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■借り物競争が、生きづらい社会を変える

 4年前の2011年度のグッドデザイン賞の「社会貢献活動のデザイン」部門で、障がい者によるスィーツの製造・販売を手がけるテミル(東京・港)による「テミルプロジェクト」が受賞した。

 障がい者が通う福祉作業所の多くは、同情でしか買ってもらえない商品しか製造できていない。
 そのため、全国平均で月に13000円の工賃しか得られない(注:就労継続支援B型事業所の場合)。
 障害基礎年金と合わせても、結婚や出産、子育ては難しいままだ。

 そこでテミルは、有名なパティシエを起用し、簡単で最高に美味しいスイーツを作れるように福祉作業所で働く知的障がい者にレシピと指導を提供。
 絵本作家による魅力的なパッケージで商品力を高めることで、低い工賃の問題の解決を始めたことが評価された。

 トップパティシエとして有名な辻口博啓(注:NHK朝ドラ『まれ』の製菓指導も担当)の考えたレシピを元に、辻口さんの指導の下、社会福祉法人はるにれの里(北海道石狩市)が運営しているパン屋「こむぎっこ」に通所する知的障がい者による製造・販売を始めたのだ。

 同社を立ち上げる前は社会福祉士として働いていた、テミルの代表・船谷博生さんは言う。

「商品自体に力がなければ売れず、障がい者の最低賃金は保障できません。
 知的障がい者が一般企業に採用されるケースは少なく、授産施設は福祉施設ですから、労働を提供することを主目的にしていないため、市場で求められる商品を作っているとはいえません。
 そこで、品質の高い商品を作り、障がい者と健常者の精神的な距離を解消しようと考え、味の魅力を最優先した商品を開発したのです」

 テミルプロジェクトは、惜しくも大賞候補には漏れてしまった。
 だが、商品開発において各方面のプロをブッキングし、商品力を高めると同時に、障がい者に経済的自立と就労の楽しさを提供できるこうした仕組みは、今後の福祉業界におけるソーシャルビジネスの一つの有効な方向性を示唆した。



●外部のさまざまな力を借りれば、経営課題は解決できる

 上記の記事は、2011年に「オルタナ」で発表したものだが、テミルプロジェクトはその後も全国各地の障がい者支援施設と組み、続々と新たな商品を開発していった。
 施設を運営する団体の代表者が、通所する障がい者への工賃の低さに心を痛め、「自分たちだけでは工賃アップが見込めない」と判断したなら、ぜひテミルに相談してみてほしい。
 テミルでは、やる気のある団体とのコラボ連携を進めている。

 この記事で学ぶべき点は、従来のように施設運営者が「障がい者にはこの程度しかできない」と考えて軽作業をさせるのではなく、障がい者各自の個性や能力、知識や技術などを上手にマネジメントすれば、プロのパティシエの指導にも耐えられ、単価の高いスィーツを作ることができるという現実だ。
 団体の外部にいる、テミルのような福祉業界を熟知した人材に相談し、一緒に商品を開発するという構えを持てば、施設運営者やその周辺では絶対にムリだと思っていたことも実現できるのだ。

 このことは、福祉業界だけに限った話ではない。
 ホームレス、難民、在日外国人、LGBT、ひきこもり、不登校など、さまざまなマイノリティ属性(社会的少数者)が抱える課題も、「外部の人材」に声をかけることによって、優れた解決の仕組みを作り出せる。
 逆に言えば、いつまでも団体の内側で変わりばえのしない仕事をしていれば、損をするのは被支援者ばかりだ。

 有名なミュージシャンに依頼し、団体や商品のテーマソングを作ってもらって、活動の広報に一役買ってもらってもいいだろう。
 商品開発の時点で地元の青年会議所にいる若社長たちの知恵や販路を借りてもいいだろうし、福祉を学ぶ大学生や専門学校生に呼びかけてボランティアとして手伝ってもらうことも試みたらいいだろうし、地元の新聞の編集部に商品の広報として記事にしてもらうように頼むのもいい。

 このように、自分たちの団体に無いスキルや知識、経験、資金などは、地域にいくらでもいるさまざまな人材を巻き込んでいく「借り物競争」こそが、課題解決の大きな突破口になるのだ。
 3・11以後、支援活動に共感する人は増えており、声さえかかれば、できることであれば何か一緒にしてみたいと考えている市民は少なからずいる。
 誰もみな万能ではないからこそ、お互いのスキルや知識、経験を持ち寄れば、課題解決の喜びを分かち合えるのだ。

 下記にテミル代表・船谷さんによる講義の動画を紹介しておくので、ぜひゆっくり見てほしい。


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