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■アダルトビデオ業界人の自立支援で業界を変える



 2016年9月1日、一般社団法人 表現者ネットワーク(通称:AVAN)の公式サイトがオープンした。
 AVANとは、AdultVideo Actress&actors Networkの略。
 AVの実演家(AV女優・AV男優・クリエーター)の人権とAV業界で働く権利を守り、追求するために設立された、アダルト映像業界では日本初の同業者団体だ。

 この団体を立ち上げ、代表理事になったのは、元AV女優で現・作家の川奈まり子さん。
 「セックスワーカーが本当に求めている法律とは?」というブログ記事でも、当事者による課題解決の方向性が現代の社会活動には有効であることを指摘したが、AVANの設立はまさに「成人向け映像の表現者をネットワークで繋ぎ、個人の尊厳・働く権利・人並みに生きる権利の保障を追求する組織」(公式サイトにある「代表あいさつ」より)として設立された。



 では、この団体は何をするのか?
 公式サイトの「ステートメント」に、以下のように書かれている。


私たちは、不当な強制を拒絶する仕組みを提供して、表現者の人権を守ります。
私たちは、自己決定権を強く主張して自立を求め、業界に健全化を促すことで、働く自由を守ります。
私たちは、ネットワークによって表現者を孤立から救い、引退後のセカンドキャリアも含め、真心をこめて支援します。

 AVANは現在、現役のAV出演者とクリエーターのみを対象に、正会員を公募している。
 正会員にAV出演に必要な知識を教え、表現者としての自覚を促し、安心して仕事が出来るようにサポートしていくという。

 もっとも、AVANはまだ設立登記が済んだばかりで、会員様に対する支援内容が充実していないため、20168月~2017331日を「仮登録期間」とし、この期間は入会の際の登録料と月々の会費を無料にしている。
 201741日以降に入会する場合は、登録料と会費の支払いが必要になる(※仮登録期間に入会された正会員様も、201741日以降は会費の支払いが必要。会費等の金額は現時点では未定)。

 なお、フリーの人についても、随時、WEBサイトと、AV出演者専用の入会用のPDFで仮登録を募っている。
 AVANに関する最新情報はFacebookのページでも観られるので、現役のAV出演者とクリエーターは、活動の経緯を確かめながら、正会員へ登録しておくといいだろう。



●上から守ってもらうのでなく、企業と敵対するのでもない活動

 AVANが僕にとって興味深いのは、これまで他の社会的課題の解決団体にありがちな「真っ先に法律や制度に”上”から守ってもらうことを求める団体」でもなければ、企業と敵対して法的に戦う労働組合のような団体でもなく、あくまでも切実に困っている当事者自身が自立するための支援団体である点だ。

 代表理事の川奈さんのFacebookの書き込みから、一部を抜粋しよう。


 AV業界に、AV女優の組合のようなものが出来たことはありません。
 今時のAV女優はプロダクションに所属している場合でも、ほとんどが個人事業主。
 その点では、作家や俳優と同じです。
 私が今こそ作るべきだと思ったのは、同業者による同業者のためのネットワークでした。
 その主な構成員は、「自立したアーティスト」であるべきなのです。

 ネットワークを形成するのが当事者たる現役のAV出演者であれば、私の役目は、そのネットワークを支援すること。
 彼らが自立したアーティストとして歩けるようにサポートすることであり、業界で取り交わされるいくつかの契約を整備して、雇用実態のない、真の個人事業主としての立場を確立すること。
 そのためには、サポート態勢を整えるために準備する必要も、弁護士を確保して適法で出演者の権利に配慮のある契約書を作る必要もありました。
 AV出演者がAV業界で働く権利を求めていくためには、業界全体が健全化し、社会にAV業界の存続を認めてもらわねばなりません。
 そのためには、AVメーカーやプロダクションにも、協力を求めていく必要があります。
 出演者・プロダクション・メーカー、これら3者の力が拮抗し合った、均衡が取れた状態になるのが理想的だと考えました。

 私の団体では、AV出演は、徹底的に肯定しよう。絶対に貶めない。否定しない。
 後悔する必要はない。
 後悔したければ止めないけれど、少なくとも悪いことをしたわけじゃないという点は、この団体では明言しよう――そう思いました。
 何かトラブルに巻き込まれたときも、業界中にパイプを持っている当会なら、非常にスピーディーに対処できます。
 弁護士や大手カウンセリング団体とも連携していますし、何より、当会が現在作成している統一契約書が完成すれば、プロダクションに入る女優さんに関しては入口から出口まで人権が守られる、最低限の担保が得られます。

 AVANは、まだ立ち上がったばかりだ。
 彼らの活動の社会的価値は、今後ゆっくりと問われていくことになる。
 女性のAV監督やメーカー社員も増えている今日、彼らの動きは男性消費者やAV業界の温存のためだけのものではなく、もちろん強制出演やトラブルなどの被害を事前に避けたい女性出演者のためだけのものでもない。

 アダルトビデオの仕事にまつわる問題と同質の問題は、男女の別なく、エロゲーやCG、AI、ロボット技術などの他の多くの業界にも起こりうる。
 そのため、消費者動向より前に、表現者自身が自立をどれほど本気で求めているかが広く問われる。
 その際、現役のワーカーが団体を立ち上げる難しさはあるだろう。
 実際、風俗やキャバクラの労組が立ち上がっても、拡大も定着もなかった。
 今回、「元AV女優」という自分のキャリアをふまえて団体を設立した川奈さんの英断に、ひとまず拍手を送りたい。

 非営利活動は、子育てに似ている。
 報われないかもしれないが、自分と同じ苦しみをより若い世代に味あわせたくないという思いがなければ、活動を続けていくことは難しい。
 それでも、そうした思いが確かなら、かつて不当な苦しみを背負わざるを得なかった当事者が「喉元過ぎれば熱さ忘れる」ではなく、今もある問題を「見過ごせない」と解決に立ち上がることは、後に続く人たちへの勇気を育てる。

 それは、他の多くの社会的課題の解決行動でも同じだ。
 子どもの頃に親に虐待された人が、その当事者の自立を助ける団体を作ってもいい。
 生活保護のお暮らしから抜け出せた人が、自立の方法を教える団体を作ってもいい。
 お互いに助け合えるコミュニティを作るにも、誰かが手を挙げる必要がある。
 誰もやらないなら、自分が手を挙げる。
 そのようにして、生きづらい社会を変えていけるのだ。

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