児童虐待防止法に定義はないが、「暴力や暴言もなく、育児放棄で命が危ぶまれるほど被害者が幼くもない。奪われるのは自分に使われるべき金」という経済的虐待だという。
記事で紹介されたのは、2件の高校生男子の事例だ。
以下、記事の一部を引用する。
高校2年生のミノル(17歳・仮名)には、毎月約1万円の校納金が必要だ。
それは、修学旅行の積立金も含んでいる。
校納金のため、奨学金を借りているはずだ。
ミノルは母子家庭で、生活保護を受けている。
ミノル名義の通帳は、自宅には不在がちの母親が管理している。
未納が続くため、ミノルが振込日にATMに向かうと、残額はゼロ。
家庭訪問で教員が母親と話せても、「払う」と答えて未納のまま。
ミノルはバイト代も一部は母親に引き落とされ、残額で食いつなぐ。
自分のために使われなかった奨学金を、卒業後に自分で働いて返済することになる。
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高校2年生のダイキ(17歳・仮名)は痩せて、皮膚は疾患でただれていた。
奨学金による校納金の未納だけでなく、親が面倒を見ていないのは一目瞭然。
教員の説得によって、親は奨学金口座の通帳をダイキに渡した。
スクールソーシャルワーカーの野中勝治さんは、「子に金を使う感覚がなく、今後も健康的に生活していけるとは思えない」と親権停止に乗り出した。
親権は、子の監護権や財産管理権を含む強い権利。
2012年4月から民法の改正で、家庭裁判所が認めれば最長2年の親権停止が可能になった。
申立人は親族や児相の例が多いが、今回はダイキ本人が申し立てた。
基礎知識を補足しておくと、10代後半になると、どんな虐待でも児童相談所で一時保護されることはまれだし、児相から養護施設や民間の自立援助ホームに保護しようにも、それらの施設は常にほぼ満杯だ。
思春期にさしかかると、里親として受け入れる人も少ない。
こうなると、虐待される当事者のハイティーンの選択肢は3つしかない。
① 世帯分離して、虐待する親以外の家で働きながら暮らす
② 家出して自活する
③ 高校を卒業して就活し、家を出ていけるまで、すさんだ親との暮らしに耐えぬく
上記3つのうち、現状で一番多いのは、③だ。
18歳まで精神的に追い詰められる毎日を続けていれば、子どもの精神も病んでしまったり、「何をやろうと自分も親のようなダメ人間になるのでは…」という不安で自己評価が低い性格に育ってしまう恐れが高まる。
そこで僕は、1999年に『完全家出マニュアル』という本を出した。
②の可能性を世に問うためだ。
約16年前の本で絶版になっているが、今日でも図書館の片隅にあるかもしれない。
虐待防止や子どもの自立支援に十分な予算が割かれない日本では、児童相談所は「事実上の機能不全」状態にある。
国によって法的に保護されない以上、子どもであろうと、自分で自分の身の安全と生活を守る他に無い。
●家出先が多様に増えた今日では、ソフトランディングが重要
今日では、保証人不要で入居できる公団=UR賃貸や、シェアハウス(ゲストハウス)などが多様にあり、家出しても仕事さえしていれば安い家賃で居場所を得ることが可能だ。
だから、2004年に『ゲストハウスに住もう! TOKYO非定住生活』(晶文社)という本も出した。
全国各地でいろんな形の共同生活をしている人々を取材し、2003~2004年に建築雑誌『home』(エクスナレッジ/※既に休刊)で毎月連載した記事をすべて収録した電子書籍『〈脱・血縁〉の共同生活スタイル』も発売している。
10年以上前から、この国にはさまざまな事情から「非・血縁」のコミュニティを作って暮らすことが多様に試行錯誤されているのだ。
もっとも、そうした情報自体、当時は10代に届くものではなかったが、インターネットの普及によって今日ではシェアハウスに逃げ込んでくる10代は珍しくなくなった。
避難先が多様に増えた以上、いきなりそこへ逃げる以外の方法も選択肢として十分に検討する必要がある。
前述したような「経済的虐待」は、公的機関が把握できていないだけで、決して珍しいものではない。
手元にシェアハウスに入るお金すら無い10代にとって、真っ先に必要なのは、虐待の不安を感じずに暮らせる居場所だ。
一部のNPOでは、衣食を満たせる程度の一時的な居場所は提供できているが、暮らしながら学校へ通う「住」の部分が弱い。
それは、10代にアルバイトをさせるだけの保護者としての権限が無かったり、住民票を得させるだけの交渉を親とできない事情があるからだ。
つまり、親権を停止させない限り、どこまでも親がわが子に対して支配的に振る舞えてしまうという恐ろしい権利行使の実態をすぐには変えられない弱さが、支援団体にあるのだ。
もちろん、ソーシャルワーカーを探し、支援スタッフになってもらって、前述の事例のように停止に持ち込むことはできる。
もっとも、それ以前に、すさんだ親の影響を受けて不良行為や自傷行為を繰り返す当事者の10代を否定しない言動を支援団体がしているかといえば、お寒い限りだ。
それでも、打開策はある。
国の法律がどうであれ、虐待する親の多くは、親権の法的権限の大きさも、停止される要件も、ほとんど知らない。
だから、事情をよく知る学校と地域の支援NPOが手を組み、当事者の10代にとって居心地の良い場所を提供するといい。
学校は独身教師たちの家に半年ごとに生徒との同居を勧め、支援NPOはそれを親が納得しやすいようにプロの臨床心理士やソーシャルワーカーを派遣するのはどうか。
若い教師にとっては、教育の社会的価値を知るのにちょうどよいチャンスになる。
親業の大変さも理解でき、保護者との付き合いの大事さも骨身にしみるだろう。
そして、学校教師が保証人になってアルバイトをさせ、生徒の生活を生徒自身が守れるようにすると同時に、親の知らない銀行口座を作ってもいいかもしれない。
支援NPOは、プロボノとしてカウンセラーやソーシャルワーカーに登録してもらうか、彼らに年間で仕事をしてもらうだけの人件費をクラウドファンディングなどの寄付で集めても間に合うはずだ。
こんなことを書いているのは、児童虐待や家出の本を出している僕に、「家出したら親が追いかけてきて怖い」とか「毎日違う男が家に来るので夜は朝まで街にいる」というメールが、母子家庭・父子家庭の10代からしょっちゅう届くからだ。
親自身の病気や貧困、孤独などの課題を解決しなければ、虐待は終わらない。
虐待をしたくてしてるわけではない親も少なくないが、何より少ないのは親への支援なのだ。
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