化させる理由をお話しします。
 それから、セックスワーカーである私たちが本当に求めていることをお話しします。

■非合法化は、売春を続けさせる結果にしかならない

 最初のアプローチは、全面的な非合法化です。
 世界の半分、ロシアや南アフリカアメリカの大部分などでは、関係者全員を違法とみなすことでセックスワークを取り締まります。
 売春者や買春者、そして第三者もです。
 これらの国々の立法者は、逮捕されるという恐怖で売春を防ごうと考えています。
 ですが、法律を遵守するか、自分や家族の生活を支えるかを選ぶとなると、とにかく仕事をして危険を冒すことを選ぶものです。

 非合法化は、罠でもあります。
 犯罪歴があると、普通の仕事には就きにくくなります。
 雇用主もあなたを雇わないでしょう。
 それでもお金が必要であれば、より柔軟な闇経済に居続けることになります。
 非合法化によって、売春を続けさせられることになり、意図された効果の正反対の効果がもたらされます。
 非合法化によって、国そのものによる被害を被ることにもなります。

 多くの場所では、逮捕されるのを避けるため、賄賂を払うよう脅されたり、警察官にセックスを要求されたりします。
 たとえば、カンボジアの警察と刑務所の看守は、拷問としか言いようのないような行為をセックスワーカーに行っていたことが記録されています。
 銃を突き付けて脅したり、殴打や電気ショックを与えたり、レイプしたり、食べ物を与えないなどです。

 心配なことは、まだあります。
 ケニアや南アフリカ、ニューヨークで売春している場合、コンドームを携帯していることで警察に逮捕されることがあります。
 コンドームが売春の証拠として法的に用いられているからです。
 これによって明らかにHIVのリスクが高まります。

 コンドームを携帯している時に捕まったら、自分に不利に働くと想像してください。
 家に置いておこうと考える大きな理由になると思いませんか?
 こうした場所で働くセックスワーカーは逮捕される危険か、危険なセックスを行うという難しい選択を迫られるのです。みなさんはどちらを選びますか?
 コンドームを持って仕事にでかけますか?


 警察官に車に乗せられてレイプされるのではないかと恐れていたら、どうでしょう?
 2つ目のセックスワーク規制へのアプローチは、これらの国々で見られる”部分的な非合法化”です。
 セックスの売買そのものは合法である一方、周辺的な活動、売春宿の経営や道での客引きが禁止されています。
 こうした法律は、イギリスやフランスで見られ、セックスワーカーにこう告げています。
 「セックスの売買は構わないが、人目につかないところで1人で勝手にやってくれ」と。

収入を得る他の方法を持たない人を取り締まればOK?

 ところで、「売春宿の経営」は2人以上のセックスワーカーが一緒に働くことと定義されています。
 これが違法であると、多くの人々が1人で働くことになり、もちろん暴力的な犯罪者に攻撃されやすくなります。
 しかし、法を冒して一緒に働こうとしてもなお、私たちは弱い立場にあります。
 数年前、私の友人は仕事中に暴力を受けて以来、不安がっていました。
 そこで、私の部屋でお客さんに会うよう勧めました。

 その間にも別の男性が暴力的になり、私は男に「出て行かなければ警察を呼ぶ」と言いました。
 男は私たち2人を見てこう言ったのです。
 「君たちは警察なんか呼べないだろ。一緒に働いているならここは非合法だ」と。
 その通りです。
 男は最終的に暴力を振るわずに出て行きましたが、私たちが違法行為をしていると知って男は気が大きくなり、脅してきたのです。
 そうしても大丈夫だという自信があったのです。

 街娼行為の禁止は、防止する以上に大きな害悪を引き起こします。
 まず、逮捕されないために街娼は人目につかないようにします。
 つまり、1人で働くか、人里離れた暗い森のような場所で働くことになり、攻撃されやすくなります。
 街娼行為を見つかると、罰金を払わねばなりません。
 また、街で客を引かずに、どうやって罰金が払えるのでしょう?
 そもそも街で見かけたものは、金銭の必要からくる行為なのですから、罰金が重なるにつれ、売春による罰金を支払うために売春をするという悪循環に陥ります。

 ロンドン東部のレッドブリッジで働いていたマリアーナ・ポーパの話をしましょう。
 彼女の地域にいる街娼は、安全のために何人かのグループで客を待っていました。
 危険な人を避けられるよう、互いに注意し合うためです。
 しかし、セックスワーカーと顧客に対する警察の取り締まりが入ると、彼女は逮捕されないよう、1人で働くことを余儀なくされました。
 20131029日未明、彼女は刺殺されました。
 彼女は街娼行為の罰金を払うため、いつもより遅い時間まで働いていたのです。

 セックスワーカーが非合法化によって傷つくなら、買春をする側を非合法化すればいいのでは?
 これは、これからお話しする3つ目のアプローチです。
 スウェーデン型または北欧型モデルです。
 この法律の背景にある考えは、売春行為は本質的に有害なものであり、この選択肢を取り除くことでセックスワーカーを助けるというものです。
 このアプローチは「需要を断ち切る」方法と言われ、賛成する声が増えていますが、有効だという証拠はありません。
 スウェーデンの売春行為は、減っていないのです。

 なぜだと思いますか?
 なぜなら売春をする人々は、収入を得る他の方法を持たないからです。
 それでもお金が必要ならば、産業を衰退させることの効果は、価格を下げるか、より危険な性的サービスを提供することです。
 より多くの顧客が要るなら、マネージャーの助けも要るでしょう。
 お分かりですね。
 このような法律は、「ポン引き」と呼ばれる行為を止めるどころか、搾取的になりうる第三者が介入する余地を作っているのです。

 自らの安全を守るため、私は非通知の番号からの予約は受けないようにしています。
 自宅やホテルに行くのであれば、フルネームや個人情報を聞くようにしています。
 スウェーデン型モデルで働くのであれば、顧客は恐れて情報を教えてはくれないでしょう。
 後に暴力的になったとしても、追跡することができないような男性からの予約を受けざるを得なくなります。
 顧客からお金が欲しければ、顧客を警察から守らなければなりません。
 外で働くにしても、1人であるいは人目のないところで働かねばならず、まるで自分が違法行為をしているかのようです。
 つまり、素早く車に乗り込まねばならず、交渉する時間は少なくなり、瞬時に判断しなければなりません。

 この人は危険な相手か?
 単に不安なだけか?
 このリスクを取れるか?
 リスクを取らない選択ができるか?
 私がたびたび耳にするのは、「合法化して規制を設ければ売春は構わない」という考えです。
 このアプローチは合法化と呼ばれ、オランダやドイツ、アメリカのネバダ州などで用いられています。
 でも、これは人権的に良いモデルではありません。

 国に規制された売春制度では、金銭の授受を伴うセックスは法的に指定された地域や建物の中だけで許され、セックスワーカーは特別な規則に縛られます。
 登録や強制的な健康診断などです。
 規制という言葉は見栄えはいいですが、政治家は意図的に性産業周辺の規制をお金がかかり、遵守が難しいものにしています。
 結果として、2段階システムの合法な仕事と違法な仕事が作られます。
 時に「間接的な非合法化」と呼ばれることもあります。

 裕福で縁故のある売春宿経営者は規制を守ることができますが、周縁的な人々は数々のハードルを越えることができません。
 理論的には可能であっても、許可や適切な建物を入手するには時間と費用がかかります。
 この選択肢は、何としてでも今夜お金が要るような人には無理なのです。
 難民や家庭内暴力から逃れた人であるかもしれません。
 この2段階システムでは、最も弱い立場にある人々が違法な仕事をせざるを得ないため、先ほど述べたような非合法化によるすべての危険にさらされるのです。

■不当な苦痛でもリスクを取らざるをえない人を作る法律

 さて、セックスワークを規制する試みや防ごうとする試みは、すべて売春する人たちをさらなる危険にさらしてしまうようです。
 法の執行に対する恐怖は単独で、かつ人目のない場所での労働につながり、顧客や警察までもが逃げ切れるとわかっていることで虐待的な行為に及びます。
 罰金や犯罪歴は、売春をやめさせるどころか、売春の継続を助長します。

 買春者の取り締まりは、売り手がさらなるリスクを取り、搾取的なマネージャーに頼らざるを得ない状況につながります。
 こうした法律は、セックスワーカーに対する汚名と嫌悪を助長します。

 2年前にフランスが一時的にスウェーデン型モデルを取り入れた際は、一般市民が街娼行為をする人々に対して自警的な攻撃を行い始めるきっかけとなってしまいました。
 スウェーデンでの世論調査によると、法律が施行される前に比べてずっと多くの人々がセックスワーカーの逮捕を望んでいます。
 禁止がこれほどに有害であるなら、なぜ広く受け入れられているのかと思われるでしょう。

 まず、セックスワークは現在も、そしてこれまでも常に、好ましくないとされる少数派の人々が生き残るための術でした。
 有色人種の人々、移民障害を持つ人々、LGBTQ(性的マイノリティ)の人々…。
 中でもトランスジェンダーの女性などです。
 禁止主義の法律によって浮かび上がり、罰せられているのは、これらの人々です。

 これは、偶然の産物ではありません。
 これらの法律が政治的支持を得ているのは、まさに有権者が見聞きしたくないような人々をターゲットにしているからです。
 人々が禁止を支持する他の理由は何でしょうか?
 多くの人々が人身売買を恐れており、これは理解できます。
 誘拐され、性的労働に売られる外国人女性を性産業を禁止することで救えると考えるのです。

 では、人身売買の話をしましょう。
 強制労働は、さまざまな産業で実際に起こっています。
 労働者が移民や弱者である場合は、特にそうです。
 この問題は、解決されねばなりません。
 しかし、これは特定の酷使行為に対する法規制によって行われるべきで、産業全体を規制すべきではありません。

 23人の中国人不法滞在者が、2004年にモーカム湾でトリ貝の収穫中に溺死した際には、人身売買の被害者を救うために漁業全体を禁止する動きにはなりませんでした。
 解決となるのは、明らかに労働者により手厚い法的保護を与え、逮捕を恐れることなく酷使行為に抵抗し当局に報告できるようにすることです。
 人身売買という言葉が頻繁に用いられているため、不法就労者の売春がすべて強制によるものだと示唆されています。

 実際には、多くの移民が経済的な必要から自ら決断をして、人身売買業者の手に自ら身を委ねています。
 多くの人々は、目的地に到着したら売春行為を行うことになるとわかった上でそうしています。
 こうした人身売買業者はしばしば法外な手数料を要求したり、移民に対して意に反するような仕事をさせたり、弱い立場にある際には虐待もします。
 これは売春においてだけでなく、農作業においてもそうですし、サービス業や家政業においてもそうでしょう。

 究極的には、誰も強制労働など望みませんが、後にするものと引き換えに、多くの移民はこのリスクを進んで取るのです。
 合法な手段で移住することができれば、彼らは人身売買業者の手に命を委ねる必要などないのです。
 こうした問題は、移住の違法性からも生じており、セックスワークの違法性だけによるものではないのです。
 これは、歴史が示す教訓です。

 人々がやりたいことや、やる必要のあることを禁止しようとすれば、それが飲酒であろうと、国境を越えることであろうと、堕胎することであろうと、売春であろうと、解決するよりも多くの問題を生むのです。
 禁止することによって、その行為に及ぶ人々の数はほとんど変化しません。
 しかし、その行為に及ぶのが安全かどうかについては、大きな変化を及ぼします。

 人々が禁止を支持する他の理由は何でしょうか?
 フェミニストとして、私は性産業が、社会的不平等がこり固まった場所だと知っています。
 事実、買春を行う人のほとんどがお金のある男性であり、売春を行う人のほとんどがお金のない女性です。
 これには同意できるでしょう。
 私も同意します。
 それでも、禁止はひどい政策だと思うのです。
 より良い平等な世界では、生きていくために売春をする人はずっと少ないのかもしれません。
 でも、法規制だけでより良い世界の実現はできません。

 貧しさゆえに、あるいはホームレスだから、あるいは不法滞在者で合法に仕事を探せないから、売春をする人がいるなら、その選択肢を剥奪することで貧しくなくなったり、家が手に入ったり、滞在許可が下りたりはしないのです。
 人々は、売春行為が品位を下げるものだと考えます。
 こう自問してください。
 自分やわが子が食うに困るよりも品位を落とすようなことでしょうか?
 裕福な人々が子守を雇ったり、マニキュアしたりすることを禁止する動きはありません。
 たとえその労働に従事する人が貧しい移民の女性であっても、です。

 一部のフェミニストたちが語りたがらないのも、特に売春をする貧しい移民の女性です。
 性産業が強い感情を呼び起こすのは、理解できます。
 セックスの話になると、人々はあらゆる種類の複雑な感情を持つものです。
 でも、感情だけに基いて政策は作れません。
 特に、政策によって影響を受けるような人々を無視してはいけません。
 セックスワークを禁止することに注力すれば、結局その根本にある原因ではなく、特定のジェンダー間の不平等という表面的なものを気にするにとどまるのです。

 人々は次のような問いに取り憑かれています。
 「では、あなたの娘にそんな仕事をさせたいか?」
 これは、誤った問いかけです。
 そうではなく、娘が実際にやっていると考えてください。
 娘さんは今夜、安全に働けるでしょうか?
 なぜ、もっと安全でないのでしょう?

■非犯罪化の際に当事者の声を聞いたニュージーランド

 さて、全面的な非合法化、部分的な非合法化、スウェーデン型または北欧モデル、合法化をご紹介し、どうしてそれらが有害かを見てきました。
 私がこれまでに耳にしたことのない問いは、次のようなものです。
 「セックスワーカーはどうしたいのか?」
 結局、法律の影響を最も受けるのは、私たちなのです。

 ここで重要なことは、犯罪の対象から外すことと合法化は違うということです。
 犯罪の対象から外すということは、性産業に対する懲罰的な法律を取り除き、セックスワークを他の職業と同様に扱うということです。
 ニュージーランドでは、安全確保のため複数で働くことができ、セックスワーカーの雇用主は国に対する責任があります。

 セックスワーカーは、いつどんな理由であっても顧客に会うのを拒否でき、街娼行為をする人々の96%が法律によって権利が守られていると感じると述べています。
 ニュージーランドでは、セックスワークに従事する人の人数は増えておらず、犯罪の対象から外すことで、より安全になりました。
 ニュージーランドから学ぶべきことは、特定の法規制が有効であるというだけではなく、非常に重要なことにこの法律の制定にセックスワーカーが参加したことです。
 ニュージーランド・プロスティテューツ・コレクティブ(ニュージーランド売春婦組合)です。
 セックスワークをより安全にするにあたって、セックスワーカーの声を直接聞く姿勢があったのです。

 ここイギリスでは、私はセックスワーカー・オープン・ユニバーシティイングランド・コレクティブ・オブ・プロスティテューツ(イギリス売春婦組合)に入っています。
 私たちは、非犯罪化と自己決定権を要求する世界的な運動の一端を担っています。
 この世界的な運動のシンボルは、赤い傘です。
 私たちの要求は世界的な団体に支援されており、国連合同エイズ計画や、世界保健機関アムネスティ・インターナショナルなどです。
 しかし、もっと多くの賛同者が必要です。

 もし、ジェンダー間格差の是正や貧困、移民問題や公衆衛生について関心があるならば、セックスワーカーの権利もまた重要な問題であるはずです。
 皆さんの活動の中に、私たちの場所を作ってください。
 セックスワーカーの声に耳を傾けるだけでなく、その声を広めてください。
 私たちを黙らせようとする人々に、立ち向かってください。
 「売春婦は被害者として誇張されすぎている」とか、「傷ついて自分にとって何がいいのかをわかっていない」とか、「特権的に扱われていて本当の苦労を知らない」とか、「何百万もの声なき被害者を代表してはいない」と言う人たちです。

 被害者と自立心を与えられた者という区別は、架空のものです。
 セックスワーカーを信用せず、「声なき者」など存在しないとなんて、当事者を無視しやすくするために存在する考えです。
 みなさんは、生活のために仕事をするでしょう。
 セックスワークも仕事です。
 みなさんと同じように、この仕事を好きな人もいれば、嫌いな人もいます。
 究極的には、ほとんどの人が相容れない気持ちを抱いています。

 でも、私たちが自分の仕事に対して抱く感情は、関係ないのです。
 他の人たちが私たちの仕事に対して抱く感情も、無関係です。
 重要なのは、安全かつ納得できる条件で仕事をする権利が私たちにはあるということです。
 セックスワーカーも生身の人間です。
 複雑な経験をしてきており、その経験への対処法もさまざまです。

 でも、私たちの要求は、複雑ではありません。
 ニューヨーク・シティの高級娼婦に聞いても、カンボジアの売春婦や南アフリカの街娼(彼女はソーホーで私の同僚でしたが)、女性の誰に聞いても同じことを答えるでしょう。
 何百万ものセックスワーカーと話をして、無数のセックスワーカーの団体に聞いても、同じことです。
 労働者として、完全な非犯罪化と労働権を求めます。
 私は今日、この舞台にいる1人のセックスワーカーにすぎませんが、世界からのメッセージを届けに来ました。
 ありがとうございました。
(以上、TEDからの引用を一部修正)



●セックスワークの当事者の声から始めよう!

 日本では、風俗やAVはかつてほど儲からない業界になっている。
 それでも、セックスワーカーになりたい人が増えれば、需要と供給のバランスで低所得化していくことは避けられない。
 そうなれば、セックスワーカーには、性サービスの中身を過激化させていくことを求められたり、現場で契約以外の無理強いを迫られても、拒否することが難しくなってしまう。

 このまま現行法による取り締まりを続ければ、セックスワークのビジネスは法の網を逃れたアンダーグラウンドで展開せざるを得なくなるだろう。
 それは、セックスワークが、ヤクザのような非合法集団の手に独占されることを意味する。
 そうなれば、現実には人身売買や人権侵害、違法で危険な労働があっても、警察の目が届かない状況になる。
 困るのはセックスワーカーになり、結果的に性病の蔓延や少女売買などの深刻化な事態が日本社会にひたひたと進んでしまうだろう。

 そういう泥臭い現実に向き合わず、AV制作や風俗などのセックスワークそのものを敵視する人たちは、高学歴インテリ層では珍しくない。
 彼らにはいつでも他の職業選択があるかもしれないが、日銭がほしくてセックスワークに従事する人たちにそんな余裕はない。
 それを知りながら、他の選択肢を作り出すこともなく、ただセックスワーカーから仕事を奪うような活動の正当性は乏しいだろう。

 そこで、日本でもセックスワーカー当事者の視点で改善策や当事者ニーズを考え、発信している非営利団体の活動を注目しておきたい。

 Swashでは、英国のセックスワーカーの労働実態及び経験の全体像を描くための試験的パイロット研究を公式サイトで紹介したり、風俗嬢へのアンケート調査などを独自に行ってきた。
 元AV女優の川奈まり子さんは、業界の健全化を図るための一般社団法人「表現者ネットワーク」(AVAN)を設立することを明らかにした。
 高齢になってセックスワークを辞めたい人の受け皿として、風俗以外の仕事で生計を成り立たせる「風俗セカンドキャリアプロジェクト」を始めるセックスワーカーも出てきた。

 セックスワークをめぐる問題の解決は、その深刻さを誰よりも知っているセックスワーカーの当事者の声からしか始まらないだろう。
 日本のTEDxの主催者も、そうした当事者主体の活動団体を招いてみてはどうか?
 自らのセックスワーク体験を、顔も名前もさらして語ってくれる人材はかなり貴重だし、社会的価値が高いことにピンときてほしい。
 セックスワークの問題は、当事者だけの問題ではなく、あなたの家庭に忍び寄る問題なのだから。



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