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■うつ病も治せるゲーミフィケーションって何だ?


 日刊ニュージーライフ(2016年5月25日付)によると、「うつ病の治療をゲームで行えないか?」というプロジェクトがニュージーランドのオークランド大学で発足し、数年前に実用化され、先日そのゲームが日本語化されて発売されたという。
 開発当初、このプロジェクトを取材したAFPのニュース動画がYoutubeにあった。
 まず見てみよう。



 ニュージーランドのオークランド大学に在籍するSally Merry(サリーメリー)率いる研究チームが、うつ病の治療としてゲームを使った実験を行ったところ、ゲーム治療でもカウンセリング治療とほぼ同等の効果が得られたそうだ。
 チームが開発した”SPARX(スパークス)というファンタージーゲームを47週間に渡って被験者にやらせたら、うつの傾向が軽減されたり、完治してしまう子どももいたという。

 1年前のHEALTH PRESS(ヘルプレ)の記事(2015年5月17日付)から、このゲームのすばらしさを伝える内容を以下に引用する。

★SPARXは、認知行動療法(CBT)の「無意識に起こる歪んだ考え方に気づき直していく」というプロセスをゲームに応用したもの。
 「寛解率(ほとんど症状が見られなくなる率)は43.7%」と、対面でのカウンセリング治療と変わらない結果を残している。
 開発リーダーのサリー・メリー氏は、SPARXが「青年うつ病(1219歳のうつ)に対する標準的なケアと同程度に有効だった」と報告。

★ゲームは7つのステージに分かれている(※以下は、「健康になるためのブログ」から引用)
 1レベル:洞穴地帯(希望を見つける)
 2レベル:氷地帯(行動的になる)
 3レベル:火山地帯(激しい感情と向き合う)
 4レベル:山岳地帯(問題を解決する)
 5レベル:低湿地帯(認知の再構築、役に立たない思考に気づく)
 6レベル:橋梁地帯(否定的な思考から抜け出す)
 7レベル:渓谷地帯(ストレスの対処法、助けの求め方を学ぶ)

★ステージの各エリアは、通常3045分程度でクリアできる。
 これはちょうど対面のカウンセリングにかかる時間と同程度。
 プレイヤーはゲーム内のガイドに導かれ、世界を旅し、GNATSと呼ばれる厄介な考え方を退治していく。
 その過程で「深呼吸法」「怒りの管理」など、さまざまなCBTのテクニックを遊びながら学ぶ。
 3Dで構築された異空間を、ネイティブインディアンのようなガイドとともに多様なキャラクターと冒険し、各所にパズルやクエストのような普通のゲームとしても楽しめる要素がふんだんにある。

★SPARXは、ユネスコ主催の「デジタル世界の展望」で「国際デザイタル賞」を受賞。
 「今後10年でもっとも有望なデジタルイノベーティブ」と賞賛された。
 2011年には、「電子健康と環境」のカテゴリで国連の世界サミット賞を受賞。
 世界100以上の国・地域のメディアやデジタルコンテンツから選ばれる、最も栄誉のある賞だ。



 このSPARXというゲームは、すでに日本語化されている。
 iPhoneiPad版はApp Storeで、AndroidのスマホやタブレットはGoogle Playから1,080円でダウンロードできる。
 日本語の公式サイトもある。


 遊べば遊んだ分だけ、病気が治ってゆく。
 素晴らしいゲームだ。
 「遊べば遊んだ分だけ」ユーザの苦しみが取りのぞかれるゲームなら、親も教師も反対するどころか、歓迎するだろう。

 そういう発想で新たなゲームを開発しようと思えば、うつ病の克服だけでなく、いじめや児童虐待、レイプや貧困などの深刻な社会的課題を解決できるゲームアプリだって作れるはずだ。
 そこにこそ、人々の求めてやまない確かなニーズがあり、大きな市場が眠っている。
 僕自身、そういうゲーム開発を志す人となら、一緒に組みたい。

 みんなでこのゲームを一緒にやる集まりやオフ会が増えていけば、ますます楽しそうだ。
 うつ病に悩む当事者どうしが、このゲームで遊ぶことで得たメリットをシェアできるBBSやFacebookページなどができたら、僕に教えてほしい(メール)。


ゲームの仕組みを利用し、面倒な作業を遊びに変える

 このように、チャレンジ、ルール、チャンス、報酬、レベルといったゲームの仕組みを利用して、面倒な作業を遊びに変える試みのことを、ゲーミフィケーション(ゲーム化)という。
 社会的課題を解決したり、ビジネス上の顧客を増やすなど、面倒なイメージを持つ作業をゲームのように楽しくすれば、課題解決も消費拡大ももっと効率良く進められるってっわけだ。

 「ゲーミフィケーション」という言葉は、2010年から使われ始めたが、20165月現在、ゲーミフィケーションの事例にピンとくる人は少ないだろう。
 しかし、ゲーミフィケーションは、前述した事例のように、若年化するうつ病のような深刻な社会的課題を解決するのに有効だ。
 では、社会的課題の解決を試みる日本のゲーミフィケーションは、どんなものか?

 数年前なら、遊んだだけでユーザの支持する解決活動をしているNPOへ寄付できるというシンプルな仕組みで盛んに開発されたことがあった。
 もっとも、この仕組みは、あまりにもマイナーだし、今後も広がる見込みがないし、イノベーションとは言いにくい。
 かといって、ゲーム化とは無縁に社会的課題への関心を無理やり高めようとする”意識高い系”の『税金はどこへ行った?』のようなサイトや『5474.jp』のようなアプリを紹介しても、面白くない。

 それでも、一応ゲームの体裁を取りながら、社会的課題の解決につながるゲームは開発されつつある。
 たとえば、ゴミ拾いスマホアプリの「ピリカ」

 この無料SNSサービスは、ユーザーが街中に落ちているゴミを拾い、その写真をアプリに投稿することでSNS上でその成果が伝わり、さらにはユーザーどうしがお互いの成果を評価することで“つながり”を提供し、この“つながり”の輪を世界中に広めていくというもの。

 SNSではあるが、ゲーム性はうすい。
 このままだと、あらかじめ”意識高い系”の人たちしか利用しないだろう。
 僕の本『ソーシャルデザイン50の方法』(中公新書ラクレ)で紹介した日本スポーツGOMI拾い連盟は、ゴミ拾いをスポーツにすることによって面倒な清掃作業を楽しいゲームに変えた。
 チームで参加するこの「スポゴミ」も、ピリカを活用して大会の見える化を図っている。
 しかし、ピリカ自体には面白みがうすいため、ゲームフィケーションの観点から言えば、今後の開発における改善の余地は大きいだろう。

 社会起業大学のサイトの記事によると、ピリカは「世界共通課題であるゴミのポイ捨て問題を解決するため」に開発されたものらしい。
 しかし、あなたはこのアプリをダウンロードしたくなるだろうか?

 冒頭で紹介したゲーム”SPARX”は、「青年うつ病(1219歳のうつ)」の当事者である子どもをターゲットとして絞り込み、当事者の子どもたちのニーズを反映させて開発した。
 困っている当事者がふだん何を望んでいるかに関心を持っていたからこそ、従来の医療と同等に解決精度の高いサービスを作り出せたのだ。

 ゴミを拾うことを「見える化」することは、楽しいか?
 人が思わずゴミを拾いたくなるとしたら、それはどんな条件・動機・状況なのか?
 ゴミを拾う習慣がなかった人が、ゴミ拾いを習慣化するようになるなら、その仕組みは何か?

 そうした問いを深掘りすることがないから、ゴミを拾わないと切実に困ってしまう人たちや、ゴミを片付けることで確かな幸せを分かち合える喜びを知った人たちのリアルにたどりつかないのではないか?

 チームで遊んでいるだけで結果的に街中のゴミを片付けてしまう楽しい仕組みを、日本スポーツGOMI拾い連盟は作り出した。
 遊ぶ楽しさから出発せず、課題解決にばかり目を奪われていては、「べき」論をくり返す”意識高い系”のレッテルを貼られることはあっても、多くの人に共感されることはない。

 これまでに存在しなかった新しいものを生み出そうとする際、人は従来の発想を変えることを忘れがちになる。
 女性向けの商品を作るはずなのに、開発スタッフに女性がいない。
 自殺対策のスタッフを集める時に、希死念慮に悩む当事者を外してしまう。
 社会貢献になるゲームを作るはずなのに、社会貢献にくわしい人をブレーンに迎えない。

 そんな具合じゃ、深刻な社会的課題ほど解決が遅れるばかり。
 そういう愚かな発想のままでは、当初の高い志はどこへやら、尻つぼみになっていくだけだ。
 深刻な社会的課題によって切実に苦しんでいる人たちは今、大勢いる。
 彼らの声に真摯に耳を傾けようとすればこそ、遊ぶ楽しさの必要性にもピンとくるだろう。

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