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■18歳の選挙権と民主主義を学ぶ6冊の教材本

 2016年6月から18歳以上が選挙で投票できることになったのをふまえ、総務省と文科省では高校生に向けての副教材をダウンロードできるようにした。

 『私たちが拓く日本の未来 有権者として求められる力を身につけるために』と題されたこの副教材には、18歳未満では選挙運動ができないことなど、基本的な素養が描かれている。

 もっとも、国家の与える説明や文脈をそのまま教育現場に持ち込むことは、考える力を養うチャンスを奪うことにつながりかねない。

 そういう意味では、学校で主権者教育(政治教育)を担当する教師も、自分の頭で考えて自分の暮らす社会をもっと生きやすいものに変えたいと望む高校生たちも、市販の本から学ぶほうがいいだろう。
 実際、ダウンロードをプリントアウトして使うよりは、本という形で携帯した方が使いやすい。

 そこで、18歳の選挙権についてわかりやすく解説すると同時に、主権者教育の現場で役立ちそうな本をピックアップしてみる。

 『18歳からの選挙 Q&A』(全国民主主義教育研究会・編/同時代社)は、18歳選挙権が成立するまでの歴史的経緯や、高校生でも18歳以上なら選挙運動に参加できるようになった意味、政策を判断するために政党の紹介、模擬投票や政策討議の仕方などまで網羅している。


 『18歳選挙権に対応した 先生と生徒のための公職選挙法の手引』(18歳選挙権研究会・監修/国政情報センター)は、教員や高校生の方々に向けて、政治活動や選挙運動に関する留意点を実例を交えて解説した本。
 教員の政治的中立や、生徒が陥りやすい選挙運動違反、法令上の解釈からQ&Aを紹介している。

 政治教育の理念だけでなく、選挙運動や投票行動を実践的に解説しているので、授業時間が短い教育現場の先生には重宝する1冊かもしれない。

 ただし、これ1冊だけだと、ただの法令的な手続きしか学べない恐れもあるので、主権者教育の本筋から言えば、他の本と併用するのがベターだろう。
 生徒側はとくに買う必要はなく、教師側も学校に1冊あれば十分なので、図書館への予約リストに入れておくのが賢明。

 18歳選挙権の手引き ~改正法の詳細から主権者教育の現状/事例まで~(18歳選挙権研究会・監修/国政情報センター)も、同じ編著者と出版社のもの。
 つまり、学校図書館に1冊購入しておけばいい。

 だが、模擬選挙・出前授業の実践例やマニュアルが丁寧に紹介されているので、学校教師の社会科はもちろん、選管職員、塾教師など、模擬選挙を指導したり、出前授業を仕事として担当する職種の人は必携の1冊といえる。

 とくに、海外における主権者教育の実践例が紹介されているので、教育関係者は刺激を受けるかもしれない。
 高校生は、図書館で探して読めば十分。

 もっとも、値段が2700円と高価なので、手が出せないだろう。この手の本はもっと安くしてほしいものだが、専門書で、なおかつ話題の頃しか売れないものは、この値付けも仕方ない部分がある。

 『民主主義って本当に最良のルールなのか、世界をまわって考えた朝日新聞「カオスの深淵」取材班東洋経済新報社)は、タイトル通り、民主主義そのものを疑ってみた本だ。

 一度も投票が行われていない日本の小さな島にある村の長やフランス大統領など国内外の事例を引き合いに、選挙や投票の意味を考えさせる。

 日本は、選挙によって間接的にも民主制の体をなしてはいるものの、民主主義が自治と対等な関係を前提に成立するいうことをマインドの部分で理解していない人が圧倒的な多数派だ。

 社会科の教師ですら、「自治」を経験してないまま、大学からそのまま学校という職場に来ているわけだから、本書は目からウロコの1冊になるかもしれない。
 高校生はむしろこの本を読んで、世界で試みられている民主主義や選挙、投票の意味を自分の頭で考えるところから、主権者としての自分の権利や義務、自由と責任について目を開くといいだろう。

 最後にあえて紹介しておきたいのは、『民主主義って何だ?』(高橋源一郎・SEALDs・著/河出書房新社)だ。

 デモで有名になったSEALDsと作家の高橋源一郎さんの語りが主な内容だが、これは一種の「トンデモ本」の類に位置づけられるかもしれない。

 牧歌的な心情左翼が民主主義を語る本書は、前述したべつの民主主義や選挙の本と比べた瞬間に、大衆迎合主義を強く印象づける。

 高校生や未成年は、こうした一時的なムーブメントに対して冷静に受け止め、「選挙よりもっと実効性の高い社会変革の仕組みを学ぶ必要がある」と悟るかもしれない。

 いずれにせよ、高校生が大人になって働き出してから、図書館の片隅で懐かしく読む頃に、「熱くなって叫んでいても現実は変わらない。べつの社会変革の方法を学ばないと、選挙の意味も矮小化してしまうかも」と気づくために出版されたような本である。


 おまけに、『選挙ってなんだろう!?』高村正彦島田晴香・著/PHP研究所)も紹介しておこう。
 政治家とアイドルが手を組んだ「いかにも大衆迎合」な1冊だ。

 表紙がSEALDs本と同様に国会議事堂を前に撮影しているのは、意図的だろう。
 自民党の政治家が現役バリバリの国民的アイドルグループAKB48のメンバーと「共著」を出すのだから、「他意はありません」が通じるわけがない。

 これは、政治や選挙を学ぶ本というより、「話のネタ本」といっていい。
 内容は、「多数決原理は長い目でみると比較的正しい」とか、「日本国民が戦後70年かかって達成したいい点と悪い点はなにか?」とか、戦後の与党として長期政権を担ってきた自民党の自画自賛の文脈のオンパレード。



●社会を変えるのは、本当はきみが毎日やってる仕事

 僕は右翼でも保守派でもないし、そもそも政治思想の左右にはさほど興味がない。
 日本では、政治思想はもちろん、民主主義を理解している人がどれほどいるのか疑わしいと感じてる。

 そうした状況で政治的関心をもつと、「どの政党を支持するか」とか、「投票率を上げよう」という話になりがちだが、そもそも政治家は国民の代理人である。

 国民主権の国家なら、主権者である自分や仲間の困っていることを国民の自分たち自身が解決しようという発想を真っ先にもつのが当然だが、日本人は「とにかく代理人の政治家にやってほしい」という期待を真っ先に持ってしまう。

 その構え自体が「自治」のマインドから遠いことに気づくのなら、この国は21世紀になってもまだ民主主義を文化として受け入れてないことにも思い当たるだろう。

 それでも、民主主義を支持するなら、選挙という非日常的な社会変革の手段よりも、日常的に生きづらい社会の仕組みを変えていける「自分の仕事」について、もっと深く考える必要があるんじゃないかな?

 仕事を「ガマンしてイヤな作業をすることで固定給をもらって生活を成り立たせる手段」として考えるのではなく、「生きづらい社会を少しでも生きやすいものへ変えられる商品・サービスを開発・販売してみんなに笑顔になってもらうことを喜ぶための手段」に変えていこう。

 そうした構えで働くことができないのは、所得や学歴などの格差が固定しつつあるから、かもしれない。
 「低学歴→低所得→仕事の社会的価値など考えられる余裕もない…」という人から遠い場所に、「高学歴→高所得→余裕があっても自分の暮らしを守るだけ」という人たちがいる。
 この溝を軽々と埋められる方法や、無理なく結びつけられる回路について、僕は考え始めてる。

 それは、アート・デザイン界では「超福祉」という文脈で提供されたものだし、ビジネス界では「ソーシャルビジネス」が試みられ、音楽でもさまざまな形で「溝を埋める」試みが始まっている。
 お金のある人・ない人、学歴の高い人・低い人など、互いに相手を分断し合う仕組みから自由になり、「混ぜるな危険」なんて言葉が消えればいい。
 人は、もっと自由になれる。

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