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■女性を抑圧する社会を、女性自身の手で変える

 アジアといえば、中国やインドなどのめざましい経済的躍進が盛んに語られる。
 その一方で、女性が重労働や売春などで働くしか生きていけない国も依然としてある。

 カンボジアの18歳以上の女性を対象にグラフィックデザインのコンテストを開催し、優秀なデザインを発掘して商品企画を手がけることで、デザイン著作権使用料で女性の自立を進めるプロジェクトが始まった。
 ドリーム・ガールズ・プロジェクトだ。

 同プロジェクトの代表・温井和佳奈さんは、東京生まれ。
 女性に「はい」としか言わせない封建的な考えの会社経営者の父親の下で育った。
 大学に行きたくても、許されなかった。
 家から出たかった。

 短大を卒業し、証券会社で働いていた頃、株投資で1000万円を得た。
 親に相談せず、アメリカのボストン大学への留学を決めた。
 ようやく自分のやりたいことをやれるのに、成田空港で心細くて泣いてしまった。
 父からの抑圧から抜けてみると、ビックリするぐらい不安だった。

 間違えて、到着ロビーにいた。
 そこで、「じゃぱゆきさん」と呼ばれていたフィリピンの女性たちを見た。
「この人たちは夜に働く人たち。
 どこまで望まないことをやる人たちだろうと思った。
 家族にお金を送る固い決意なのか、彼女たちは泣きもせず凛としていた。
 その時、私は彼女たちのやりたいことがやれる社会にしたいと強く思った」
(温井さん)

 帰国後、彼女はITベンチャーを立ち上げた。
 社員は多い時で20人近くになった。
 毎月1000万円の仕事がないと破産だ。
 睡眠も満足にとれない。
 何のために仕事をするのかもわからないぐらいだった。

 そして、12年続いた会社の社長の座を譲り、タイやフィリピンなどアジア諸国を回った。
 これからは自分の人生ミッションしかしないと決めた。
 温井さんは、カンボジアに惚れた。
 人がひたむきで純粋。
 日本語学校の生徒たちは「夢は日本企業に入ること」「日本料理屋をやりたい」と言い、『川の流れのように』を一生懸命に歌った。
 泣けた。

 アンコールワットの遺跡を見た時も、彫刻のレベルの高さに深く感動した。
 だが、パッケージデザインはタイやベトナムに発注されている。
 高い芸術性を築いた歴史と文化があり、中国や韓国などの企業が数千社も入っている国なのに、高学歴の若者が飲食店で働いている。
 能力があっても、仕事がないのだ。

 20099月、温井さんはアジア途上国の女性の才能発掘と自立をプロデュースする株式会社ブルーミング・ライフを立ち上げた。


●夢を夢のままで終わらせない

 資本金は、友人と共に集めた750万円。
 自分の食い扶持は、当面、企画塾など他で稼ぐことにした。

 翌2010年には、アジアの女性が自分のやりたい職業で自己実現ができるチャンスを創り、成功をプロデュースするドリーム・ガールズ・プロジェクトを本格的にスタートさせた。

 カンボジア国内の貧しい学生だけを集めたNGOの学校や日本語学校、地元の店など30箇所に飛び込みでデザインコンテスト公募のチラシを撒き、応募作品の回収をお願いした。
 郵便局から日本に送ろうにも、紛失してしまうことがあるからだ。

「コンテストの応募が始まると、『働く場所がないから本当に感謝しています』『このコンテストを知った時、興奮して眠れませんでした』など手紙がたくさん届きました。
 カンボジアには図工や美術の授業も学校にはありません。
 水彩絵の具を買えない人は色鉛筆で画用紙に書いてもらったのですが、画用紙が買えず、ダンボールに書いて来た人もいました。
 なのに、完成度も色合いも想像以上に良かったのです」

 結果、201人、283作品が集まり、20名がファイナリストに選ばれた。
 彼女たちのデザインを使った商品を温井さんがメーカーに交渉、TシャツやiPhoneケース、手帳などの商品としてネットショップで販売中だ。
 たとえば、時計だと1個売れるたびに5ドルがデザインした女性に入る。


 2011のコンテストでは400点近くの応募があり、45人が最終選考に残った。
 このプロジェクトはAsia Social Innovation Award 2011を受賞した。
 商品による利益はまだ微々たるもの。
 年に1500万円ほどの資金を調達する目標を掲げ、富裕層の断捨離品によるチャリティバザーやカンボジアのビジネス視察ツアー、助成金などでの収益を見込む。
 東大生などのボランティア・スタッフも増えてきた。

2015年3月に開催された第5回ドリームガールズ・デザインコンテスト
「今年からキャラクター部門を設け、審査員に『おしりかじり虫』で有名なうるまでるびさんも参加します。
 コンテストの目的は、デザイナーとして成功させ、『あの人のようになりたい』と思ってもらえるカンボジア女性を輩出すること。
 今後は現地にデザイン学校を作り、彼女たちのデザインした土産品を現地の女性が売るカフェも作りたい

 今年(2015年)3月に開催された第5回のドリーム・ガールズ・デザインコンテスト授賞式の会場には400名の人々が集まり、350を超えるデザインの中から25名が賞を獲得した。

 最近、ドリーム・ガールズ・デザインコンテストの第1回入賞作品からずっと受賞者のデザイン採用をしているクローバ経営研究所の「マンダラ手帳」の2016年版が販売された。
 今年入賞のデザインで、B6サイズが新たに登場。
 楽天ショップから購入できる

 この手帳は、1冊につき1000円がNPOドリーム・ガールズ・プロジェクトに寄付され、カンボジアの女性たちの未来を開拓する活動に使われる。

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