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■人気雑誌『ニコラ』炎上から学ぶ子ども虐待


 新潮社のローティーン向け人気雑誌『ニコラ』の読者相談の記事が炎上している。
 この炎上について書く前に、これを書いている僕(今一生)自身の立場を明らかにしておこう。

 僕は昨年(2017年)、『日本一醜い親への手紙 そんな親なら捨てちゃえば?』(Create Media編/dZERO刊)という本を企画・編集した。
 親から虐待された100名の公募手紙集であり、僕にとっては20年ぶりに作った本だ。

 1997年に初めて同様の本を作った時から20年経っても日本の子ども虐待に対する解決策が後手に回っていることに耐えられなくなり、子ども虐待に関する深刻な現実を浮き彫りにしようと思ったのだ。

 そういう本を作っている身から言わせてもらえれば、子ども向け人気雑誌の編集部が今回の炎上で軽率なコメントで幕引きを図っている構えには、やりきれないものがある。


 事の発端は、このツィートだと思われる。
 大人なら、「しばらく歩けなくなる」ほど誰かに蹴られたら、蹴った相手を傷害事件として警察に訴え出たり、民事損害賠償の請求をすることもできる。
 しかし、親が自分の子どもをいくら蹴ろうと殴ろうと発覚されることがほとんどなく、警察に行けば、児童相談所(以下、児相)へ通告してくれることを子どもは学校でもメディアでも教えられていない。

 親に蹴られていることに悩んでる子どもに、「ニコラ」の回答者は、こう返事した。


 子どもが「怒られない生活」に変えれば、親はこの子を蹴ることがなくなると考えているらしい。
 この回答者は、「しつけしてるつもり」という親の言葉に何も感じなかったのだろうか?

 子ども虐待は、常に「しつけ」の名の下に行われている。
 その深刻さを回答者は重く受け止めず、子どもより雑誌を買える親の肩を持つ。
 これは、被虐待児へのセカンドレイプといっていい。

 そもそも、児相の存在を子どもは誰からも教えられていない。
 それどころか、児相は「子どものことで大人が相談する機関」であるため、親から虐待されている子どもが一人で相談に訪れても、門前払いされる。
 「先生か誰かと一緒に来て」と言われ、学校で虐待されている事実が発覚するのを恐れて絶望的な気分で帰宅している子どもは決して珍しくない。

 そこで、「ニコラ」編集部の「おわび」を見てみよう。


 編集部では、「ご意見をいただいているニコラ5月号おしゃべりくらぶ回答内容について」と題した画像で、以下のように説明している。


 編集部は、文面にある通り「最初の相談で児童相談所への相談という道を示して」いる。
 それは、親に蹴られた少女の相談の一つ前の相談に対する回答でのことだ。


 この●から始まる回答では、児相へ連絡した方がいいとアドバイスしている。
 しかし、児相へ通告する義務を背負っているのは、虐待された子どもではなく、虐待を認知した大人である。
 この回答者は、自分自身がその大人であり、児相へ通告するのが自分の義務だとわかっていないどころか、中学2年生の子どもに「おまえが連絡すればいい」と自己責任論を説いている。

 これは、親に虐待されるおそれの多い子どもに影響力の大きい人気雑誌としては、トンデモ回答と言われても仕方がないだろう。


●ニコラ編集部は、児相へ通告する義務を果たしたのか?

 「子どもの相談ダイヤル」に電話して、万が一、学校に通告され、先生が保護者と話し合いを持とうとすれば、家の中で親からの虐待がエスカレートするおそれもあるし、クラスメイトに知られた子どもは学校でも居場所がなくなるおそれもある。
 だから、子どもたちは自発的にはそうした相談ダイヤルに電話できずにいる。

 学校が速やかに児相へ連絡するのもまれなことだが、たとえそれが実現できても、いざ児相に一時保護されることは簡単ではない。
 全国の児相の約2割では、すでに一時保護所が満杯もしくは定員オーバーで被虐待児を詰め込んでいる状況なのだ。


 都市部の児相は既に機能不全と呼んでいい悲惨な状況にあるのだが、これは国民の多くが子どもの人権に関心がなく、児童福祉に予算が割かれないからだ。
 少ない予算の中では、より幼い年齢の子どもや緊急事案の子どもを優先的に保護せざるを得ない。

 そんな深刻な児童福祉の現実があろうとも、読者の親がわが子のファッションに興味を示せば、「ニコラ」はいつまでも「ティーン誌ナンバーワン」の人気雑誌でいられる。
 読者である子どもの人権など考えなくても、「あんたたちはファッション好きでありさえすればいいの」という編集方針を貫けば、子どもは「ニコラ」を買ってくれるからだ。

 大人がそんな仕事ぶりで子どもに向き合っていいんだろうか?

 たとえ、児相が機能不全であっても、被虐待児を保護できる権利を有するのは、現行制度では、親権者と児相しかない。
 子どもは児相を活用できないまま親に殺されてしまうこともある。
 それどころか、親からどんなにひどく殺傷されたとしても、裁判では、子どもは大人の被害者と同様の罪を親にかぶせることができない

 学校に相談することもためらってしまう子どもを、親に殺される前に救い出させるのは誰なのか?
 一般市民は、通告義務があっても、近所で「あの人が通報したの?」と噂になるのをおそれて通報をためらってしまう。
 そのため最近では、子ども自身が警察に駆け込むことで、警察経由で児相へ虐待相談ができる仕組みが全国に普及しつつある。

 だから、近所の軋轢を負わない「ニコラ」編集部には、読者からの投稿で発覚した子ども虐待の案件については、冒頭の暴力親に悩まされる中2の子だけでなく、他の相談者(心理的虐待などを含む)も電話取材をした上で、児相へ通告してほしい。
 同世代の子どもの苦しみを放置しないことこそ、読者から信頼されるのではないか?

 被虐待児からの訴えを直接受け取った編集部が何もしないとしたら、コンプライアンス(法令遵守)やCSR(企業の社会的責任)の点でも問題が指摘されることになり、雑誌発行元の新潮社に対する世間の目はいっそう厳しくなるだろう。

 既に『ニコラ』の対応に、疑問や批判が集まりつつある。
https://togetter.com/li/1215494

 編集部に対して同じ思いを持つ方は、「ニコラ」編集部のtwitterアカウントへたった一行「編集部は児相へ通告する義務を果たしましたか?」と確認のツィートを投げかけてみてほしい。
 一人、また一人とそういうアクションをしていけば、子どもたちにトンデモ回答をして困らせる事態は減らせる。
 そのように企業の社会的責任を問うことこそ、市民自身の役割だと思うし、たった一行ツィートすることぐらいカンタンにできることなのだから。


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