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■支援者と被支援者の思いのズレ ~ダマされてない?

 人権NGO団体ヒューマンライツ・ナウ(HRN)は今年(2016年)3月、「アダルトビデオ(AV)強制出演」に関する報告書を発表した。
 だが、彼らが救うはずのAV女優やAV制作関係者の間から、報告書に対する批判が相次いだ。

 HRNが半年後の9月に発表した「日本・児童ポルノ規制の実情と課題」についても、法曹界から問題点が指摘された。
 HRNの調査のでたらめさが指摘されたこの記事も読んでみてほしい。

 AV女優の人権を守るという目的を掲げても、当事者であるAV女優から嫌われる活動をやってしまうのは、「自分とは違う価値観の人からは話を聞かない」「同情できる被害者だけの声を聞く」という構えから来るのだろう。


 実は、NPOなどの非営利団体で社会貢献を標榜する活動には、そのような愚かな構えを省みないことが珍しくない。

 僕自身、ここ10年以上、ソーシャルデザインやソーシャルビジネスを取材してきて、もちろん中には尊敬に値する社会起業家や活動団体もあると知っている。

 そういう団体は積極的に雑誌や本、ブログなどで応援してきた。

 だが、やはり一部には、「自分とは違う価値観の人からは話を聞かない」「同情できる被害者だけの声を聞く」という構えによって現実を見誤り続け、支援を求める当事者や世間からバッシングされかねない非営利活動団体も少なからずあるのだ。

 被害者だけの声を鵜呑みにしていては、よほど優れた熟練のカウンセラーなら事実誤認の問題を未然に防げるかもしれないが、素人には事実誤認の恐れが常につきまとう。

 人は自分の理解を超えた深刻な現実に直面すると、その不安やショックから自分を守るために、記憶を捏造してしまうことがあるからだ。

 児童虐待やDV、レイプなど、人権を蹂躙される犯罪の被害者には、自分の苦しみをわかってもらいたくて話を盛ったり、現実にはおきていなかったことまで同情を誘うために脚色して話すことがあるのだ。

 この捏造された記憶(虚偽記憶)は、本人の中では「本当にあったこと」として認知されているため、他の人に話しても、聞かされた側はその話を容易に信用してしまう時がある。
 ライターや弁護士などのように事実を確認する習慣が日常的にない人は、その偽の記憶を疑うことすらなく、あっさりと同情しやすい。

 これはテレビや新聞などの報道も同様で、警察に逮捕された「容疑者」というだけで「加害者」のように悪そうな表情の顔だけを編集して放送したり、警察が一方的に発表した断片的な情報を検証することなく伝えてしまう。

 これは、メディア側が「良識」という仮面をかぶり、自分たちの仕事を正当化する以上の意味は無いのだが、その番組や記事を観る側が愚かだと、報道によってお墨付きを得たかのように「やっぱりあいつは悪いヤツだった」と喜んでしまう。

 憶測で犯罪の被害者の言動を責めるのは愚かだが、同時に加害容疑者の言動を憶測で責めるのも愚かなことなのだ。
 被害者と加害者の関係の内実は、当事者以外にとって憶測にすぎない。
 傷つけられたり、不当に疑われれば、人は記憶を捏造しやすく、捏造された記憶は自分にとって都合よく誘導する文脈を作り、現実を見失わせてしまうことを忘れてはならないだろう。

 HRNも、残念ながらそうした事実誤認の間違いを犯しているようにみえる。
 AV女優の人権を守りたいなら、HRNの方から業界で働くAV女優自身のニーズ(※優先的に解決してほしい切実に困っていること)を尋ねることが最優先課題だったのではないか?

 いきなり被害を受けたAV女優だけの声を聞けば、AV業界で働いてメシを食っている他の多くのAV女優やAV制作関係者が反発する、という程度のことは「想定内」にしていなければ、人権擁護活動は市民からの共感を得られず、社会的に孤立してしまう。

 人権を守りたいなら、被害者にも、加害者にも、第三者にも、人権があることを忘れてはならないし、「人権にとっての敵」は加害者ではなく、「人権を守れない社会の仕組み」そのものであることに気づく必要がある。

 同時に、HRNにとってはAV業界は未知の分野なのだから、わからないことに真摯に向き合い、何の偏見も持たずに業界関係者の話に耳を傾けることが礼儀だったはずだ。
 しかし、HRNには少なくとも当初は、そうした礼儀が欠けていた。


●活動に感謝する被支援者の声がない団体には要注意!

 AVメーカーなどで構成する「知的財産振興協会」(IPPA)は、今年6月上旬にHRNとの第一回顔合わせと意見交換を始めた時のことを、以下のように証言している。

HRN側は、被害者から業界の話を聞いているので、「やくざがやっているんじゃないか」と思っている部分があった。
with news 2016年9月2日付)

 とんでもない偏見をHRNは持っていた疑いがある。
 少なくともIPPA側は、そう感じたようだ。
 そういう認識をHRN側が今でもお持ちなら、人権擁護団体としては恥ずべきことだろう。

 もっとも、被害者の声すら、まともに聞かない非営利団体もあるようだ。

 佐々木みいな(AV女優、風俗嬢、ライター)さんは、風俗嬢のセカンドキャリアを支援するという一般社団法人GrowAsPeopleの代表者角間惇一郎さん(右の写真)対して、支援内容に不満だったことを、GrowAsPeople代表 角間さん、電話下さい」というブログ記事で表明した。

 記事リンクの内容が事実かどうか、誰にとっても納得できる形で、角間さんからの回答を待ちたい。

 また、佐々木さんと同様にGrowAsPeopleとの関わりに違和感をもっていた風俗嬢の方は、同じように声を上げ、角間さんへ回答の公開を求めてほしい。

 非営利活動は、広く社会に支持されてこそ正当化され、信頼を得て、信頼を担保に企業などから助成金を受け取る。
 信頼を失墜しかねない活動内容があったなら、早めに改めることを表明しないと、今後は一方的な声によって怪しまれる団体のままだろう。

 そうした「グレーな団体」のイメージは、代表者はもちろん、団体の活動の恩恵を受ける人も、支援活動の従事するスタッフも、これから団体に相談したい人も、団体の上っ面しか取材しない新聞・テレビの報道関係者も含め、誰も幸せにしない。
 これはHRNにもいえることだけど、誰もが事実を検証できるような情報公開を十分にしておかないと、それこそ憶測を呼び、外野からのノイズを増やし、閉鎖的な団体だと世間から認定され続けてしまうだけなのだ。

 もっとも、このように、支援されるはずの当事者が、支援活動の団体によって無視されたり、何度ニーズを訴えてもなかなかその声を実現してくれなかったり、当事者満足度の高い活動実態がなくてもプレゼン能力だけで大企業から助成金を受け取ることは、珍しくない。

 なので、NPOや一般社団法人、社会福祉法人などの非営利活動の団体を評価する際に、以下の3つのポイントに注目してみてほしい。

□ 公式サイトに、代表者の名前・事務所の電話番号・住所が明記されていない
□ 公式サイトに、寄付金やその用途を具体的に示す収支報告が一度も発表されていない
□ 公式サイトに、活動によって救われた人たちの喜びの声がどこにも紹介されていない

 個人ではなく、公的に認証された法人として仕事をしているのだから、プライバシーより情報公開の方を大事にするのは当たり前。
 このたった3つの点さえクリアできてない非営利団体は、助成金や寄付金を受け取る資格などないはずだ。

 社会的信用の担保がないのだから、その活動に対する共感も集めにくく、いつまでも寄付や助成などの他人の金にすがるばかりの「ボランティア乞食」のまま、活動資金を収益事業の自主財源で賄うソーシャルビジネスに成長できない。

 それでも、活動内容を精査しない企業は、そういう団体に平気で何十万円もの助成金を出している。
 それほど、企業のCSR(社会的責任事業の部署)で働く助成金の担当社員には、非営利団体を精査するノウハウもなければ、社会を良くするという志も足りないのだ。
(※ちなみに、僕はCSRに関する記事を『アイソス』というISOの専門誌で書いており、連載はそろそろ100回を越える)

 企業が助成金を出す際、あまりにもその評価基準があいまいなので、どこかの企業がNPOへの助成金を新たに作ることがあれば、ぜひ僕を審査員に入れてほしいと思うぐらいだ。
 おそらく、従来の基準を続けていけば、株主はバカではないので、「俺たちの投資した金がこんなアホなことに使われているのか?」と気づき出す日もそう遠くないだろう。

 その前に、自社の社員が「俺たちが毎日がんばってる仕事で得た金がこんなアホなことに使われいるのか!」と気づけば、労組も黙っちゃいないだろうし、優秀な若手社員を退社させる引き金にもなるかもしれない。
 CSRは金を使うだけの部署なので、ただでさえ一般社員から「そんな金があるなら俺たちの給与を少しでも上げてくれよ」と冷ややかな目で観られている。

 そうした内部の不満の声を解消するためにも、上記の3点を徹底的に第3者が誰でもいつでも検証できる仕組みが必要なのだ。
 非営利事業というキレイゴトほど、運営・経営に関して甘さや弱さへの居直りが入り込みやすく、同時にイメージの良さの裏側で醜い実態も作られやすいし、それが感動ポルノを作り出す。

 風俗嬢・障害者・難病者・貧困者などの社会的弱者を「支援する」という言葉は、それだけで立派に見えるが、本当に観るべきは「その活動に感謝している弱者が実在しているのか?」だ。

 支援する側のしたい活動と、支援される側が求める活動の間には、常にギャップがある。
 このギャップを少しでも埋めようとするなら、支援者を自称する人たちは、被支援者の声に真摯に応えていかなければならないだろう。
 支援される当事者が次々に「この活動で救われた。ありがとう!」と言わない限り、その非営利団体の活動を続ける意味はないのだから。

 本当は、こうした批判めいた記事は書きたくない。
 支援される当事者たちが続々と「ありがとう」の声を自発的に表明している社会起業家だけを紹介したい。
 本当に活動に対して高い満足を得ている人たちは、団体に頼まれなくても「あそこはすごく良いよ!」とクチコミで伝えたり、ネット上で声を上げているから、その声を最優先に伝えたい。

 そうした優秀な団体の活動をより多くの人が知ることで、当事者満足度の低い活動をいつまでも続けている団体の愚かさに気づいてほしいのだ。
 だって、支援される側の人たちを笑顔にすることこそ、非営利団体の代表者の最優先の望みのはずだから。

 えっ、あなたの関わる団体は、違う?

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