『ギター1本の弾き語りで聞かせるアーチストまとめ』の続編として、今回も5人のアーチストを紹介してみたい。
ふだんはバンドスタイルで演奏される曲でも、ギター1本で作曲している場合は少なくないし、それゆえにギターと自分の声だけで伝えられるものが豊かであることを確認しておきたい。
Youtubeには、そういうレアな演奏の動画が結構あるので、調べるだけでも楽しい作業だ。
シンプルな演奏では、ギターの演奏力や歌声の力などがダイレクトに伝わるが、演奏力や声質だけではない魅力が、弾き語りの生演奏にはある。
そのへんのポイントも解説しながら、今回は日本人を中心に5人の演奏をピックアップしてみよう。
さぁ、どうぞ!
■斉藤和義 『歌うたいのバラッド』
この曲はファンの間でも人気が高いが、斉藤和義のギターの演奏力の確かさも感じさせる。
バンドを従えてのライブの途中に静かに聞かせるのにちょうど良いだけでなく、歌のモチーフが「歌うたい」であるだけに、ギター1本がとても似合う楽曲だと思う。
ライブで彼の生の肉声を聞きたくなってしまうからこそ、1番だけでも公表したのだろう。
ちなみに、この曲はいろんなプロのアーチストがカバーしているが、斉藤和義より年上の奥田民生がストロークで歌いあげるバージョンも、この曲に対するリスペクトを十分感じる。
■岡林信康 『チューリップのアップリケ』
1960年代、「フォークの神様」と呼ばれた岡林信康は、美空ひばりとも友だちだった。
譜面が読めない美空に、「俺もや」と笑って曲を提供したそうだ。
貧しい労働者の視点で作った歌で支持された岡林は、プロテストソング(規制の社会に反抗する内容の歌)としての印象が強いが、それゆえに演歌との親和性も高かった。
ちなみに、大人気だった当時、細野晴臣・松本隆・大瀧詠一・鈴木茂など後に日本の音楽業界をリードするメンバーで構成された「はっぴぃえんど」をバックに従えてライブ演奏していたのは、今では伝説だ。
それぐらい、1960年代当時は、メロディやリズムより歌詞に人気の比重があったともいえる。
生活に根差して歌詞を作る点は、今日でも十分響くものだろう。
■スガシカオ 『あだゆめ』
都会の孤独を歌わせると、スガシカオは天下一品かもしれない。
この歌もSMAPに提供した『夜空ノムコウ』を思わせるが、歌詞も自分で書いている。
時代の閉塞感も背負ってる印象のスガシカオ・ワールドなのだが、ギター1本で歌ってもカッコイイのは、メロディメーカーとして優れているからだろう。
ちなみに、Youtubeにはギター1本で演奏される『午後のパレード』も公開されており、ファンも一緒に歌っている。
■山崎まさよし 『One more time,One more chance』
山崎まさよしといえば、今のところ、この曲と『セロリ』で有名ってことになるんだろう。
もっとも、ギターを覚え始めの中学生でもできそうなプレイに聞こえても、実際にやってみると、この基本的なフレーズのくり返しを情感を込めて歌うのは、なかなか大変なはずだ。
このシンプルな演奏も、彼の作るストレートな歌詞とあいまって魅力的に聞こえることを考えると、改めて「歌は人なり」と思わせる。
ちなみに、Charとギターで共演した『セロリ』の演奏は絶品だ。
どれだけこの人がギターが好きなのか、よくわかる。
■永積タカシ 『サヨナラCOLOR』
ハナレグミの名曲で、なにより心に染み入る歌詞が良く、シンプルな弾き語りの演奏にも適している。
メロディはフォークの系譜を組みつつ、多くのプロ・ミュージシャンがカバーしている。
確かに歌いたくなる楽曲で、忌野清志郎との演奏もYoutubeにアップされている。
そろそろみんなと同じように生きていても面白さを感じない閉塞した時代の中で、ストレートに響いてくる楽曲だ。
こういう歌はヒットチャートに上らないが、ひたひたと歌い継がれていくだろう。
●シンプルな楽曲で、心を伝える
ギター1本で弾き語りをしても十分に魅力的な楽曲は、世界の誰もが真似しやすい。
だから、そういう演奏の動画を観て、ギターやピアノの練習を始めた人も多いはずだ。
「あんなふうに歌いたい」とか「「真似したい」と思われることは、それ自体が歌を強く印象づけると同時に、真似た人の演奏で歌が草の根的に知られていくことにもなる。
そもそも歌は、20世紀に音楽が複製商品として流通する前から「口伝え」で分かち合われ、歌い継がれてきた。
口伝えで誰かの口からべつの誰かの耳へ、そしてまた誰かの耳へと分かち合われる伝言ゲームでは、楽曲のシンプルさや聞き心地の良いキャッチ―さが重要なファクターになる。
民謡や祭りの歌、仏教の声明などが、数千年の時を経て今なお節回しとリズムを保ちながら歌い継がれていることを思えば、口伝えに乗りやすいシンプルな演奏は、インターネットの普及で世界同時共有ができる時代には、ますます重要な音楽シーンに育っていくかもしれない。
シェアしやすい演奏のあり方として、弾き語りは音楽ビジネス的にも見逃せないスタイルだろう。
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