彼女はユニット結成当初から「既婚者・子持ち」であることを公表し、ブログのプロフィールにも「主婦」と書いている。
「既婚者・子持ち」でも、ついてくるファンがいる時代になっているようだ。
もっとも、「ゆとり組」自体は、ゆとり世代ならではの葛藤や苦悩を他の世代の方々へ理解してもらうコンセプトで2014年2月に結成されたユニットだ。
今日の日本では数えきれないぐらい多様なアイドルグループが誕生していて、他のグループと一線を画すようなキャラ付けが結成のコンセプトとして練られている。
その中でも、ここ10年で急増したのは、地元の経済活性を期待されながら、「市民を元気にする」というコンセプトで各地に結成された「ローカルアイドル」(ご当地アイドル)のグループだろう。
この「ロコドル」には、新潟のNegiccoや気仙沼のSCK GIRLS(産地直送気仙沼少女隊)などの正統派もいる。
その一方で、「絡んでくるアイドル」として話題になった大阪のオバチャーンや、沖縄のおばあたちによる平均年齢84歳の“天国に一番近いアイドル”KBG84(小浜島ばあちゃん合唱団)までいて、その土地に根ざしたキャラがあらかじめ付いている。
ロコドルの中には、子持ちの須郷有香(35歳)さんがリーダーを務める青森ナイチンゲールもある。
須郷さんの特技は「餃子を焼くこと、娘をあやすこと」で、2013年1月に青森市昭和通り商店街のアイドル『 Marble』としてイベント等へ出演。
YouTube内のプロモーションビデオが再生回数3000回を 越え、2014年8月に出産した。
その後、「ぎょうじゃの大西」の店長でも勤めながら、新たに結成された青森ナイチンゲールに参加した。
既婚・子持ちであってもアイドル活動ができるという現実は、女性にとって楽しく働ける職場が一つ増えたことを意味する。
アイドルグループのコンセプトは、「独身・カワイイ・若い・処女」の範疇には収まらなくなったのだ。
既婚・子持ちが長らく「恋愛禁止」という幻想で「規格外」とされてきたなら、太めの女性も同様だったろう。
「ぽっちゃり系女子」が好きなニッチ市場を狙うのか、本気で正統派アイドルを目指すのかはわからないが、ここまでくると「可愛くなくてもいいだけのべつの魅力」を打ち出してほしくなる。
このように、従来なら「規格外」とそっぽを向かれがちだった属性のアイドルグループが増えてきた背景には、「アイドルで食う」ために人々を驚かすような斬新なキャラ付けが求められてきたこともあるかもしれない。
要するに、「クラスにいそうな2番めに可愛い子」といったAKB48のような”ひと山いくら”のカワイサで成立する市場は、既に飽和してしまったのだろう。
人々は、「見たこともない何か」を見たいのだ。
そこで、アイドル・プロデューサは、いろいろと知恵を絞らざるを得なくなった。
では、「次」に来るのは、どんなアイドルグループなのか?
●「アイドルの規格」を拡張し、社会性の高い活動を展開する
次世代アイドルグループの方向性は、ざっくり言えば「社会性」をふまえた活動コンセプトをもつものになるはずだ。
たとえば、ファンをお掃除へ導く”世界初のお掃除アイドルユニット”であるCLEAR'Sは、全国各地に拠点を持ちながらここ数年でグループ自体が増殖している。
掃除が好きなメンバーを見たマネジメント側が、掃除をコンセプトにした歌作りとライブ会場の掃除をセットにした活動を仕掛け、自治体のゴミ拾いイベントなど従来のアイドルなら呼ばれないイベントに活動領域を広げている。
キチョハナカンシャは、”本気で内定を目指す、就活アイドル”をコンセプトに、就職活動をしながらアイドルとしてのLIVE活動等にも励んでいく女子大学生たちによるグループだ。
彼女たちは、就職活動の様子を赤裸々に発信していくことで、就職活動の透明化を目指し、内定をとったら即グループ卒業。
また、LGBTシーンでも、アイドル活動は盛んになりつつある。
2011年1月に結成されたNSM=(Nagoya Sexual Minority Equal)は、なごや栄女子大小路池田公園発のセクマイグループだ。
女の子が好きな女の子や、恋愛に性別は関係ないという子、身体と心の性別が違う子などのメンバーで活動している。
公式サイトには、こうある。
「好きな人とずっと一緒に居たいだけ。
それはストレートの人もLGBTも同じ気持ち。
みんなと一緒だよ、みんなと平等な権利がほしい。
そんな意味を込めて=(イコール)がついています。
LGBTの存在を知ってもらうきっかけになれたら」
LGBT界隈を拠点に人気を拡大しつつあるという点では、ゲイ男性で結成された虹組ファイツも見逃せない。
最近では、”日本初のニューハーフ・アイドル”と称するカマちゃん倶楽部という3人組もいる。
こうした動きは、既婚者・子持ち・太めなど、アイドルとしては「規格外」としてはじかれてきた人たちの存在証明という文脈の延長線上にあるものかもしれない。
虐げられてきたマイノリティの存在主張として、アイドルというフォーマットは受け入れられやすいのだから、アイドル活動によってマイノリティが生きやすくなるという社会性を伴うのは当然の生存戦略だろう。
もし、そうだとするなら、LGBTコミュニティ内での人気にとどまらず、むしろそこから広く一般の支持を得られるような活動展開を図ってほしいと思う。
「規格外から規格内へ」と拡張していかなければ、アイドルの輝きも価値も小さいままだ。
せっかくアイドルのキャラやコンセプトが多様化してきたのだから、それまで「規格外」とされてきたいろいろな属性の人たちにがんばってほしい。
ひきこもりでも、障がい者でも、難民でも、誰でもアイドルになれるチャンスが出てきたのだから。
今回、ネット上でいろいろアイドルの現況を拾ってる途中で、「バツイチだけのアイドルもあっていいはず」と思って検索してみた。
すると、1件だけ見つかった。
“アイドル業界のタブーに挑戦!”と称してシングルマザー・離婚バツイチからのアイドルタレント挑戦企画『ワンモアチャンス・プロジェクト』がかつて立ち上げられたようなのだ。
ところが、同じ境遇の女の子たちの憧れ的存在になろうとしたものの、今では公式サイトもtwitterアカウントも消えている。
歌ったり、踊ったりするだけでは、もう他のアイドルと差別化できない。
バツイチなら、バツイチならではの魅力を明確に打ち出す必要があったはずだ。
当事者固有の価値に対して、マネジメント側がどれだけ関心を持てるかが問われているのだ。
この当事者固有の価値を掘り起こせばこそ「同じ境遇の女の子たちの憧れ的存在」となり、そのファンを核にしてファン層を広げ、「アイドルの規格」の範囲を拡張していける。
活動の根っこにあるキー・コンセプトを形作る当事者固有の価値を掘り起こせずにいては、アイドル多様化の時代も短命で終わり、「規格外」はいつまでも「規格外」のままだろう。
それ以外の事務所がアイドルと一緒にしっかり食っていくには、「芸能センス+社会性」が必要な時代なんだと思う。
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