2016年8月6日(土)から、映画『ポバティ・インク あなたの寄付の不都合な真実』を渋谷アップリンクファクトリーほかで上映される。
試写会も7月に都内で行われる予定で、ネット上から試写会参加者の公募が始まっている。
この映画のキャッチコピーは、こうだ。
「貧困援助がビッグ・ビジネスに? あなたの”善意”が誰かを傷つけているかもしれない」
この映画では、以下のような「貧困援助」の事実が暴かれるらしい。
1.米が売れない →米国産米の大量流入でハイチの自給率は危機的状況に!
2.ハイチだけで1万のNGOが存在 →国民一人あたりのNGO数が世界一!
3.地元の中小企業の最大のライバルがNGO!?
4.孤児院にいる子どもたちの大多数が、両親ともに健在!?
どう?
観たくなったかな?
…というわけで、予告編を観てみよう。
世界的なロックバンドのU2のボノが、予告編でこう言ってたね。
「寄付者と受益者としての関係は終わった」
この意味、わかるかな?
数々のNPOと彼らの活動によって救われるはずの人々を見てきた僕には、ピンときた。
これは、「支援する・支援される」という関係が終わり、「同じ社会的課題を解決するために誰もが対等に協働し合う」という関係に成熟する必要があるってことなんだ。
そのことについては、以前のブログ記事でもわかりやすく解説しておいた。
支援は容易に支配的な関係を招きやすいから、支援活動だからといってなんでも正当化できるわけではないんだよね。
僕がこの映画の日本での上映について興味深く思ったのは、これを配給するユナイテッド・ピープルが、映画配給ビジネスを始める前に、NPOなどの非営利事業への寄付支援事業をしていたことだ。
詳細は、『社会起業家に学べ!』(アスキー新書)を参照されたい。
同社の代表・関根健次さんは、大学卒業前に訪れた中東で、銃を持った10代と出会い、「平和を作り出す仕事をしたい」と考えた。
サラリーマン生活を辞め、起業した彼は、国内外で平和活動をしているNGOなどのNPOを中間支援する方法として、同社の運営するサイトからオンラインショップで売買を行うと、NPOに寄付される仕組みを作った。
しかし、それらをすべて終了させ、現在は、映画を見せることで平和を作る試みを始めている。
だからといって非営利法人を否定したわけではなく、そのあり方を問うことによって、ダメなスタイルをフィルタリングし、活動の健全化と活性化に寄与しようということなんだろう。
NPOの味方であるユナイテッドピープルにとって、この映画は「NPOを否定するのか?」という誤解を招きかねない恐れもある。
そういう理解不足による誤解を持たないでほしい。
ただし、この映画に描かれただろう「寄付による社会悪の温存と増殖」は、日本でも当たり前のように起こっていることだ。
これに気づかないと、当事者満足度の高い課題解決の仕組みを作り上げた優秀な社会起業家も、ダメな非営利法人といっしょくたに語られてしまう。
それは困るので、ダメな活動になっている団体のありようを、きっちり指摘しておきたい。
●「支援という名の支配」は選択肢を奪い、隷属を強いる
非営利法人といえば、NPOや一般社団法人、社会福祉法人など、さまざまな法人がある。
利益最優先の企業と比べ、社会的課題の解決を優先するというその仕事ぶりに良いイメージを持っている人は多い。
しかし、社会的課題によって苦しめられている弱者を一方的に支援することは、支配になりかねない。
たとえば、ホームレスの人に定期的に炊き出しや現金給付だけを施せば、彼らは働かなくてよくなり、日常的に人と深くつき合うチャンスも同時に奪われるため、孤独と失業の日々を続けざるを得なくなる。
つまり、施しだけでは、再就職という選択肢を奪われたまま老いていき、果ては路上での孤独死・飢え死に・暴行死の最期になりかねないのだ。
そこで、支援ではなく、対等なビジネス・パートナーとしてホームレスと一緒に仕事を作り出しているのが、大阪のNPO法人Homedoorだ。
他にも、児童虐待防止を啓発する某法人は長い間、企業から莫大な広報予算をもらって活動しているが、彼らの広報表現が虐待の啓発にとって費用対効果の良いものかどうかは定かではない。
少なくとも、僕が編集した本『日本一醜い親への手紙』を10万部も売ったことで、全国の児童相談所への虐待相談件数が飛躍的に伸びたことを思うと、啓発活動にべらぼうな金を出す企業は、もっと広報表現に対して注文をつけたほうが良さそうだ。
なぜなら、莫大な金があるなら、啓発よりも、親に虐待された子どもへ教育投資をしたり、安全な避難環境を作る方が、被虐待の当事者にとって有益だからだ。
児童相談所が被虐待の当事者にとって満足な仕事ができるほど機能してはいない現実を、スポンサー企業の助成金担当者が真摯に観ようとするなら、啓発事業をしている人たちの甘ったるい活動に対して腹を立てるはずだ。
そこまで児童虐待に関心がないからこそ、啓発事業に莫大な金を平気で支出し、現実に苦しんでいる被虐待の当事者の声を大事にしないままなのだ。
これも、「あなたの寄付の不都合な真実」そのものだ。
他にも、非営利法人の不都合な真実はくさるほどある。
つい先日も、「風俗嬢を救う」というとってもキレイなミッションを掲げる非営利法人の代表によって、無給(というか持ち出し)の仕事を紹介されたある風俗嬢が、「心身ともにほとほと疲れてしまった」と僕に連絡してきた。
その法人は、魚(チャンス)を与えても、魚の釣り方(具体的な稼ぎ方)は教えなかったのだ。
それでどうやってセカンドキャリアを作れるだろうか?
作れるはずがない。
だから、その団体と関わった風俗嬢は、これまで何人も突然、団体の前から姿を消した。
それでも、Panasonicなどの有名企業がいくつもスポンサードしている。
企業のスポンサード担当社員は、困ってる当事者の声を聞く前に、救いたい非営利法人の代表者の声を鵜呑みにしてしまいがちなのだ。
これは、弱者さえたくさん集めれば、大企業が金をくれるという構図だ。
こんな恥ずかしい仕事がまかり通るのは、社会的責任投資の意味を理解してない社員を、平気で助成担当者に配置してしまう経営トップの社会認識の甘さ(浅さ)が根強くあるからだ。
最後に、「不都合な真実」を抱える非営利法人を見分けるヒントをいくつか示しておこう。
テレビや新聞に頻繁に出てるからといって、カンタンに信用してしまう人にならないように。
★その事業活動によって救われているはずの人(=当事者)の声が表に出ない
★代表が統計データを根拠に活動を正当化したがり、当事者満足度のエピソードを語れない
★事業活動に関わる人が特定の学歴や所得、宗教などに偏っていても問題視しない
★民間事業のはずなのに、多様な人の意見を聞かず、政治家や政治力に頼りたがる
★中流資産層以下には容易に手を出せない課題解決の仕組みを真っ先に提供する
【関連ブログ記事】
学校でソーシャルデザインの面白さを学べない人へ
そのイベントは、「ソーシャル」か?
共感していただけましたら、下にある小さな「ツィート」や「いいね!」をポチッと…