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■当事者不在のAV叩きは、人権と生存権を奪う

 国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ(HRN)の「AV出演被害調査報告書」(強要されるアダルトビデオ撮影)のPDFが公開され、その当事者であるAV女優たちが反発していることは、このブログ記事(←クリック)で書いた。
 この話題について、元AV女優の川奈まり子さんがFacebookで書いたテキストが非常に素晴らしいので、Facebookをやっていない人にも伝わるよう、以下に引用してみたい。
(※赤い文字は、僕=今一生が強調したいところ。読みやすくするため、一部を削除しました)
2016年3月3日に行われた記者会見(内容リンク
 国際人権NGOヒューマンライツ・ナウのAV出演被害調査報告書のPDFを精読しました。
 この報告書には事実誤認の部分が少しあります。
 まず、「PAPS(ポルノ被害と性暴力を考える会)共同代表である宮本節子氏から、被害の特徴・概観を下記のとおり聞き取った」以下の記述を見るかぎり、映像制作会社とAV製造メーカーと商品の流通会社を混同してるんですよね。
 制作会社が冨を独占しているかのようなことが書かれてるんですが、制作会社はジリ貧で、どんどん倒産してますから。
 それってAVメーカーのことですよね(とは言えFC2などのせいでメーカーも儲からなくなってきてるんですけど……)
 流通に関しては触れてもいません。
 制作会社の役割にもノータッチですが、撮影現場はAVメーカーではなく制作会社が仕切るケースも多いので、過酷な撮影によって被害をこうむった女性の問題を取り扱うなら、制作会社とその撮影現場の実態を調査していないのは奇妙です。
 また、AV出演に際して女優の意思が尊重されるNG事項というものが存在することにも、まったく触れていません。
 監督やプロデューサーによる女優面接の場で事前に撮影内容の報告があるのが普通であることも一切書かれておらず、むしろ、そうしたこと(事前の撮影内容の報告)が行われていないという記述が見られました。
 さらに、契約の実態についても、被害にあったAV女優の事例のみを挙げて、あたかもそれが平均的な実情であるかのような記述があることから、優良なプロダクションの実例を全くリサーチしていない可能性もあると思われます。
 AV業界の、たとえばSODCAなどメーカーで聞きとり調査をしていないのだろうと推測できるのです。
 メーカーに足を運べば、そこと普段からつきあいのある制作会社やプロダクションを教えてもらえるはずです。
 そこでまた制作会社やプロダクションに直接行って、リサーチできるわけです。
 制作会社に行けばAVの撮影や編集の現場を見学調査することも出来ます
 そうしたことを一切やらず、極端な被害事例だけを根拠にこの報告書を作った疑いが濃厚なのです。
 あえて通常のAVの現場は調査していないのかもしれませんね?
 安全かつ平穏にAVが作られている事例を集めても、目的達成のためには邪魔にしかならないでしょうから。
 AV業界を糾弾の対象と定めているのでしょう。
 ズバリAV潰しが目的なのではないでしょうか。
 また、過去の判例を根拠に「AV 出演」を職業安定法、労働者派遣法上の「有害危険業務」と規定していることに、業界に近い者として危機感を覚えました。
 ここがこの報告書のいちばん重要なポイントだと思いますが。
 AV出演=労働者派遣法上の「有害危険業務」ということになると、AVのプロダクションは軒並み、「労働者派遣法第58条 公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就かせる目的で労働者派遣をした者は1年以上10年以下の懲役又は20万円以上300万円以下の罰金に処する」という罰則規定の対象になるんですよ。
 「AV出演自体が非合法」ということになりかねないのです。
 ところが現在日本ではAVは合法ですから、ねじれが生じてしまいますよね?
 さらに、AV出演が非合法ということになると、違法行為に確信的に従事しているAV女優は(法の取締の対象になり)むしろ法で守られないことになってしまう。
 このことには激しく矛盾を感じます。
 AV女優の人権には、伊藤氏らは本当は興味すら無いのかもしれませんね?
 女性の人権は守りたい。
 しかしAV女優の権利は、むしろ剥奪したい。
 AV出演=労働者派遣法上の「有害危険業務」という一律決めつけには、そのような伊藤和子弁護士らの意図が透けて見えるような気がします。
 この報告書は、一見、AV女優を保護するようなことを言いつつ、公衆衛生又は公衆道徳上有害な業務に就いている者と彼女らを定義することで、職業差別を助長してもいるわけです。
 これは、現在その存在が合法的であると認められ、納税義務に従って市民生活を送っているAV女優およびAV業界に関わる何千何万という人々を、一挙に犯罪者側に追いやる危険な報告書ということにもなります。
 彼らは、AVを違法なものとしてまるごと無くすことが究極の目的なのでしょうか?
 その取っ掛かりとして、AV出演を違法行為であると定めようとしているんだとしたら、「AV 出演」を職業安定法・労働者派遣法上の「有害危険業務」と規定するのは、巧い作戦です。
 一部の悪質なプロダクションの判例を根拠に、伊藤和子弁護士はそう定めようとしているのです。
 もちろん、判例はいくつもあります。
 そうは言っても業界全体から見れば本当に悪い業者はごく一部
 また、六法全書にAV出演が有害危険業務だと書かれているわけでもありません。
 いくつかの事件があり、そのそれぞれの事情をかんがみて裁判官が、その裁判の当事者のAV出演を職業安定法・労働者派遣法上の「有害危険業務」であると判断したことがある、というだけのこと。
 AVが合法ならAV出演も合法であるのは当然です。
 私は白素材が流出した件と、雑誌などAV以外の媒体への出演をフリーで行えるか否かということを相談するために、当時所属していた事務所のマネージャーを伴って、法律事務所に弁護士を訪ねていったことがあります。
 その際、弁護士から聞いたことで印象に残っているのは、「AVは現在合法であり、AV女優の仕事は芸能人と同じ出演業に当たる」ということ。
 今のAV女優さんたちは、今後、伊藤和子弁護士らの思惑どおり、一律にAV出演=労働者派遣法上の有害業務と定められてしまった場合、さて、どうなるか……
 とはいえ、監督官庁の設置や、プロダクションやメーカーとの女優の契約内容の改善は必要で、有益なところも多い提言だと思いました。
 業界保護のためにも、まずは顧問弁護士付きのちゃんとした法務部も業界内での権力もある各大手AVメーカーに適切に対処してもらいたいものですね。
(以上、Facebookより)



●当事者との対話を避けたがる人権派が作り出す深刻な不幸

 川奈さんは、その後、以下の書き込みもFacebookでしている。
 これも非常に重要な指摘なので、併せて紹介しておきたい。
(※アンダーラインのあるところは、僕が参考のためのリンクを貼った)

 PAPS(※ポルノ被害と性暴力を考える会)HRNの主張は、フェミニストとしては周回遅れの感があります。
 昨年、アムネスティは効果的な社会的弱者の人権擁護策として、セックスワーク全てを合法化するしかないと判断し、声明を発表しました。
 日本では報道されていませんが、ヨーロッパでは、今や、AVどころか売春ですら合法である国家がほとんどです。
 アジアでは、タイ、台湾が近年売春を含むセックスワークすべてを合法化。
 中華人民共和国でも合法化が検討され、オランダ、デンマーク、フランス、スイス、ドイツ、オーストラリア、ギリシャ、ハンガリー、チェコ、ニュージーランドなどは、斡旋を含む売春行為を完全に合法化しています。
 なぜか?
 性病や性犯罪の蔓延を防ぎ、セックスワーカーにも納税させるためです。
 セックスワーカーの人権を擁護し、社会の一員として市民生活の輪の中に迎え入れるための措置なのです。
 性の商品化を容認するのが、今の世界の潮流です。
 地球規模で道徳的な価値観の大変革が起きているのです。
 自分の体が生みだすものを自分の自由意思で売る権利を持つのは、人として当然のこと。
 思考力・運動能力・計算能力・交渉力・演技力・表現力・創作能力etc. 
 すべて容認され、需要に応じて供給され、売買されてきました。
 セックスだけは禁止するというのは、合理的ではありません。
 社会正義を守る法によりセックスワークを禁止することで、禁を破ったと見做された当事者は、不正義=悪であるとされ、差別され、社会から疎外されるという現象が起きます。
 暴力や恐喝の被害にもさらされます。
 しかも、一般社会の外へ追いやられてしまうと、税金も払わず、ゆくゆくは福祉の対象となって、社会に負担をかけることになる可能性が高いのです。
 貧困化するのはほとんど必至で、そうなれば知識や治療費の不足から、性病を社会に蔓延させる原因にもなり、その集団は犯罪の温床にもなるかもしれません。
 非合法であると烙印をおされたセックスワーカーは、犠牲者であると同時に加害者にもなり、さまざまな悪影響を社会に与えることになります
 日本では売買春は禁止されていますが、AVは合法とされてきました。
 そのため、AV出演者はセックスワーカーでありながら納税者となって、一定の差別は受けるものの、マスコミの多くに出演しても大きく問題視されることもなく、AVに出演していないときはごく普通の社会人として生活することが出来てきました。
 AV業界は世間で思われているより巨大なもので、中で働く人々の多くはAV関連企業に雇用された社員もしくは契約社員です。
 出演者や技術職の者は個人事業主が多いけれど、いずれにせよ、撮影現場以外の場所では、他の業界の皆さんと同じように暮らしてきました。
 ところが、PAPSは、AV出演を現在の日本では違法とされている売買春の一形態であると主張しています。
 報告書を作成したHRNも、公式にはPAPSの主張に反対していません。
アムネスティは「性風俗の合法化こそが命を救う」と主張
 今さらAV女優を違法な売春婦と定義することは、国の税収を減らし、性病や性犯罪を増やします。
 AV出演が非合法と定まれば、AVも合法ではないとされることは必定です。
 何万人も、もしかすると何十万人も、職を失ったり地下組織に引き込まれたりし、国内難民化し、犯罪は増え、税収は減り、福祉に頼る者が続出します。
 誰も幸せにしません。
 社会的弱者であるセックスワーカーの人権を擁護するため、非合理的で宗教的な道徳観を超えて、世界中でセックスワーク全般が合法化しているというのに、PAPSらは、人権擁護をうたいながら、せっかく合法とされてきたAV出演業を違法として、結果的に出演者の人権を危険に晒そうとしています。
 PAPSの主張は、売春の斡旋ですら合法化が進む先進諸国の現状の中で特異であり、今の世界の流れに反します。
 私は、このアムネスティの決議に賛同します。
 全てのセックスワークを合法的な通常の職業と認めてしまえば、暴力団の資金源の一部を断つことにも繋がります。
 悪い勢力は、人の弱みに付け込むものです。
 AVに関して言えば、AV出演への偏見と差別がAV女優の立場を弱くし、悪徳プロダクションによる犯罪的な搾取を生んでいる現状があります。
 AV出演を合法であるとする現在の日本の状況に感謝しつつ、その他のセックスワークも、他の国々に倣い、全て合法化されることを願ってやみません。
 すぐに職業差別がなくなるとは思いませんが、少なくとも社会の一員として彼らを包含することは可能なはずです。
 タイ、台湾、オランダ、デンマーク、フランス、スイス、ドイツ、オーストラリア、ギリシャ、ハンガリー、チェコ、ニュージーランド、中国ですら検討していることが、日本に出来ないはずがありません。
 少なくとも、AV出演者を違法な存在とは見做さない今の現状は維持されてゆくべきです。
(以上、Facebookより)

 「良かれと思って」やった行動が、救いたいはずの当事者をさらに深刻な不幸へ導くことは、よくあることだ。
 それは、自分とは文化(価値基準)の異なる人(=自分が救いたい相手)に対して、当事者が共感できるだけの十分な関心を払わないからだ。
 ポルノ被害を受けた方の被害者支援を行うことを目的とすPAPS(※ポルノ被害と性暴力を考える会)は、公式サイトではっきりとこう書いている。

婦人保護施設職員、児童施設職員、スクールソーシャルワーカー、大学教授、大学教員、性暴力・性被害の問題に詳しい弁護士、人身取引被害者救援スタッフなどが参加し、専門知識を生かして、ポルノ被害を中心とするさまざまな性暴力の問題に取り組んでいる

 ポルノ被害を問題視するなら、ポルノの専門知識を持つ人がスタッフにいなければ、ポルノの基礎知識すら共有できないんじゃないの?
 それとも、すでにスタッフにいる大学教授や弁護士は、商業ポルノの制作経験がある人たちなんだろうか?
 あるいは、「ポルノのプロなんて仲間じゃないし、必要ない」で思考停止?

 プロが1人もいないのに、ポルノの制作現場をわかったかのような態度をとれば、プロたちから「おいおい、おまえらの”専門”って何だよ」と呆れられるのは当然だ。
 そのあたりから、PAPS(※ポルノ被害と性暴力を考える会)HRNが、アダルトビデオのプロたちを「下」に見ていたり、「話し合いのできない相手」と勝手に決めつけている気配を感じる。
 プロに対する敬意があるなら、福祉のプロが福祉を知るように、ポルノのプロがポルノにくわしいことにピンとくるはずだ。

 同じ被害者を増やしたくないなら、AV制作会社の経営者や出演してるAV女優・男優、AVにくわしいライターなど「その筋で長く働いてきた人」の知見に真摯に頼り、事実をまっさらな目で見る必要があるんじゃないか?
 最初から「あいつらは私たちの敵」と決めつけてかかれば、誇りをもって働いているAV女優たちからも反発を買う。

 人権派を名乗るなら、「私たちは人権活動家とはとても言えない差別的な作法を自分たちがしているから当事者たちから共感されないのだ」と反省してほしい。
 でなければ、自分たちの一方的な正義の旗を立法化で権力的に推し進めたいだけの「おそろしい人権・原理主義者」と批判されても仕方ないだろう。

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