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■宝島社「世界平和」の新聞広告は、弱者にとって有害

 宝島社は、201715日(木)、企業広告「忘却は、罪である。」を、朝日新聞・読売新聞・毎日新聞・産経新聞・日本経済新聞・日刊ゲンダイの新聞6紙(全国版)に同時掲載させた。

 ご覧の通り、真珠湾を攻撃する日本の戦闘機と、広島へのアメリカによる原爆投下の写真を並べ、世界平和を訴えるものだ。
 第2次世界大戦(1939-1945)で、アメリカ人は約29万人、日本人は約310万人が死んだ。

 まず、この広告に宝島社がいくら出稿したのか?
 新聞の見開き全面広告に載せる媒体料金だけを列記すると、以下のようになる。

朝日新聞 3985万5,000円☓2P=7971万円
読売新聞 4791万円☓2P=9582万円
毎日新聞 25,92万円☓2P=5184万円
産経新聞 1395万円☓2P=2790万円
日経新聞 2040万円☓2P=4080万円
日刊ゲンダイ 278万円☓2P=556万円

 上記を合算すると、3億163万円になる。
 他にも、消費税+広告制作費(デザイン・コピー)などがかかるが、宝島社がざっと3億円以上の莫大な金をたった1日の「企業広告」に投げたのは間違いない。

 宝島社にとって、このように企業からのメッセージを伝える広告は20年目という。
 これまでも、がんを告白した女優の樹木希林さんが横たわる写真に「死ぬときぐらい好きにさせてよ」(下の図版)というコピーを載せて時代の閉塞感を訴えるなど、印象的な広告に莫大な金を出してきたことを覚えている人も少なくないだろう。


 しかし、日米の戦争の写真を使って「世界平和」を訴えた広告には、大いに違和感がある。
 その違和感の理由の一つは、これら一連の広告を制作したのが電通のスタッフである点だ。

 「忘却は、罪である。」
 このコピーを一番胸に刻み込まなければならないのは、電通のスタッフだ。
 過労死自殺をした複数の電通社員が2016年から大きな話題になっていながら、なぜ国と国の戦争に目を向けさせるのか?

 日本は戦後70年間、どこの国とも戦争をしなかった。
 しかし、この国の仕組みは、生きづらさをずっと温存し、毎年2~3万人が自殺した。
 この平和な70年間で、ざっと160万人以上の国民が自殺で亡くなった。
 これは、第2次世界大戦で亡くなった人数の半分に相当する。

 日本における戦争は、他国を相手にするものではなく、内戦のように「格差の仕組みを作り出す側」と「彼らによって割を食う側」の間で行われてきたのだ。



 国民の中の数万人というマイノリティ(少数派)を長い間に少しずつ殺せば、国民に気づきにくく、関心も高まらず、政治家や官僚も責任を問われにくい。

 電通社員だった高橋まつりさんも、この自殺者数の一人だ。
 戦争のリアルより、過労によって自殺へ導かれるリアルの方が、はるかに日常的で恐ろしい。
 身内が亡くなっても、国と国の戦争に目を向けさせ、身内の不祥事を忘却させるのが、2017年になっても変わらない電通の企業体質なのか?


●電通との取引を辞めることこそ、世界平和への道

 電通グループには、社会的課題を解決するソーシャルデザインで仕事をしていると自称する並河進さん(右の写真)もいるが、自社の深刻な社会的課題である過労を解決できる仕組みを仕事として作り出せていない。

 大企業からはぬるい企画を立案しては大金をもらって動くが、自社の課題解決は給与をもらっても動けないのだ。

 電通のソーシャルデザインなんて、その程度にすぎない。
 大企業から大きなお金をもらわないと動かないし、もちろんソーシャルデザインは社会の仕組みを変えるだけの価値ある仕事だが、彼らにとっては単なるお題目になっている。

 まぁ、既得権益層にいる人(=格差の仕組みを作り出す側)が社会を変えるだけの動機を獲得するのは難しいかもしれない。

 だが、ソーシャルデザインにとって何より重要な点は、社会的課題によって苦しんでいる当事者の痛みにどれだけ共感しているか、だ。

 自社の社員を次々に過労で殺しても、それをいつまでも無視・放置・関心外にし、「TVや新聞の視聴者が減って広告が売れない時代には社会貢献で飯を食おう」という浅ましさでキレイゴトを続けるのが、電通の変えようともしない体質なのだ。

 並河さんが本当に優秀で、本気で電通の体質を改める覚悟があるなら、引責辞任する石井直社長(右の写真)と一緒に新会社を作り、電通を顧客にしてソーシャルデザインで過労を防ぎながら利益を出せる仕組みを売り出すかもしれない。

 それができなきゃ、これまで名ばかりのソーシャルデザインに大金を支払ってきた大企業も浮かばれない話だ。
(あまりにかわいそうなので、あえて企業名は出さない)

 今回、電通スタッフを使った宝島社の社長・蓮見清一さんにも、ファッション雑誌での儲けから支出した大金を、電通の企業体質を変えることにも使えることを学んでほしい。

「もう20年も電通と仕事をしてきたが、社員が過労で自殺する体質の企業とは取引したくない」
 そう宣言し、広告出稿の際は、他の広告代理店に乗り換えればいいだけだ。

 そうすれば、過労自殺が他人事ではないと感じてる女性(=ファッション雑誌の消費者)の心をつかめて読者増につながるし、それこそが「商品では伝えきれない“企業として社会に伝えたいメッセージ”」として多くの消費者に望まれるものではないか?

 たった1社でも、他社に先駆けて電通との離縁を宣言すれば、それこそが時代を変えられる希望を多くの消費者に印象づける。

 今回の広告には、こんなコピーもあった。
人間は過ちを犯す。しかし学ぶことができる」

 これは社員を次々に自殺させた電通を擁護する文脈にも読み取られる余地があるが、そんなことに3億円もの巨額な金を使ってしまうのは、愚かな過ちそのものだろう。

 3億円もあれば、今この時も戦場で平和維持活動をしている非営利活動を活性化させ、戦争をしなくても良い仕組みを世界に広めることができる。
 過労をなくす仕組みを導入する企業を日本全国に短期間に増やすことだってできる。
 それだけの大金があれば、より早く、より多く「死なずに済む命」を救い出せるのだ。

 20年間もそれを怠ってきたことは、60億円以上もの大金で電通や新聞社の社員の高い給与を温存し、「格差を作り出す側」として振る舞ってきたことになる。
 それゆえに今回の広告は、「世界平和」どころか、むしろ命にとって有害な仕事なのだ。

 しかし、本物のソーシャルデザインは、そうした愚かな金の流れから学び、戦争をさせない仕組みすらこの社会に生み出している。

 拙著『よのなかを変える技術』(河出書房新社)でも少しだけ紹介したアメリカの企業「ピースワークス」は、国境線で互いに対立する国の一つの農場と、もう一つの国の工場を連携させ、製品をアメリカで売ることによって利益を作り、その利益を農場と工場に分配することで、それぞれの市民が相手の農場・工場を攻撃できない仕組みを作り出した。

 相手を攻撃すれば、製品が作れず、自分たちが困ってしまう。
 相手国の市民と仲良くすれば、両国の市民の仕事と平和が保たれる。
 そうした相互依存の関係を作り出すことは、関係に敏感な女性の方が上手だし、関心を持ちやすいはずだ。

 そうしたソーシャルデザインの仕組みや事例を、ファッション雑誌の誌面に少し組み込むだけでも、宝島社は「ただの面白い広告に湯水のように金を使う企業」というイメージを払拭できる。
 女性社員の過労死というネタ自体、ファッション雑誌編集者も読者も他人事ではないはずだ。
 全国には、ライフ・ワーク・バランスの導入によって社員に過労をさせずに生産性を上げてきた企業が増えている。

 コンテンツ制作で雑誌の売上を飛躍的に伸ばしてきた宝島社の女性社員たちの優秀さを思えば、広告代理店に自社広告の制作を依頼する必要もないかもしれない。
 電通に支払う不当に大きい制作費を思えば、自社の社員にコピーやデザインを作らせ、浮いた金をボーナスで還元する仕組みを作る方が、自社広告を担える社員たちの働く意欲も増すだろう。

 自分より弱い立場の人間の大変さに関心を持ち、その苦しみに共感できた時、初めてソーシャルデザインが今日、世界同時革命のように増えている現実に驚くのかもしれない。

 ソーシャルデザインについては、既に多くの本が出ている。
 最後に、宝島社自身が巨額の金で作った過去の広告を引用しておこう。


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