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■死刑囚が作ったアートを展示 ~善悪の彼岸を超えて


 広島県福山市に開館したばかりのアウトサイダーアート専門ギャラリー「クシノテラス」
 この「クシノテラス」には、公式サイトFacebookページもあり、最新情報が観られる。

 「クシノテラス」では、8月29日まで、「極限芸術2 死刑囚は描く」という展示を行っている。
 タイトル通り、死刑囚たち自身が描いた作品を展示しているのだ。
 あなたは死刑囚の作品を観たことがあるだろうか?
 それを思えば、どれだけこの展示がすごいことなのか、ピンとくるはずだ。

 展示の趣旨について、公式サイトでは以下のように書かれている。

 本展では、2005年から「死刑廃止のための大道寺幸子・赤堀政夫基金」により集められた確定死刑囚による新作絵画を中心に展示紹介します。(中略)
 確定死刑囚の人たちが描く絵から、事件の内省や何かしら解り易い「人間らしさ」のようなものを感じたいと願うのは、私たちの勝手なエゴにしか過ぎません。(中略)
 死刑制度の是非を問うのではなく、社会的に「悪」とされる人たちの芸術を通じて、既存の常識や価値観が再考されるきっかけとなることを願います。

 「クシノテラス」を運営する櫛野展正さんは、以下のように展示の意図を語っている

 日本の「アール・ブリュット」が2020年に向けて福祉分野で脚光を浴びるいまだからこそ、クシノテラスではアール・ブリュットの文脈から排除されている「犯罪者の表現」をあえて紹介しています。

 では、今回の展示で見られる「作品を書いた死刑囚」とは、誰なのか?
 以下の42名の確定死刑囚だ(※総計725点の原画を公開)。

林眞須美 (和歌山毒カレー事件等)
伊藤和史 (長野一家3人殺人事件)
加藤智大 (秋葉原無差別殺傷事件)
金川一 (主婦殺人事件)
熊谷昭孝 (警視庁指定118号事件)
迫康裕 (警視庁指定118号事件)
兼岩幸男 (交際2女性バラバラ殺人事件)
原正志 (替え玉保険金等殺人事件)
後藤良次 (宇都宮・水戸殺人事件)
広瀬健一 (地下鉄サリン事件等)
髙橋和利 (横浜金融業夫婦殺人事件)
高尾康司 (千葉館山連続放火事件)
若林一行 (岩手県洋野町母娘強盗殺人事件)
小林竜司 (東阪大生リンチ殺人事件)
松田康敏 (宮崎2女性強盗殺人事件)
西山省三 (老女殺人事件)
千葉祐太郎 (石巻3人殺傷事件)
猪熊武夫 (山中湖連続殺人事件)
田中毅彦 (右翼幹部ら2人殺人事件)
藤井政安 (関口事件)
風間博子 (埼玉連続4人殺人事件)
豊田義己 (静岡、愛知2女性殺害事件)
北村孝 (大牟田市4人連続殺人事件)
井上孝紘 (大牟田市4人連続殺人事件)
北村真美 (大牟田市4人連続殺人事件)
鈴木勝明 (大阪ドラム缶遺体事件)
長勝久 (栃木・妻と知人殺人事件)
松本健次 (2件強盗殺人事件)
何力 (パチンコ店強盗殺人事件)
岡下香 (資産家老女ら2人殺人事件)
宮前一明 (坂本弁護士一家殺人事件等)
岡本啓三 (コスモ・リサーチ殺人事件)
石川恵子 (宮崎2女性殺人事件)
江東恒 (堺夫婦殺人事件)
謝依俤 (品川製麺所夫婦強殺事件)
ike
闇鏡
音音
高井空
檜あすなろ
響野湾子
星彩



●死刑囚もアーティストになれる社会の豊かさ

 「クシノテラス」の展示コンセプトは、未だ世の中から正当な評価を受けていない表現を紹介する」だ。
 このコンセプトに、僕は美術(アート)の持つ本来の社会的役割を観る思いがする。

 アート作品を作るのに、資格はいらない。
 どう描くか、何を描くか、誰が描くかは、まったく自由だ。
 その作品に対する解釈も自由だし、誰がどう評価するかも自由だ。

 しかし、東京藝大のような難関大学を出て、美術史に残るような作品を作る人を特権的に讃えたい文化もある。
 もっとも、彼らは社会の中では既得権益にとって都合の良い一部のアーティストであり、アートの魅力の一部にすぎず、アートを代表するものですらない。

 むしろ、そうした既得権益から遠いところで、アート作品の多くは作られている。
 「表現したい」という気持ちを人が持つとき、評価を待つ表現物は作られるのだ。
 そして、観られる(知られる)ことによって、表現物は「作品」として認知される。

 作り手がどんなに悪事を働いた人であろうと、その作品まで「悪」とは言いがたい。
 アート作品を通じて、どんな人間も社会的包摂の対象になりうるのだ。
 作り手が死刑囚であろうと、観る者にとっては「アーティストの作品」だからだ。
(もちろん、自分の身内や親しい人間が殺されている当事者にとっては複雑な思いだろう)

 善悪の彼岸を超えて、もっと豊かな文脈を誘発するのが、アート本来の魅力だ。
 その点で、ギャラリーが死刑囚の作品を並べることは、アート本来の魅力に気づかせる絶好の機会ともいえる。
 そして、こうした試みは多くはない。
 「死刑囚を容認するのか」という声が上がるのを恐れて、展示を自粛する人もいるからだ。
 それを思うと、櫛野さんの試みを僕は歓迎したい。

 「極限芸術2 死刑囚は描く」という展示には、アーティストの日比野克彦さんも鑑賞に訪れ、7月4日には脳科学者の茂木健一郎さんがトークライブを行うそうだ。
 死刑囚がアート作品を作る動機に関心を持つ人は少なくない。

 広島の「クシノテラス」まで足を運べない方には、書籍『極限芸術 ~死刑囚は描く~』の購入をオススメしたい。
 この本は、クシノテラスの公式サイトで購入できる。
 42名の死刑囚の作品を収録している他、椹木野衣さんや田口ランディさんの論考も載っている。

 なお、「極限芸術2〜死刑囚は描く〜」展に出展中の当時18歳だった元少年こと、石巻市三人殺傷事件の千葉祐太郎・被告(24)の死刑が、616日に確定した。
 24歳の彼は、作品を作ることも、表現することも、できなくなる。

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