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■中学生にもわかる民主主義と国民主権の成立

 ある日、日本のどこかの公立中学3年生の教室で、担任教師が管理しない生徒たちだけのクラスが生まれる。

 そんな光景をイメージしながら、民主主義や国民主権、政治、選挙、投票とは何なのかについて解説してみようと、以下の文章を書いてみた。

 圧政を強いる王様を殺した歴史の無い日本で民主主義や国民主権が今後生まれ、根付くとしたら、毎日の仕事によってしか動機づけられないだろうという僕自身の仮説に基づいている。

 下の画像にある文章を読んでから、その先の文章を読み進めてほしい。

『ホームレス農園』 (小島希世子・著)より


●201X年のある日、日本のどこかの公立中学校で…

担任教師 今から俺は、教室を出て行く。いつ帰るかは、わからん。これからは、おまえたち自身でこの教室で起こる問題を解決するんだ。じゃ!

学級委員長 では、とりあえず、これからは僕がこのクラスを仕切らせていただきます

ヤンキー番長 ちょっと待てよ。隣のクラスのマッチョの山田が今、この教室に入ってきて暴れたら、お前じゃ太刀打ちできんだろ。ケンカになれば、みんな俺が必要になるだろうがっ!

副委員長 あなたが仕切るなんて、怖いわ。あたしは山田くんとLINEしてるけど、彼は家庭ではお父さんやお兄さんに暴力を振るわれてるの。それが怖くて、学校では自尊心を保つために強がってるだけなのよ

帰宅部 そっかー! 山田くんの家庭の問題を解決してあげれば、暴れる理由がなくなるね。副委員長、かしこーい。お前が仕切ればいいじゃん

副委員長 それだと、先生の代わりに誰か特定の人が仕切ればいい、お任せすればいいってことになるわ

帰宅部 え? 誰かが仕切っちゃ、いけないの?

学級委員長 誰が特定の1人が決めたことに全部、きみは従いたいんですか? そうなら、それは「新しい担任教師」が誕生しただけです。きみが教師に言われたことに従うだけで文句すら言えない「権力の奴隷」であることは変わりません

ヤンキー番長 教師の奴隷になるのすらイヤなのに、ガキの奴隷になるなんて…。ぷっ

副委員長 それに、うちのクラスの問題って、山田くんのことだけじゃないでしょ? 学校に来れてない佐藤さんや、入院中のマリアンさんのお見舞いとか、同じクラスの仲間に対してやらなきゃいけないこと、いっぱいあるのよ

新聞部 授業中に鳴るケータイ問題とか、庭の草花に水やる係の問題とか、文化祭に何やるか問題とか、受験の準備もあるし、問題はクラス全員の数よりたくさんある。あー、めんどうくせぇ!

学級委員長 その全部は僕でも仕切れません。きみなら全部1人で仕切れるんですか?

帰宅部 えっ、俺? 無理に決まってるじゃん。つーか、何をやっても誰かから突っ込まれそう…

副委員長 確かに、たった1人で何でも解決しようと思ってもムリだし、みんなに満足してもらえる解決策を作ろうとしても、おのずと限界があるよね

ヤンキー番長 俺だって、勉強のことで相談されたら仕切れねぇよ

副委員長 そう! 誰だって万能じゃないし、みんな不完全なの。だから、みんながそれぞれ「このクラスでは自分が一番それを解決したいんじゃないか?」と思える問題を解決する責任を負って、自分1人ではできない作業を他の人に頼んだり、協力者を増やして、お互いに補い合えばいいの

新聞部 つまり、自治だね。自分たちの問題は、あくまでも自分たち自身で解決する。誰か特定の強い人に真っ先に解決を任せたりはしない。そのためには、それぞれが自分の見過ごせない問題に対して解決の役割を負うってワケ。たとえば、このクラスで不登校の佐藤さんのことを一番よく知ってるのは、小学校の頃から家が隣で一緒に遊んでた木下くんだけど…

木下 うん、じゃあ、僕は佐藤さん問題については、解決する責任者=リーダーになるよ。でも、みんなにも手伝ってほしい。誰でも無理なく協力できるような仕組みを、僕が作るからさ

帰宅部 それなら俺も、できる範囲で何かするよ。その時は言ってよ

木下 きみだって、「ハーフのマリアンを差別すんな!」ってLINEで書いてたんだから、彼女に対する差別をなくすという問題を解決できる仕組みを作り出す責任者になったら?

帰宅部 俺には責任者なんてムリ、ムリ。でも、このクラスじゃ、俺しかそんなことやらないよなぁ。誰か他の人つっても、いないし。俺が俺の見逃せない問題をスルーしちまったら、自治が成り立たないってことになって、問題はずっと問題のままなんだよなぁ。ああ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ…

木下 誰でも無理なく協力できるような仕組みを僕が作るって言ったろ。それを教えるよ。そしたら、きみは1人じゃない。安心していいよ

新聞部 こうやって誰かが特権的に仕切るんじゃなくて、みんながそれぞれ「クラスのみんなの問題」の中から自分の関心分野を自由に選んで、それぞれが自分の負った問題の解決を担うのを話し合うって、民主主義だよね

副委員長 そのとおり! クラスの全員が主人公なんだから。民主主義って、自分たちで自分たちの所属するクラスの問題を解決する「自治」から生まれるんだね

学級委員長 ただし、この自治ができれば、自分の担当する問題を誰もがもっていて、それぞれ分担し合うことになりますし、そのうえ自分以外の人が解決に取り組んでる問題にも関心をもって協力するとなると、それなりに時間も手間もかかりますね

帰宅部 そもそもさー、受験生の俺ら全員の本来やるべき仕事は、勉強じゃね?

副委員長 そうよ。でも、あたしたちの勉強という仕事は、いつか大人になって広いよのなかに出ていく時に役立つことをいろいろ学ぶってことだから、受験のための勉強だけをしてたら、「よのなかにある問題を解決したい」という気持ちになる人が、いなくなっちゃうじゃん

ヤンキー番長 ふっ。それが、これまでの大人が作ったよのなかってワケだ。勉強のできるヤツが政治家や役人の仕事してんのにさ、いつまで経っても貧乏人は貧乏人のまま。学校の成績の良いヤツ=みんなの問題を解決できるヤツ、じゃないんだ

木下 「受験のため」とか、「自分のため」だけで勉強してたら、僕らが大人になる頃のよのなかでも、「みんなが苦しんでる問題を解決したい」っていう人がいなくなっちゃう

学級委員長 たぶん、そうでしょう。では、みなさん、どうしたらいいと思いますか?

副委員長 ここにいる全員が共通して切実に考えてる問題が受験勉強であり、それ以外の勉強なら、受験勉強はできる人ができない人にわかりやすく教えてあげる仕組みにすればいいし、それ以外の勉強はこのクラスにあるさまざまな問題をそれぞれが解決することそのものなんだから、クラスのみんながお互いに無理なく助け合える仕組みを作って徹底させていけばいいんだわ

学級委員長 わかりました。その仕組みは絶対に必要ですから、みなさんがこれから自分の責任を果たしながら、その経験を通じて少しずつ作るとして、それでもクラス全員が一緒に集まって意見を集約するのに時間や手間などを奪われたら、それぞれの仕事も難しくなりますよ

新聞部 そう。そこでようやく、「間接民主制」とか「選挙」が必要になるんだ。みんなの代表者になる人たちを投票で選んで、その少人数の代表者が「僕ら全員の代理人」としてみんなの仕事がしやすい仕組みを統一ルールとして議決してくれればいいんだ

木下 代議士による政治の始まりだね。他のクラスと何かを交渉する際や、学校などに僕らの統一意見を伝える窓口としても、必要悪かもね。自治で全部できれば、代理人なんていらないんだから

副委員長 もちろん、クラス全員がそれぞれの問題の解決の仕事に取り組むの。その仕事をちゃんとやればこそ、仕事の実感から「こういう仕組みなら仕事しやすい」というアイデアを自分の頭で考えられるようになるし、その考えを選挙に出る立候補者に提案できるよね

新聞部 提案の声を聞いた立候補者は、その提案を実現するための公約を作って、ライバルの候補者よりすぐれた方法を考え抜き、公約を実現できるだけの説得力のある根拠を示すんだ

帰宅部 なんか、チョーめんどくさいんですけどw

ヤンキー番長 民主主義ってのはな、そういうものなんだぜ。実際に民主主義で国を運営しようと思えば、とんでもなく時間も手間もかかるから、なんとか「民意」(みんなの気持ち)から離れないような形でマシな仕組みに少しずつ育てていくしかねぇんだよ!

新聞部 それがイヤなら、あの教師がいた頃のように、俺たちの自由や権利を完全に無視してめちゃくちゃなルールを強いられる「独裁」で苦しむクラスに戻るってこと。逆に言えばさ、みんなが自治で運営することに合意し、それぞれが自分の義務を負うからこそ、このクラス全体の運営に口を出せる権利がみんなに保証されるわけ。義務=権利、責任=自由なの

副委員長 それに、みんながそれぞれの問題解決に取り組む仕事を毎日続けて、いろんなことを学んで賢くなっていけば、それまでの仕事を今よりはずっと効率良くできるようになるから、作業に費やす時間と手間は減っていって、余裕が生まれるのよ

帰宅部 そうなると、よりマシな仕組みを作れる人を俺らの代表者に選べる目も養われていくから、優秀な代理人たちが会議に残れるようになる。すると、選挙の回数も減りそう

副委員長 おっ、わかってきたね! 理想的に言えば、そうだよ。投票の時間や手間も減るの

木下 しかし、大前提として、みんながそれぞれ自分の担当する「みんなの問題」を解決する仕事に時間や手間をかけずに済む仕組みを常に考えたり、自分以外の人から広くマシな仕組みを学ぼう。そうしないと、いつまでも問題が残り続けて、仕事から解放されないしね

新聞部 そこで、自分が担当した「みんなの問題」を解決すれば、その解決の優れた仕組みを、同じ問題に切実に苦しんでる他のクラスや他の学校、あるいは外国にすら教えてあげられる。そのメリットにも気づいてほしい。教えれば、切実に困っていた相手にすごく感謝されるよ。そうすれば、クラスの外の人たちと、平和な関係が築ける

ヤンキー番長 俺の出番もなくなりそうだなw

帰宅部 外の人に教える前に、俺の方がその「優れた仕組み」を教えてほしいわw

木下 おっ、良いコト、言ったね。実は、僕らがそれぞれ解決しようとしてる「みんなの問題」を、すでに優れた仕組みで解決できた実例が、よその学校や外国なら、あるかもしれないじゃん

副委員長 そう! 関連本を読んで探してもいいし、ネット検索もできる時代だし、LINEグループのメル友や家族、塾の先生にも質問できるし。そしたら自分の頭の中で悩んでる時間が短縮できるもんね

帰宅部 ん~、やってみっかなー

ヤンキー番長 俺たちが俺たちの問題を自分たちできっちり解決しようとしなけりゃ、また新たな「センセイ」がやってくるかもしれねぇんだぜ。「おまえらじゃできねぇだろ。私がやってやろう。よっしゃ、よっしゃ」ってな。独裁がイヤなら、自治をやるしかねぇのよ。それに一番面倒なのは最初だけだろう

木下 プールに初めて投げ込まれた子どもの時は、ピーピー泣いて騒いだもんだよ。でも、そのあとは水の中で泳ぐのが楽しくなったもんな。ふだん付き合いを避けてた人ともお互いに助け合うようにすれば、慣れていくさ

学級委員長 そうでしょう

ヤンキー番長 コラッ、ホントにわかってんのかぁ? だったら俺に勉強をさっさと教えろや。おまえが俺を仲間だと思ってるならよォ

新聞部 番長の言うとおりだよ、委員長。もう、このクラスには、教師という独裁者はいない。他のクラスに自由に移れるわけでもない。委員長が番長をどれだけ嫌いでも、一緒に生きていくしかないんだからさ。彼が自力では解決が難しいことで、きみが朝飯前のことなら、せめて手を貸そうよ

副委員長 委員長、今は心の中でどう思っていようと、かまわないわ。それより、勉強ができなくて進学も苦しいという「みんなの問題」をサクッと解決できる委員長の技術を使うことは、番長だけじゃなくて、他の多くの子にとっても喜ばれることだと思わない?

学級委員長 僕は、勉強ができない人の気持ちはわからない。でも、そういう人を無視したり、蹴落としながら、自分だけ成績が良くなる生き方がいいとも思えない…

帰宅部 委員長、ムリしなくてもいいと思う。うん

学級委員長 いや、みんなに言われたからじゃないんです。今ここにある、いろんな問題を放置して大人になっても、また同じ問題に取り組むのかと思うと、一刻でも早く、1個でも多く、解決したいって思えたんですよ。手の施しようがないほど問題が大きくなって、僕たちが毎日続けてきた解決の努力が報われないよのなかなんて、生きるに値しないですからね

副委員長 そう! そのとおりなのよ!

ヤンキー番長 委員長よ。安心しな。おまえが隣の山田に襲われそうになっても、いつだって俺は助けてやるぜ

学級委員長 う、う、う…(泣)

新聞部 こんなふうにさ、自分が見過したくない、解決したいと思った問題に、みんながそれぞれ取り組み、お互いに助け合うのが、民主主義そのものなんだね

帰宅部 そうか! …ってことはさ、日本にはそもそも民主主義なんて無かったんだね。だって、俺らの親たち、「みんなの問題を解決するために働いてる」なんて言わないし、それどころか「あんたのゴハンのために頑張ってる」なんて言うしさ

木下 そのとおりだよ! もちろん、一部には、みんなの問題を解決するために働いてるという自覚と責任感のある大人もいるんだ。小さな会社の社長をやってるうちの母親は、「仕事は商品・サービスという形でみんなの問題を解決すること」って教えてくれたし。でも、多くの日本人、とくに経営者でない人たちは、自分の仕事の意味に気づいてないかもね

副委員長 「このクラス全体をどうしたいか」なんていう大きなことを考える以前に、「目の前の問題を自分がこのクラスの一員としてきっちり解決する責任を果たしたい」って思えて、実際にその仕事をまっとうすることが、主権者としての権利を行使するってことなのよ

木下 「あの人が苦しんでるのを見過ごしたくない。あの人と寄り添って解決していきたい」と思えるか、あるいは、「自分自身が困ってる。この苦しい気持ちを分かち合える人と一緒に解決に動きたい」と思えるか、そのどちらかの気持ちを前提に、民主主義は成り立ってるんだよね

帰宅部 なぁんだ。えらい人とか優秀な特権階級が、よろしくやってくれるのが民主主義じゃなかったんだ。俺、民主主義って、政治家を選挙で選べば、あとはあいつらがやってくれる仕組みのことだと勘違いしてた。民主主義って、俺らが自分の見過ごせない問題を解決する仕組みを作り出す仕事をまっとうするために、仲良くすることだったんかーっ

木下 政治家に文句ばっか言ったり、逆に「どんどんやれー」って応援するばかりで、みんなの問題を解決するという自分の責任を果たしてない人って、民主主義を知らないまま、自由に問題を解決できる自分の権利を真っ先に政治家に丸投げしてるってこと

帰宅部 そういう大人、ネットにいる、いるw まるで権力の暴走や独裁を望んでるみたいだわ。そういう意識がなくても、自分の仕事に無責任な国民だと政治家にとっては支配しやすいよな

木下 実際、「国民のおまえらにはできねぇだろ。だから指をくわえて黙って見とけ」っていう態度の政治家、多いよね。そういう政治家を見て、「どうせ自分には問題解決なんてできないし」と自分自身の自信の無さに居直る人も少なくない。自分の自信の無さに向き合わないと、民主主義なんて生まれようが無い

ヤンキー番長 祈ったり、大勢で叫んだりするだけでよのなかが変わってくれるなら、苦労はねえよなw 政治家にしてみりゃ、独裁にあぐらをかけるってワケだ

副委員長 ホント、あたしらの代理人にデカい顔させてどうすんの。あたしらのよのなかは、主権者のあたしらが作る。それを当たり前にすれば、政治家の出る幕が減って、彼らの権力も存在価値も小さくなるに決まってるのにね

ヤンキー番長 自分のメシを食うのに精いっぱいだった世代の大人たちには、自分と意見や生い立ちが違う人に対して「あいつも俺も同じ国の仲間」と感じられるだけの余裕が無かったんだろうよ

副委員長 戦後70年間、今日まであたしらだって、わからなかったもんね。自分のやるべき仕事を忘れて、何か困ったことがあると真っ先に政治家をおねだりすることしか考えてなかったもん。選挙は最後の最後の伝家の宝刀なのに、あたしたち自身でやるべきことをやってなかったら、選挙でまともな政治家を議会に送り出せるわけがないわ

学級委員長 僕たちは、新しい時代を作ろうよ。僕たちなら作れるよ!

新聞部 そうだね。少なくとも俺ら、今の大人たちに比べりゃ、ずいぶんマシだと思うもん。すでに同世代で動き出してる人たちがネット上にいっぱい見つかるしね

木下 政治家よりも、僕ら自身を信じれば、絶対できるさ。さあ、民主主義を始めよう!

副委員長 おー! 国民主権も始めよう!

ヤンキー番長 おー!

帰宅部 そっか。俺のこれからの人生、途方もなく長いし、なんだか、俺の興味ある差別問題の解決だけなら、できそうな気がしてきた。きっと俺らの世代なら作れるかもな、新しいよのなかを…


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