興行的には当たらないドキュメンタリー映画も、おばあちゃんが主演すると思わず関心を持ってしまう。
そんな「おばあちゃん萌え」の方に、気になってしまう映画を紹介してみたい。
もっとも、作品で描かれる現実の高齢者は、必ずしも「元気なおばあちゃん」とは限らない。
当たり前だ。
誰でも年を取れば、若い時ほど体力が余ってはいない。
むしろ、彼女たちが人生で何をしてきたのかを、淡々と観てほしい。
●生きてこそ
(監督:安孫子亘)
昭和 2年生まれの山田登志美さんは、津の大きな米 農家に4世代で暮らし、昔ながらの会津弁で昔話を語る。
それは、登志美のおばあちゃ んから聞き継がれた話。
話の節々に「人としての道」が盛り込まれ、知らず知らず のうちに子供たちは良き方向に導かれていく。
2011年3月11日の東日本大震災以来、放射能と向き合いながらの米作りを続けている。
●シャーリー&ヒンダ ウォール街を出禁になった2人
(監督:ホバルト・ブストネス)
シアトルの田舎町で暮らすシャーリーとヒンダは、自分たちがわからないことを知るために大学生や大学教授、経済アナリストらへ質問を繰り返す。
ついには、世界経済の中心であるウォール街へと飛び出して知的好奇心を満たしていく。
電動車いすに乗った92歳と86歳の女性が、「経済成長」についての答えを求めて奔走。
時にはバカにされたり、脅されたりしながらも情熱を絶やさない。
監督は、ノルウェーの実力派ドキュメンタリー作家。
●タイマグラばあちゃん
(監督:澄川嘉彦)
岩手県のほぼ真ん中にある早池峰山(はやちねさん)の麓に、「タイマグラ」と呼ばれる小さな開拓地がある。
「タイマグラ」とは、アイヌ語で「森の奥へ続く道」の意味。
ここで、向田マサヨさん81歳は、じいちゃんの死後も一人で暮らしてきた。
水道がないので湧水を使い、日本で最後に電気が通るまでランプの明かりが頼り。
自分が畑で育てた大豆を使っての豆腐作り、「お農神さま」への信仰、春一番の味噌作り。
ばあちゃんには便利な「モノ」はなくても、さまざまな生命たちと一緒に生きているという安心と喜びがあった。
本作は、ばあちゃんが守ってきた「変わらないもの」の大切さを見つめ続けた15年間の記録。
http://www2.odn.ne.jp/ise-film/works/Taimagura/taimagura.htm
●アイリス・アプフェル!94歳のニューヨーカー
(監督:アルバート・メイズルス)
インテリアデザイナー、実業家などさまざまな肩書きを持ち、ファッションアイコンとしてニューヨークのカルチャーシーンに影響を与え続けるアイリス・アプフェルの成功の秘訣や魅力とは。
1950年代からインテリアデザイナーとして活躍し、ホワイトハウスの内装を任され、ジャクリーン・ケネディを顧客に持つなど、輝かしいキャリアを誇るアイリス。
そんな彼女の展覧会や老舗百貨店でのディスプレイ企画、売り切れ続出となるテレビショッピングなどに密着。
自由で楽しく生きることとサクセスを両立させたアイリスの魅力が描かれる。
(※2016年6月10日時点で、映画館で公開中)
●桜の樹の下
(監督:田中圭)
戦前から工業都市として発展した川崎市は、高度経済成長期に多くの労働者を抱え、ベッドタウンとしての宅地開発が進められた。
当時の公営住宅は地方から来る若き労働者の、現在は単身高齢者の受け皿となっている。
団地の中には歌があり、踊りがあり、笑いがある。
孤独を感じながらも楽しく逞しく生き、自らの死とも向き合う高齢者たちには、繰り返される生と死が生活の一部であるかのごとく存在している。
http://www.sakuranokinoshita.com/
(※2016年6月10日時点で、映画館で公開中)
●飯舘村の母ちゃんたち 土とともに
(監督:古居みずえ)
菅野榮子(かんの・えいこ)さんは79歳。
地元の自然を愛し、家族とともに懸命に働い てきた。
孫に囲まれた幸せな老後を送るはずが、原発事故で一転。
榮子さんが暮らす 福島県飯舘村は全村避難となり、一人で仮設住宅で暮らすことに。
支えは、友 人の菅野芳子(よしこ)さん。
「ばば漫才」と言いながら冗談を飛ばし、互いを元気づけ る。
畑を借り、様々な野菜を植えて農作業に精を出す。
村の食文化が途絶えぬよう、各地 で味噌や凍み餅の作り方を教える。
飯舘村では除染作業が始まったが、未だに高い放 射線量、変わり果てた風景・・・。
先の見えぬ不安を語り合い、泣き笑いながら、二人でこれからを模索していく。
(※2016年6月10日時点で、映画館で公開中)
●学生よ、「おばあちゃん映画祭」を開催してみないか?
こういう良質なドキュメンタリー映画も、自分の地元の映画館で上映されず、観られないままで忘れてしまうことは、地方在住者にとって悩ましいことだろう。
もっとも、高校生や大学生なら、学内のイベントとして上映会を開催することもできる。
上記の映画の公式サイトからメールを出し、上映のためのレンタル代を尋ね、上映方法を教えてもらえればいいだけだ。
最近の高校や大学には、DVDさえあればパソコンから再生し、パソコンからプロジェクターでスクリーンに映写できる環境があるはず。
無いのなら、地域にある市民会館や視聴覚室など公共施設を借りてもいい。
なんだったら、さびれた映画館のオーナーに企画上映を打診してみてもいい。
いっそ、前述したドキュメンタリーを連日観られる『おばあちゃん映画祭』を企画してはどうか?
学生や地元市民、商店会や役所、地元企業などを巻き込んで上映レンタル代を払える資金を調達してもいいし、入場料をもらえば収支をとんとんにできるだろう。
そういう映画祭が実現すれば、地域で孤立している高齢者を家の外へ出し、地域市民と交流するチャンスを生み出せるし、同時に彼らの認知症を遅らせることによって、高齢者ドライバーによる自動車事故も減らせるかもしれない。
実際、高齢者が気軽にスクリーンで映画を楽しめるチャンス自体は、地域にあらかじめある。
全国の映画館で開催中の午前中の映画祭では、昔の名作映画をニュープリントで観られる。
映画館以外でも、図書館や第3セクターの映像ルームなどでは、名作を無料上映していることもある。
もしきみが『おばあちゃん映画祭』をやってみたいと思うなら、僕にメールを。
いつでも相談に乗ろう。
予告編を観るだけでも、おばあちゃんたちは「どんなふうに生きても正解」と教えてくれている気がする。
ふだん、自分自身の祖父母に会わない暮らしを続けている人にとって、なかなか気づかないことを、おばあちゃんたちは映像を通じて気づかせてくれるのかもしれないよ。
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