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■ネット記事がわかってないアナログ編集長は困りもの

 僕は、これまでいくつかのオンライン記事のニュースサイトで仕事をしてきた。
 もちろん、それ以前は雑誌や新聞などでも書いてきたので、それらアナログの記事とネット記事の違いに気付かされることが少なからずあった。

 ところが、紙の媒体でしか仕事をしたことがなく、しかも社員としてしか編集者を経験してない人がニュースサイトの編集長になると、フリーランスのライターにとって迷惑極まりない仕事ぶりになる場合がある。

 本業をほかに持っている専門家に書かせるなら、1本5000円や1万円のギャラの安さは順当かもしれない。
 しかし、新しいムーブメントを発掘し、予備取材をかけ、ネタを編集部にプレゼンし、「はじめまして」の取材申請をしてから電話取材を行い、原稿を作成し、関連画像を集めるという手間のかかった仕事をフリーランスのライターにさせるなら、雑誌より半値以下のギャラしか渡せない以上、「安かろう、まずかろう」の記事になるのはしょうがない。

 しかし、そこは署名記事だから、そこそこのクオリティを保ちつつ、必要十分なファクトを盛り込み、なんとか短文で済ませるのが、オンライン記事の仕事におけるプロ・ライターの流儀だ。
 取材時点で深掘りしても、それを全部反映させようとしたら、長すぎる記事になる恐れが高まるし、あれもこれも盛り込めば良い記事になるというわけでもない。

 むしろ、オンライン記事では、文脈に必要なタグになりうる言葉をきちんと盛り込み、面白いと思った読者それぞれが自分の興味でその先の情報にたどりつけるようにすればいいだけだ。
 だから、必要なリンクは記事とセットで紹介するし、タグになりうる言葉を散りばめておけば、読者は自発的にググッてくれる。
 それがオンライン記事をだらだらと長くしないコツだし、長くしたからといって次のページを多くの読者がめくってくれるとは限らない。

 そうしたオンライン記事ならではの書き方を、ライター側は経験値で蓄積していくわけだが、紙媒体でしか仕事をしてこなかった社員編集長が編集権を持つ座につくと、あれもこれも編集者に要求し、編集者とライターの両方を不当に忙しくさせる。
 そういう編集長に限って、外部のライターに挨拶メール一つ寄越さないし、ギャラの安さをカバーするだけの「お金にとって代わる価値」をライターに還元する発想もない。

 そのように、そもそもクリエイティブでない人材が編集長に収まれば、現場が混乱するのは当たり前だし、その余波は、それまでとれていたPVすら危うくするだろう。

 とくに、ニュースサイトを運営するITベンチャーは、既存の大手有名出版社から人材を引っこ抜けば、コンテンツの価値向上とPVの増加が見込めると勘違しがちだ。
 でも、それはたいてい、畑を作るつもりなのに、漁師を引っ張ってくるようなものだ。

 インターネットにはまだ既存のメディアでは書けない文脈を自由に書けるだけの空気が残っているし、炎上しても、それ自体がPVアップという形で広告収益を上げる結果を生むので、思いきったことができるだけのポテンシャルがある。

 そうしたメリットを既存のアナログメディアの倫理や価値観、経験則で台無しにしてしまうような編集方針が現場に強いられれば、せっかくユルくて自在なところが歓迎されていたオンライン記事も萎縮し、「良い子」にしか歓迎されないつまらないものに豹変するだろう。

 少なくとも外部のフリーランスのライターと組まなければ、よそにない独自のネタなどポンポン生まれないわけだから、ギャラに見合う以上の仕事をさせられないことぐらいは学んでほしいものだ。
 そこで思い出すのが、ソフトバンク・クリエイティブの人から昔聞いた話だ。


●ライターに気持ちよく仕事をさせない編集長は端的に無能

 SBクリエイティブでは、たとえば編集部が新たに作られると、編集長以下スタッフ全員が、その部署に必要な机やパソコン、周辺機器や人件費などに至るまで、一切の経費の細目の数字を把握するそうだ。
 経営者レベルだと当たり前のことなのだが、「それを末端社員にまで徹底させているのか!」と驚いた。

 自分の仕事による収益アップの前に、自分がそこで働くだけで自動的に支出される金がどれだけあるのかをいつも認識できる社員なら、自分がどれだけ会社に貢献しているか(あるいは貢献していないか)が明確になる。
 紙媒体の売上とコストの数字を正確に知っているなら、純利益から自分に配当されるお金が見えるからだ。

 そのように、ビジネスにかかるコストがわかれば、自分以外の人間に余計な手間と時間をかけさせることに敏感になるだろう。
 外注スタッフであるライターやデザイナー、カメラマンにどの程度の手間と時間をかけさせれば、会社として支払うギャラや経費がどの程度なら順当であるかどうかも、的確に見積もれるはずだ。

 紙の媒体で仕事をしてる社員編集者には、たくさん会ってきた。
 しかし、印刷費や外注費などの相場は知っていても、実際にライターをどう動かせば効率的にギャラに見合うだけの仕事をさせられるかに敏感な人は、わずかにしかいない。

 とくに、雑誌編集の経験が乏しく、書籍しか編集したことがない人だと、新しいネタを探し、取材打診をし、実際に取材し、画像を調達するという一連の手間がニュースサイトには欠かせないことにピンとこない。
 こんな人材を、ITベンチャーは絶対に雇ってはいけない。
 出版業界は沈没船だから、IT業界に転職を希望してくる人が珍しくなくなったが、会社の看板だけで迎え入れると、オンライン記事のコンテンツ価値はむしろ下がりかねないのだ。

 書籍や雑誌なら、特定のターゲットにだけ届くようにすればいいかもしれないが、オンライン記事は読者を特定できないため、うかつなことを深掘りするだけでスポンサーを失うリスクも伴う。
 それを知らないまま、アナログメディアの経験を活かそうという良い面だけで採用すれば、収益減のリスクは高まるばかりだ。

 それでも雇い入れたいなら、編集長には最初からペナルティを課すといい。
 ただでさえ安いギャラで仕事をさせるのだから、担当編集者がOKを出した原稿を、編集長が直したい場合は、「編集長自身が自分のサイフからギャラを同額分だけ上積みしてライターに挨拶してね」と、経営トップから釘を刺しておくといい。

 実際、ニュースサイトには旬のネタも多く、編集部から取材OKが出ても、編集長の決断が遅いために、取材相手が取材に対応できないまま旬切れになることもある。
 そうなれば、原稿は書けないし、記事はアップされないので、ギャラにならない。
 それは、ライターにとって、新しいネタを発掘し、取材打診をした手間と時間をフイにしただけの「0円仕事」になるのだから、それを放置していれば、たかがアホな編集長1人のためにITベンチャーがブラック企業に育つだけだ。

 オンラインゲーム業界では、ユーザに迷惑をかけた企業が本来なら課金される「詫び石」の無償提供で謝罪する習慣さえ顧客に保証される時代になってるんだから、編集長がオンライン記事を安いギャラでライターに書かせる仕組みを変えられるクリエイティビティを発揮できない以上、編集長の責任としてきっちり自腹でコストを埋め合わせてほしいものだ。

 大きな権限には、それに見合う責任が伴う。
 その当たり前をきっちり果たせないニュースサイトは、読者を小馬鹿にしてるのと同じだ。
 もっとも、編集長に責任を果たさせないアホな経営者が、役に立たない編集長を平気で雇ってしまうのかもしれないね。
 でもさ、安いギャラでも志で書いている多くのライターにとっては、マジでウンザリなんだよ。



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