今日も、島根県の山奥で酪農をやってるシックス・プロデュースの洲濱正明さんに久しぶりに電話取材をしていて、思わず、自分のアイデアを口走ってしまった。
シックス・プロデュースは、第一次産業(農業)☓第2次産業(工業)☓第3次産業(サービス業)を掛けあわせた「6次産業化」を意味する社名だ。
洲濱さんは、今日では珍しい完全自然放牧によって牛を牛らしく育て、四季折々に味の異なる牛乳を作り、乳製品の製造・販売やカフェなどを営み、オーガニックな酪農を12年間も続けてきた。
僕は2007年に洲濱さんの牧場を訪れ、里山でのほほんと暮らす牛たちを見ながら、あまりにも時間の速度が違う土地の空気にふれた。
「スローライフ」の「スロー」とは、理念というより、皮膚感覚だ。
風が違う。
土地の匂いが違う。
人の話す間が違う。
それを知るためだけに足を運ぶ価値すらある。
里山には、都市・郊外にいてはわからない豊かさがあるのだ。
僕が訪れた頃は、島根県というだけで、過疎化にあえぐ人のいない土地だった。
「こんな場所で酪農を始めるなんて、かなりの挑戦だ」と思ったものだ。
ところが、洲濱さんに近況を尋ねると、最近では若い移住者が増え、カフェを開店したり、農業を始める人などが続々と現れ、役所が提供する移住用の空き物件が少なくなってしまったそうだ。
嬉しい悲鳴が聞こえてきそうだ。
もっとも、それぐらい、島根の里山エリアは人気上昇中なのに、地元の高校生や大学生などの若い世代は自分の故郷に眠っている可能性に気づいてないという。
これは、少子高齢化の問題を抱えるどこの町でも同じ傾向にあるはずだ。
僕は洲濱さんに、こう言った。
「農業ツーリズムはやってるの?」
「予約を入れてもらって、夏に牧場見学やジェラート作り体験などに参加してもらってます」
でも、牧場とその周辺だけだと、ものすごい交通時間をかけて来る人にとっては、お得感がイマイチな感じがする。
ほかの野菜や果物を作ってる農家さんと組んだり、べつの何か寄って行きたくなるものとワン・パッケージ・ツアーとして、1日で3箇所以上を回れるといい。
来日外国人観光客の数は増えるばかりだから、国内外の人たちに魅力的なツアーがベターだ。
それを考える時、酪農と観光がそれぞれタテ割りみたいに離れてると、消費者は酪農現場での飲食費と移動の交通費という形で2重に金を支払うことになり、現地での時間も手間も余計に食ってしまう。
せっかく里山にいるのだから、狭いエリアを歩いている時間そのものが楽しめる工夫が必要だし、狭い範囲に里山ならではの価値がはっきりわかる演出も必要だろう。
それを思うと、1箇所の里山で数日間、泊まりがけで存分に楽しめるプログラムを、里山で暮らす人たちとその周囲の若者たちで考えてみてほしいのだ。
酪農と観光という具合に業態を分ける必要はなく、むしろ牧場も経路も里山にあるものは全部観光ネタであり、同時に飲食場所であるという発想が必要かもしれない。
このように、業態を区分けしない発想を持てば、たとえば、音楽だって酪農の延長線上にあるビジネスになるかもしれない。
●里山で、農業も、音楽も、観光もミックスしたイベントはどう?
たとえば、牛の鳴き声が遠くに聞こえる牧場と地続きにある広大な休耕地で、「牛ロック」というロックフェスを開催してみてはどうか。
ミュージシャンは全員、インディーズでいい。
むしろ、「メジャー・デビューしたら出演できない」ことを価値にして、マス向けの楽曲を要求されるプロには歌えない歌を作っているミュージシャンを発掘して紹介したり、「世界で一つのインディーズの祭典」と銘打てば、海外からもミュージシャンが駆けつける。
そこで毎回Ustreamで生中継し、Youtube動画にアーカイブしていけば、国内外からリスナーを動員できる。
もちろん、ロックフェスを行う里山の周辺には、とりたての野菜や果物、米などのほか、その土地でしかとれない牛乳や乳製品などが食べられて、テントを張ってキャンプすることもできる。
車の中でも寝れるし、見上げた空には星がくっきり見える。
ゴミもみんなで片付け、電源は天ぷら発電などのエコ発電でまかない、ケータイ用のソーラー充電器や簡易トイレなど日本の先端技術品も気軽に買えるといい。
こういうことを市民や学生などのボランティアで運営できる仕組みを作れば、その土地の農作物もロックと一緒に世界に配信できる。
実はこれ、何の根拠もないアイデアではない。
似たようなことを始めようとしてる人がいるのだ。
ひきこもり・不登校経験者だけのバンドのライブ演奏を全国に売り出しているNPO法人マイペースプロジェクト(滋賀県大津市)の理事長・小梯泰明さんは、「パラリンクロックフェス」を企画し、実現に動きだしている。
「途中で奇声をあげても良い」
「走り回っても良い」 「寝転ぼうが、踊ろうが自由に楽しめば良い」という発想の下、障がいのある方が優先して楽しめるコンサートを作ろうというものだ。
障がい者でも気軽にロックを楽しめるチャンスは無い。
そのチャンスを誰も作ろうとしないなら、そのチャンスを作ることを仕事にしてしまえばいい。
そのチャンスを切実に求める人がある程度いるなら、その仕事はビジネスとして成立する。
そういう仕事こそがワクワクするし、若者に仕事の価値と面白さをはっきりと伝えられるものだろう。
人々の願いに応える事業なら、やりがいもひとしおだ。
業態・業界の垣根を超えて、自分の興味と仕事をひもづけた働き方を発想できるだけの教育環境があれば、里山が本当は面白く楽しい場所だと認知できる若い世代も増やせる。
若い人材をワクワクさせて新たな挑戦へと動機づけ、行動させてしまうのは、僕の得意技である。
失敗させても、それを肥やしにして、成功するまで何度も何度も何度も失敗してもらう。
失敗すればするほど成功へ近づいているのだから、失敗を短期間にさせまくるのが、成功への早道だ。
「失敗したら、誰が責任をとるんだ?」
「おまえがとるんだよ」
そうハッキリ言える大人でいたい。
自分で責任をとるからこそ学びが大きいし、主体性と権限を持って物事に取り組めるのだ。
安易にケツ持ちになりたがったり、「失敗の恐れがあるからやめろ」と言う大人にはなりたくない。
先に死ぬ老いぼれは、嫌われる悪役として死んでいけばいいのだ。
若い時は、ワクワクできる仕事に飛び込んで、燃え尽きるまでやってみよう。
それが、その後の人生をしぶとく生き残る力になる。
そういうチャンスは情報で頭でっかちになりがちな都会よりも、里山にいくらでも転がってるんだよ。
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