ホワイトハンズ(新潟市)は、新潟県内を中心に性の介護を行う非営利団体だ。
自力での射精が困難な障がい者向けの「射精介助」のサービスや、性的虐待など性に関する問題解決の専門家を育成する通信講座などを提供している。
射精介助の利用対象者となるのは、二次障害の進行によって自力での射精が困難な脳性まひの人、難病による筋萎縮や麻痺のために自力での射精が困難である人(髄膜炎、関節リウマチ、筋ジストロフィーなど)。
実際のサービスは、ケアスタッフが介護用手袋を着用し、射精を介助する。
セックス・ワーク(性風俗・売春労働)とは異なり、明確な倫理基準・衛生基準に基づいた「職業的介護行為」としてサービスを提供している。
このサービスの利用者は、2008年に日本で初めて同団体が始め、2011年6月までに全国18都道府県で250人を突破した。
2011年4月に同団体が発行した『障害者の性」白書』によると、サービスを利用した人は「毎日の暮らしのストレスが減り、精神的な安定感が増した」「男性として正常に機能していることを確認できた」など心理的に良い効果を告白している。
「臨床性護士」を養成する通信講座「ホワイトハンズ・プログラム」や、「性の介護」検定も開発し、個人や社会の性に関する問題を解決していく専門職「セクシャル・ワーカー」の育成にも力を入れている。
性犯罪や性的虐待、性同一性障害など、ほかの人には言いづらい悩みやトラブルから解放するのが目的だ。
ホワイトハンズの坂爪真吾・代表理事は、東京大学でジェンダーとセクシュアリティを専攻していた。
2006年夏に要介護者への性介助情報サイト「ピーチ・ケア」を立ち上げ、情報収集と情報発信を開始した(※現在サイトは閉鎖されている)。
介護現場の実情を探るためにヘルパー2級を取得し、ヘルパーとしてコムスンにも勤務した。
そして、2008年4月、ホワイトハンズと勉強会「ホワイトハンズ大学」を立ち上げた。
坂爪さんは、「すべての身体障がい者・患者・要介護者が性の介護を当たり前のケアとして受けられるようにしたい」と意気込む。
●障がい者の性から、「性の新しい公共」へ
上記の記事を「オルタナ」のオンラインで書いたのは、2011年のことだ。
その後、ホワイトハンズは精力的に活動を続けているが、その事業活動を何度も「オルタナ」で書きたいと提案したが、ついに実らなかった。
編集部は、性に関する事業を嫌がっていたようだ。
彼らは「代理店病」に冒されてしまったんだろう。
しょせん、その程度のソーシャル・マインドなんだろうから、こちらからお断りするしかない。
一方、代表の坂爪さんは「新しい性の公共」のビジョンを明確にするために、3冊の本を書き下ろした。
処女作は、『セックス・ヘルパーの尋常ならざる情熱』 (小学館101新書) 。
在学中に上野千鶴子ゼミに所属し、新宿・歌舞伎町などで性風俗産業に関わる人々を取材した著者は、風俗業界の惨状と問題点を明らかにした研究論文「機械仕掛けの『歌舞伎町の女王』」を発表。
大学卒業後、誰もが安全な性サービスを受けられるインフラ作り――新しい「性の公共」を求めて「ホワイトハンズ」を起業した後も、「処女童貞卒業合宿」などをめぐって警察や行政と激しいバトルを繰り広げたことや、妻になる女性と出会って2週間で結婚を決め、2か月後に入籍した「パートナー募集要項」作戦のことも書かれている。
まず、読み物として面白いので、性に関心がない人でも楽しめる1冊になっている。
社会を変えるためのアクションをする際に、既得権益といかにぶつかってしまうかについても、よくわかる本だ。
社会福祉を学んでいる学生には、必携の1冊といえる。
次に坂爪さんが書いたのは、『男子の貞操: 僕らの性は、僕らが語る』(ちくま新書 1067) だ。
「射精介助サービス」や「ヌードデッサンの会」「セックスワークサミット」などを事業化している著者が、「いままで真剣に語られてこなかった男の性の問題」として、以下の7つの疑問に答えるという内容だ。
「そもそも射精はなんのためにするの?」
「自慰のときに何をオカズにすればよい?」
「どこからどこまでが童貞なのか?」
「モてる、モテないでは語れない恋愛って?」
「初体験の時、何を気を付ければよいのか?」
「風俗はどういう仕組みになっているの?」
「結婚したところでいいことあるの?」
一見、下世話にも思われる問いかけだが、この一つ一つに真摯に答えるところに、従来の「性の公共」への疑義がある。
僕ら男子が当たり前のように思っていたことが、当たり前ではないことに気づかされる読者は少なくないだろう。
そして、最新刊になるのが3冊めの『はじめての不倫学 「社会問題」として考える』(光文社新書) だ。
子どもや若者世代の貧困、ひとり親家庭や生活保護、高齢者の孤独死など社会問題の背景には、「不倫」がもたらす家庭破綻、それに伴う経済状況や健康状態の悪化が潜んでいる。
にもかかわらず、「不倫は個人の色恋沙汰」「モラルの問題」としてとらえられてしまっている。そこで、「既婚者が不倫の誘惑に抵抗するためにはどうすればいいか?」を考えというものだ。
既存の「結婚」に囚われない多様なあり方を実践している男女への取材をまじえながら、「不倫」を「個人の問題」として捉える視点から脱し、「社会の問題」として捉えなおすことによって「不倫」の予防と回避のための処方箋を提供する「本邦初の実践的不倫学」。
「夫婦関係や家庭を壊さない婚外セックス」という章では、不倫ワクチンとしての疑似不倫体験や、「己を持たざる者、セフレを持つべからず」、オープンマリッジ、ポリアモリーの多様な形など性の多様性についても触れている。
ナンパ禁止論や反・不倫論で話題を呼んでいるコラムニスト勝部元気さんが男性からの立場で女性に厳しい社会に真っ向からダメ出しをした『恋愛氷河期』(扶桑社)と併読されると、面白いかもしれない。
ちなみに、坂爪さんがホワイトハンズ大学を通じて風俗業界とも密接に関わっている理由については、彼自身が書いたこのテキスト(←クリック)を読んでほしい。
障がい者の性の介護から始まり、障害のあるなしに関係なく「性の新しい公共」を作り出していこうとする時、現状のセックスワークを看護・介護の福祉的な文脈で読み直し、高度に洗練させようとしているホワイトハンズの試みは、もっと注目されていいはずだ。
人はだれでも社会の仕組みからの影響によって、生きづらさや不便、困難を抱えている。変えるべきは、個人の属性ではなく、社会の仕組みそのものなのだ。
編集部は、性に関する事業を嫌がっていたようだ。
彼らは「代理店病」に冒されてしまったんだろう。
しょせん、その程度のソーシャル・マインドなんだろうから、こちらからお断りするしかない。
一方、代表の坂爪さんは「新しい性の公共」のビジョンを明確にするために、3冊の本を書き下ろした。
処女作は、『セックス・ヘルパーの尋常ならざる情熱』 (小学館101新書) 。
在学中に上野千鶴子ゼミに所属し、新宿・歌舞伎町などで性風俗産業に関わる人々を取材した著者は、風俗業界の惨状と問題点を明らかにした研究論文「機械仕掛けの『歌舞伎町の女王』」を発表。
大学卒業後、誰もが安全な性サービスを受けられるインフラ作り――新しい「性の公共」を求めて「ホワイトハンズ」を起業した後も、「処女童貞卒業合宿」などをめぐって警察や行政と激しいバトルを繰り広げたことや、妻になる女性と出会って2週間で結婚を決め、2か月後に入籍した「パートナー募集要項」作戦のことも書かれている。
まず、読み物として面白いので、性に関心がない人でも楽しめる1冊になっている。
社会を変えるためのアクションをする際に、既得権益といかにぶつかってしまうかについても、よくわかる本だ。
社会福祉を学んでいる学生には、必携の1冊といえる。
次に坂爪さんが書いたのは、『男子の貞操: 僕らの性は、僕らが語る』(ちくま新書 1067) だ。
「射精介助サービス」や「ヌードデッサンの会」「セックスワークサミット」などを事業化している著者が、「いままで真剣に語られてこなかった男の性の問題」として、以下の7つの疑問に答えるという内容だ。
「そもそも射精はなんのためにするの?」
「自慰のときに何をオカズにすればよい?」
「どこからどこまでが童貞なのか?」
「モてる、モテないでは語れない恋愛って?」
「初体験の時、何を気を付ければよいのか?」
「風俗はどういう仕組みになっているの?」
「結婚したところでいいことあるの?」
一見、下世話にも思われる問いかけだが、この一つ一つに真摯に答えるところに、従来の「性の公共」への疑義がある。
僕ら男子が当たり前のように思っていたことが、当たり前ではないことに気づかされる読者は少なくないだろう。
そして、最新刊になるのが3冊めの『はじめての不倫学 「社会問題」として考える』(光文社新書) だ。
子どもや若者世代の貧困、ひとり親家庭や生活保護、高齢者の孤独死など社会問題の背景には、「不倫」がもたらす家庭破綻、それに伴う経済状況や健康状態の悪化が潜んでいる。
にもかかわらず、「不倫は個人の色恋沙汰」「モラルの問題」としてとらえられてしまっている。そこで、「既婚者が不倫の誘惑に抵抗するためにはどうすればいいか?」を考えというものだ。
既存の「結婚」に囚われない多様なあり方を実践している男女への取材をまじえながら、「不倫」を「個人の問題」として捉える視点から脱し、「社会の問題」として捉えなおすことによって「不倫」の予防と回避のための処方箋を提供する「本邦初の実践的不倫学」。
「夫婦関係や家庭を壊さない婚外セックス」という章では、不倫ワクチンとしての疑似不倫体験や、「己を持たざる者、セフレを持つべからず」、オープンマリッジ、ポリアモリーの多様な形など性の多様性についても触れている。
ナンパ禁止論や反・不倫論で話題を呼んでいるコラムニスト勝部元気さんが男性からの立場で女性に厳しい社会に真っ向からダメ出しをした『恋愛氷河期』(扶桑社)と併読されると、面白いかもしれない。
ちなみに、坂爪さんがホワイトハンズ大学を通じて風俗業界とも密接に関わっている理由については、彼自身が書いたこのテキスト(←クリック)を読んでほしい。
障がい者の性の介護から始まり、障害のあるなしに関係なく「性の新しい公共」を作り出していこうとする時、現状のセックスワークを看護・介護の福祉的な文脈で読み直し、高度に洗練させようとしているホワイトハンズの試みは、もっと注目されていいはずだ。
人はだれでも社会の仕組みからの影響によって、生きづらさや不便、困難を抱えている。変えるべきは、個人の属性ではなく、社会の仕組みそのものなのだ。
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