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■田舎が財政破綻すると、困るのは日本人全員(後編)

 「田舎が破綻すると、困るのは日本人全員(前編)」に続き、2016年12月16日に1泊2日のスタディーツアーとして訪れた千葉県富津市の現状を伝えよう。
 既に4万5000人にまで減った富津市は、毎年500人ほどの市民が逃げ出しているまちだ。
富津市のホームページより
 午前中、いきなり金融機関の人たちの挨拶を受け、なんともリアクションできない気持ちを引きづったままのツアー参加者たちは、マイクロバスで富津市名物といわれる「海堡丼」を出す店に到着した。
 富津市は漁業と観光のまちなので、海堡(※海上に人工的に造成した島に砲台を配置した洋上要塞)を模した海鮮丼を食す機会を提供するのは悪くない。

 でも、江戸前の食材なら、東京でも神奈川でも食べられる。
 味付けも、そう変わらない。
 富津まで来なくても食べられるものを、なぜ富津市の店内で食べなければならないの?
 これなら、海沿いのシーフードレストランの方が、海風を浴びられるだけ風情が違うだろう。
ツアー参加者を乗せたバス
 そして、午後1時。
 マイクロバスが市役所に着いた。
 市役所で市長・担当課長との意見交換会を、90分も楽しめることになった。

 これがこのツアーの一番のウリなので、市長が90分も同席すること自体は最大限に評価したい。
 ただ、結果的に言えば、市長が同席した以上の面白みはなかった。

 市長や担当課長の説明が一通り終わって、速やかに質問が募られた。
 ムダな話がなくサクサクと進行し、質問時間を多めにとろうとする構えは、気持ちよかった。
 すると、僕をツアーに誘った友人が、いきなりこんな質問をした。

「市外から富津市に来て起業する人は、立ち上げ資金などで金融機関にお世話になるなど、リスクを背負いますよね。
 遠方からやってきて、富津市のために自分だけがリスクをとるんじゃ、富津に来てよと言われても誰も動機づけられないと思うんです。
 そこで、起業するリスクを市で分担する仕組みを考えませんか?
 たとえば、起業支援を担当した役人が、起業した市民がリスクを背負えずに失敗しても、処罰されず、左遷もされず、減点評価されない制度を作ることは考えませんか?」

 自治体によっては、施策の失敗のツケを担当役人が背負わされ、部下のいない新しい部署として窓際に回される憂き目に遭う現状があり、そうした悪習慣がどこの自治体にもあるため、思いきった取り組みを役人が自重する文化が根強くあるのは推して知るべしだ。

 しかし、友人の質問に担当課長たちは苦笑い。
 40代の若い市長は、「ありきたりなようですが、前向きに検討したいです」と答えた。
 どこまで本気で議会に諮るかは、わからない。
 優等生的な答え方だが、就任2ヶ月めの市長としては、そう言う他に無いのだろう。

 他にも次々に面白い質問が投げかけられたが、正直、市長・担当課長がどこまで本気で意見を取り入れるのかは、今後実現する政策を見なければ、わからないので割愛する。
 他に誰も質問の手が上がらなくなったのを確認し、僕もこんな質問をした。

「富津市にしかない魅力を、20字以内で説明してくれませんか?」

 すると、市長は「美しい夕日と美味しい魚」とか、「いろいろあるし」などとアバウトなことしか言わず、弱ったような笑顔を見せた。
 そこで僕は、さらに突っ込んだ。

「日本は海に囲まれた国なので、海のある自治体ならどこでも同じことを言いますよ。
 僕がお尋ねしたいのは、富津にしかない魅力です」

 すると、市長は「うーん」と唸って、黙ってしまった。
 この市長は、生まれ育ちも富津市内で、木更津出身の浜田靖一・衆議院議員の政策秘書を務め、富津市の副市長も務めてきた人だけに、民業にも起業にもうといことは否めない。
 つまり、「うちの子はかわいい」と言うことはできても、「他の子にはない、こういう魅力のある子だ」といえるだけの視点を獲得していないのだ。

 僕は畳みかけるように、こう言った。

「富津市は2018年には財政破綻が危ぶまれていると報じられましたよね。
 残り1年しかありません。
 イスカンダルにコスモクーナーDを取りに行って無事に帰ってきた宇宙戦艦ヤマトみたいに、1年間で滅亡を免れるだけの画期的な仕組みはあるんですか?」

 すると、市長はキッパリ言った。

「富津市は、絶対に財政破綻しません。
 私どもの取り組みが十分に伝わってないだけです」

 この言葉を聞いて、僕は唖然とした。
 「原発事故は絶対に起きません」という安全神話をいまだに信じているかのような響きがしたからだ。

 もちろん、富津市は、この記事の前編で紹介した2014年発表の下方予測(財政収支の推移)をはね返し、2015年は黒字決算に転じたが、国の定める財政健全化の基準値が下回っていることを市も認めている。

 2016年度の上半期の予算執行状況でも黒字を計上し、財政健全化のきざしを見せてはいるが、メディアから付与されたマイナスのイメージを払拭できるだけの画期的な盛り返しの施策が打ち出されているなら、役所は広報スキルを磨いてもっと市内外に訴える必要があるのでは?

 人口流出や過疎化、産業衰退などの深刻な社会的課題を解決した自治体では、画期的かつオープンマインドな情報公開に長けているし、そういう事例は毎日のようにニュースになっている。
 それらの事例をきっちり学んでいれば、「取り組みが伝わってない」なんて言葉は出てこない。
 そんな言い訳自体が、政策の失敗(あるいは怠慢)を市長自身が認めたようなものだからだ。

 広報スキルが不足していることは、現実には未発見の魅力があろうとも、それが広く売り込めず、自治体としては致命的な欠陥になりうる。
 その危機感が当事者の市長に乏しいなら、「よそもの」の僕らツアー参加者はお手上げなのだ。
 一言多い僕は、つい言ってしまった。

「たとえば、Skypeやツイキャスを週1回やり、市役所1回のロビーの壁をスクリーンにし、世界中の人と富津市長・市民をつなげば、そのコミュニケーションの積み重ねによって富津市のファンを市内外に広く育てていけますよ。
 それは、0円でできることじゃないですか。
 正しいことをするだけじゃ、人はついてきません。
 正しいことをするからこそ、楽しくワクワク参加できる仕組みを作りましょうよ」

 すると、このアイデアを市長はさっそくメモしていた。
 なんか、いろいろ拍子抜けするリアクションだ。
 人口流出を食い止め、過疎化を免れたよその自治体が、どれだけオープンに情報公開をしているのか、市外の人間とどれだけオンライン上でコミュニケーションをしているのかを知らないらしい。


●市民が動かず、市長も本気にならないまちはオワコン

 夕方は、お土産物屋も入っている、海沿いの総合シーフードショップに立ち寄った。
 ここではオリジナルのバームクーヘンが作られていて、店員が1個ずつ配ってくれたので食べてみると、かなり美味しかった。
 ツアーにたった一人しかいなかった女性参加者も、これには素直に満足していたようだ。



 その後、地元に江戸時代より目から住んでいる旧家の方が建てた美術館や、アーチストの人たちが利用していたけど今は使われてないアトリエの外観などを観て歩き、最後は富津市に移住し、商業施設をコ・ワーキングスペースとして再利用している若い起業家を視察した。

 そこでは、1ヶ月間の滞在体験プログラムで10万円(税込み)の参加費を支払わせる「田舎フリーランス養成講座」を開催していたところだ。
 事前にそのサイトをチェックしていた僕は、「期間内で自分自身で10万円を稼ぐフリーランスに」とか、「3万円稼ぐためのアフィリエイト実践講座」というキャッチコピーに、なんとも怪しい印象をもっていた。

 実際、コ・ワーキング・オフィスを主催している若者は、妻子と一緒に移住し、安い生活費ゆえにスローな仕事ぶりを見せてはいた。
 でも、6学年すべて合わせても50人未満の小学校しか富津市内にはなく、これから子どもへ教育投資していくのに必要な資金を得られる根拠があるのかどうか…。
(少なくともアフィリエイトは不労所得であって、仕事ではない。
 仕事とは、価値を生み出す対価として金を受け取るものだ)

 そこから歩いて旅館に着くと、これ見よがしに生け簀にでかいカニがわんさかと入って、うごめいていた。
 温泉に入って、食事にありつき、宴会となった。
 しかし、いっこうにカニが出てこない。
 期待はずれとは、このことだ。
(ちなみに、朝食にもカニは出なかった。残念!)

 唯一の収穫は、ツアー参加者どうしで名刺交換したら、面白い職歴の人たちだとわかったことだ。
 米を作って米粉ミルクを作る予定の東京の大学生。
 福島県の会津で中高生相手にプログラミングを教える塾の若手経営者。
 来日10年以上でインバウンドを見込んだおもてなしアプリを作っている中国人。
 何十億円もの大金を動かしているコンサル…。

 20代から50代まで15人の参加者どうしのスキルを掛け合わせれば、小さなまちの一つぐらいなら動かせそうなパワフルな起業家たちの集まりだった。
 彼らは、バスから見えた光景をヒントに、「鋸山トレイルランや元旦マラソンに人が集まるならスポーツを起点にまちの魅力を売り出してもいいじゃないか」などの具体的な提案も語っていた。

 しかし、僕らツアー参加者たちは、宴会でNPOアフィックのスタッフのみなさんと和気あいあいと酒を飲んで語らったものの、アフィックのみなさんには簡単な自己紹介しかしていないし、それしか求められなかった。
 僕が市長だったなら、「なぜ参加者各自にいくら払えば何が一緒にできるかを具体的に尋ねなかったのか?」と叱るかもしれない。

 翌17日(土)の朝、旅館のロビーにあった深海鮫の模型が面白かったので撮影した。
 富津湾は遠浅ではなく、いきなり深海600メートルの海溝になっているんだそうだ。

 そこで、実際に深海鮫がとれるそうで、僕は「蒲田くん」(映画『シン・ゴジラ』を観た人ならわかるよね)ならぬ、「富津くん」と呼んで、一人で笑っていた。

 でも、土地の人は誰も、突っ込まない。
 それもそのはず。
 あとで調べてみたら、富津市内には映画館が1軒もなかったのだ。

 若者たちがワクワクしながら活動できる文化拠点がないまちは、18歳でおさらばするしかないまちだ。
 地元に思い入れを育まれず、やりたい仕事もできないのだから、まるで浜田省吾の『MONEY』を地で行くしかない。

 富津市では、年間500人の市民が市外に逃げている。
 市内での交通の便は悪く、買い物も不便で、富津市自身の調査によると、およそ5人に1人の市民が逃げ出したいようだ。
 しかし、市のホームページでは、その深刻さを共有したくないのか、こう書いている。

住み心地に関する質問について54.7%の人が「(まあまあ)住み良い」、定住意向に関する質問について77.4%の人が「(ずっと又は当分は)住み続けたい」と回答しています。

 なんだ、この能天気なポジティブさ!
 それは、そのまんまツアーのゆるさにも現れていた。

 午前中に鋸山ロープウェイに登り、約4分間で富士山を遠く観て、降りてきた。

 乗る前に僕は観光客向けに売っていた「房総サイダーびわ風味」(120円)を飲んでみたのだが、近所でびわが取れるのに「風味だけびわ」のサイダーを飲むという自虐ギャグのような展開だ。

 売り子の若い娘さんも、接客に慣れていないのか、笑顔が足りない気がした。
 仕方ないので、猫を撮影しながら、バスで登る最中に観た野生の小猿を思い出していた。
 この山には害獣の「きょん」も住んでると聞いたけど、猟銃でハンティングしてジビエにするのも難しいそうだ。

 昼食は、これまた「名物」と紹介された焼き穴子重だった。
 これなら、富津の浅黒い肌の漁師たちが野性的に船で食っているだろう”漁師めし”を、まだ暗い朝に漁船に同行して食いたかった。
 富津市で「江戸前」と言われても、「東京から近い」なんて言われても、東京在住の経験者の心にはぜんぜん響かない。

 最後は、漁業を廃業した人たちの大漁旗が天井一面に貼ってある埋立記念館を視察したが、ツアーバスの運転手ですら「きっとショボいよ」と見る前の参加者たちの気を削ぐ発言。
 案の定、のりの作り方やら、昔の漁法やらの模型や歴史を見せられ、リアクションに困りつつ、バスに帰り、あとは青堀駅へ直行。

 それもつまらないので、「このへんには古墳群があるようなので回ってみませんか?」とお願いすると、大小の前方後円墳が続々と道の両脇にあり、ちょっとだけバス内の気分が上がった。
 解散地点の青掘駅に着くと、ツアー参加者どうしがフェイスブックの友だち承認をしながら別れたのだが、僕はツアーの各所で一人抜け駆けしながら、一般市民の人々の声を拾い集めていた。

 もっとも、中高年しかまちを歩いていないのだが、「このまちは人口流出で不安がられてますね」と声をかけると、ふつうに答えてくれた。

「もうだめでしょう。じいさん、ばあさんしかいないし、ねぇ」

「私だって、もっと若かったら出ていくよ。でも、もう年だから…」

「市長だって1~2年は役人や議員などの顔と名前を覚えるので精一杯。何もできないだろう」

「もう、どうもこうもならんでしょ。昔は合併で7万人を越えた頃もあったんだけどね」

 ツアー参加前は、よその成功事例に基づいた富津市の活性化プランを考えていた僕も、市民の率直な声を聞くにつけ、「このまちは本当にダメなんだろうな」と思った。
 住んでいる方には申し訳ないが、市長以下、役人・市民が日本全国に土下座するようなつもりで国からの金や民間からの投資を乞うしかないだろう。

 それは、よそもの・わかもの・ばかものという地域活性に必要不可欠な3つの存在の声をこれまで十分に聞き取らずにいたツケだ。
 とくに、地元の若者に見捨てられたツケは大きい。

 「自分たちの郷土だけが助かればいい」という閉鎖的なマインドのまま「よそもの」の作る金を当てにするなら、「第2の夕張」は遅かれ早かれ実現してしまうだろう。

 これは、富津市だけの話じゃない。

 民間人と一緒にリスクをとる覚悟はあるのか?
 田舎の赤字補填のために、国民全員の税負担や借金を増やすのか?
 道州制を導入して一気にダメな自治体を消滅させるか、それとも財政再建団体を増やすのか?
 遅かれ早かれ、国民自身の意志を問われることになるだろう。

 以上のツアーの感想は、あくまでも僕の個人的な意見にすぎない。
 このツアーが富津市にとっては最初の試み的なリサーチであろうと、「よそもの」にまちの最大の魅力をはっきりと伝えられず、共感より同情を与えてしまったことは、反省材料として根本的な改善に活かしてほしい点だ。

 地元に人や資金、活性化ノウハウやさまざまなスキルを呼び込みたいのは、どこのまちも同じ。
 富津市は、全国津々浦々に優秀なライバルがたくさんいる現実を見据えてほしい。
 日本そして世界のどこにもない唯一固有の魅力が発掘(あるいは創生)できない限り、その土地に時間とお金をかけて訪れる人や移住してくる人は増えないのだから。

 そして、「金が無いから国から引っ張ってくる」という安易な発想をやめて、価値あるコンテンツがあると本気で思えるなら堂々と売り出し、3万円以上の視察ツアーをやってみればいい。
 「大金を出してでも富津市を訪れてみたい」という情報発信が日頃から行われているなら、そして本当に金を払いたくなるコンテンツがあるなら、そのツアーは市政の正当性を内外に示す強力なエビデンスの一つになるのだろうし。

 なお、「地方創生コンソーシアム」と「スタディーツアー」の2語で検索すれば、これから参加できるツアーもヒットするので、さびれた田舎で起業したい人は参加してみてほしい。
(※この記事の前編はコチラ。全編を動画で聞きたい方はコチラ

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