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■2分の1成人式は児童虐待 ~定着をさけるために

 20歳まで半分の年齢である10歳になったことを記念し、小学校で開催される「2分の1成人式」というイベントがある。
 小学4年生を対象に毎年1~2月頃に行われるこのイベントは、その内容を知れば、児童虐待そのものだと誰もが理解できる。

 朝日新聞(2017年5月18日)の記事によると、その内容は以下の通り(※右の画像も同記事から引用)。
子どもが親への感謝をつづった手紙や将来の夢を発表するのが主流で、親から子どもにメッセージを贈ることもある」

 同記事によると、親への感謝の作文を書くように言われた小学生が、「何の感謝もしていないし、つらいことの方が多かった。みんなが幸せな家族じゃないのに」と思いながらも、自分を殺して書いたところ、担任教師に「感謝の気持ちが足りない」と2度も書き直しを強いられたそうだ。

 10歳の子どもは、自分が親からされていることが虐待だと気づかなかったり、判断できなかったり、うすうすそう感じていても、周囲の「親に感謝する」という空気に合わせて言葉を選ぶことがある。
 たとえ虐待されていても、親に反抗すれば、さらにひどいことをされる恐怖から、誰にも本当のことが言えない子どももいる。

 2012年10月24日付のニコニコニュースは、同年、広島県で堀内亜里・被告(28)が小学5年の長女・唯真(ゆま)さんをゴルフクラブで殴打し、死亡させたとして、逮捕されたことを伝えている。
 この母親は、高校を中退後、17歳で唯真さんを出産。
 3カ月後に離婚したヤンママだ。

 自分では育てられないとの理由で、唯真さんは生後5カ月で乳児院に入った。
 しかし、母親のみならず祖母からも虐待を受け、2009年には児童養護施設へ。
 2011年に帰宅してからも、母親から日常的な虐待を受けていたようだ。
 2012年1023日付の中国新聞に、唯真さんが母親に宛てた手紙の一部が公開された。
 それが、以下の画像だ。

 「2分の1成人式を開催すれば、そういう被虐待児を発見できるのだから、いいじゃないか」という意見がある。
 しかし、それは間違っている。

 恐怖で本当のことが言えない子どもほど、親や教師の前で大人が喜ぶ「良い子」としての言動を演じるものだし、たとえ本当に虐待を発見できて児童相談所へ通告しても、一時保護されるのはまれだ。
 多くは家に帰された後でさらにひどい虐待にさらされる恐れが出てくるが、校長も担任教師もその責任は取れないし、取ろうともしない。

 なのに、親へ感謝の手紙を書けない子どもに、担任教師が事情を尋ねたら「お父さんに毎日セックスさせられているの」と答えられたとき、担任はどうするつもりなのか?
 それが友人の耳に入らなくても、教員に知られるだけで、その子はどういう思いがするだろう?
 これぞ、セカンドレイプだ。
 2分の1成人式の普及・定着は、セカンドレイプのチャンス拡大になる。

 ただでさえ忙しく、うつ病率も高い教員にとっても、担当児童からの虐待告白は心理的負担が大きい。
 良心的な教員にとってほど、大きすぎる負担になる。
 公務員しかやったことがなく、世間知らずのままの教員の中から、2分の1成人式によって自殺するケースが今後出てくることが容易に予測できる。
 元教員が2分の1成人式に反対しているブログ記事も、読んでみてほしい。

 さらに恐ろしいのは、こうした「2分の1成人式」が子どもだけでなく、親にも強制される点だ。
 2015年2月27日付のAERAの記事によると、娘が「2分の1成人式」に出席するという父親も、先生に書き直しを求められたという。

『◯◯ちゃんのいいところをお父さん、お母さんに書いてもらってきてね』というプリントを持って帰ってきた。そんなものはひとつに決めなくていいんだよ、と書き込んだら、先生から書き直しを命じられて…」

 オンラインマガジン「ラシク」の2016年12月21日付にも、学校からの通達に驚いた保護者の声が紹介されている。

分の1成人式があるので、家族の誰かが絶対に来てください。今から調整すれば、いくら何でも休めないなんてことはないでしょうといったことが書いてあり、口頭でも、お忙しいでしょうがこの日だけは来てくださいと要望がありました。
 正直、『え、学校が会社休めなんていっていいの?』と驚きました(中略)現在高校2年生の次女は『意味なくね?と思ってた。いやだった』、三女は『覚えてないな』と言い放ちました

 2分の1成人式は、学習指導要領に入ってない任意のイベントだ。
 教師はいつから国民を支配する権力をもったんだ?
 教師が親にまで書き直しを命じる権利は、そもそもない。

 それが不当な命令だと教師自身が感じているなら、校長・教頭に詰め寄って「これは越権行為です。私にはそんな権限はありません」と抗弁するのが筋だろう。
 その程度のことができないなら、教員自身の心身の健康のためにも早めに学校をやめていただきたい。
 教職員が専権を持つ校長の奴隷にすぎないなら、その奴隷は自分よりさらに弱い立場の子どもに隷属を強いるだけだからだ。

 学校で教えられることに異論すら唱えられない子どもに新たな隷属を強いること自体、児童虐待である。
 その認識がないから、2分の1成人式で「親への感謝の手紙」を書かせたり、人前で読ませたりすることが美談になってしまうのだ。

 親からひどい虐待を受け、親から隔離するように児童養護施設で暮らしている子も、小学校に通学している。
 その子に「親に感謝しろ」とか「ウソでもいいから親に『ありがとう』と書け」というのは、まさに隷属であり、心理的虐待に該当する。

 しかも、自分を押し殺させてまで書かせた作文を友人や友人の親たち、担任教師の見ている前で読み上げるなければならないとしたら、その子は自分を取り囲む社会に対して不信感を抱かざるをえないだろう。
 これは、社会的虐待と呼んでもいい。

 それどころか、「2分の1成人式」が、自分の手柄を作りたい校長や、PTA会長から市議選に立候補したい野心家の保護者、地元の政治家などによって企画・開催されたものなら、それは政治的虐待と呼んでもいいだろう。
 さらに言えば、「親に感謝する」という論理を、権力を行使して一方的に弱い立場の子どもに強制するなら、それは立派な文化的虐待になる。


●2分の1成人式とは、児童虐待の正当化にすぎない

 いじめが、いじめられる側にとって切実にイヤな言動を意味するように、児童虐待とは子どもにとって切実にイヤな言動を意味する。
 児童虐待かどうかを決めるのは、学者や医者でもなく、行政でもなく、どんな
大人でもなく、恐怖や不安を覚えた子ども自身なのだ。
 それが、子どもに人権があることをふまえての定義になる。

 では、なぜ親を喜ばすだけの「2分の1成人式は全国各地の小学校に急速に広がっているのか?
 これは、子育てが昔より大変になり、子どもを育てなければならない苦労を報われたい親が、子どもから「ありがとう」と言われたいというニーズが根強くあるからだろう。

 そのニーズに乗っかる形で、「これから大人になる子どもたちに背筋を伸ばして参加するイベントを」と望む人が始めたものが、「2分の1成人式」なのだ。
 つまり、「2分の1成人式」とは、「子どものため」という言いわけを使って、親が癒やされるために仕組まれたものなのだ。

 では、子どもに感謝されたい親とは誰か?
 ふだん、子どもが思わず「お母さん(お父さん)、ありがとう」と言ってしまうような言動をしておらず、それゆえに子どもから「ありがとう」の言葉を聞けない親たちだ。
 言い換えれば、子ども自身から「この親は僕(私)のことを大事にしてくれている」と思ってもらえてない親たちだ。

 ふだんから「お母さんのこと、好き」とか「お父さん、お疲れさま」と思わず言ってしまう子どもなら、親だって改めて「ありがとう」と言ってほしいとは望まないだろう。
 逆に、家庭で親と対等な発言力が許されておらず、支配的な関係しか強いられていない子どもには、自発的に親に「ありがとう」という動機がない。

 この構図をふまえれば、「2分の1成人式」とは、子どもへの愛が足りないために子どもから愛されていない親たちが、「ウソでもいいから『ありがとう』と言ってくれ」とわが子に「良い子」を演じさせる儀式なのだ。
 それを学校が正当化しているとなれば、学校の中で隷属させられている弱い立場の子どもたちに「良い子」を演じるのを強制することが、立派な児童虐待であることを理解できるだろう。

 冒頭の朝日新聞によると、「実施する学校が全国的に急速に広がっている」という。
 浜松市は「自分を支えてくれる家族や先生に感謝しながらこれまでの自分を振り返り、将来に対して希望を持つため」として、2011年度から開催を推進。2015年度には市内にある100校すべてで開かれたとか。

 僕は「2分の1成人式」を親だけでなく、地域住民みんなが「やめてくれ!」と声を上げていくことが大事だと考える。
 ブログやtwitterなどネット上でもいいから、こんな児童虐待の正当化に子どもを付き合わせるのはおかしいことなんだと書こうじゃないか。

 あなたの住むまちで「2分の1成人式」を開催する動きがあったなら、地元の市議会議員、弁護士会、PTA協議会、教育委員会などのホームページからメールで「やめてほしい」「その行事は児童虐待だ」「マスコミに伝えるぞ」と伝えよう。

 前述の朝日新聞の記事では、「ベネッセ教育情報サイト」が2012年に2分の1成人式をしたことがある子を持つ保護者を対象に実施したネット調査で約1200回答のうち、2分の1成人式に「とても満足」「まあ満足」が合わせて約9割に上ったそうで、「保護者の評価は高い」と書かれていた。

 そこで、ベネッセの統計の意味を冷静に考えてみてほしい。
 親に虐待されて養護施設で暮らしてる子どもは、通信添削や塾などの教育投資をされてはいない。
 ベネッセの調査は、わが子へ教育投資できるだけの中流資産層以上の親たちだけが調査対象であり、その9割がよのなかに被虐待児がいる事実にピンときていないほど児童虐待に無関心なのだ。
 これは、恐ろしい現実だ。

 ちなみに、1990年代に母親に子どもが感謝を伝える『日本一短い母への手紙』という手紙集が200万部のベストセラーになった。
 それに対抗し、親を愛せない被虐待経験者からの手紙集『日本一醜い親への手紙』を僕は作ったが、10万部どまりだった。
(※もっとも、僕の本は3部作のシリーズになり、すべて角川文庫に収録され、その後も復刻アンソロジーが出るなど、息の長い売れ行きを見せている)

 どうしても「2分の1成人式」を続ける学校があるなら、そのカウンターとして「2分の1親業式」も同時開催するのを条件にしていただきたい。
 僕が考えてる「2分の1親業式」とは、親として10年やってきた人間が、どれだけわが子のことを理解しているかを試される儀式だ。
 まず、学校の教室に保護者全員が集められ、わが子の席で配られたテストを受ける。

 そのテストには、わが子のなりたい夢、親からされて本気でつらいと感じていること、一番仲の良い友人の名前、わが子が神様だと思っている有名人の名前などが出題されている。
 そのテストで点の低い親から、児童たちや担任教師、他の保護者たちも集まった席で「わが子への謝罪の手紙」を読み上げてもらう。
 読み終わると、わが子がその手紙に対する満足度を点数で評価し、どこが不満なのかを率直に言えるようにする。

 こういう「2分の1親業式」を保護者全員が参加させれば、お互いの「ダメ親」ぶりをわかり合い、それぞれの家庭の事情を共有した上で、子育てを助け合っていく空気を作り出せる。
 それは、「最低のダメ親」がダメじゃない親へ成長するチャンスだ。
 あまりにひどい場合(虐待)は、子どもの証言をふまえて、PTA全員の連名で児童相談所へ通告すれば、児童相談所も動かざるをえないだろう。

 子どもが成人まで半分の年齢なら、親だって親として半人前の未熟者なのだ。
 なのに、10年間も子どもの可愛さからさんざん癒され、可愛い笑顔に喜びを与えられてきたことを忘れ、さらに子どもに感謝の言葉をねだるなんて、「どれだけ弱い立場の子どもに親権という権力を振りかざし、支配したら気が済むんだ?」と呆れる思いだ。

 そもそも、親どうしがみんなの見ている前で親として情けない姿をさらすのが恥ずかしいゆえに「2分の1親業式」が実現できないのに、子どもならつらい虐待を受けても人前でウソの作文を読み上げることを強制させられる「2分の1成人式」をOKと思ってしまう人は、子どもの人権に無関心であることを自白してるようなものなのだ。

 学校がいくら権力をふりかざせるとしても、「2分の1親業式」をやれる日など、僕の生きている時代には来ないだろう。
 それは、親たちにとって、できの悪い親の問題を一緒に解決してあげるだけの絆がないからだ。

 大人は自分たちにとって都合の悪いことには手を出さず、自分たちがいくらでも隷属・支配できる弱い存在の子どもを相手に、自分たち大人自身を喜ばせる仕組みを作ろうとする。
 そんな大人の愚行に、いつまでも子どもが気づかないとでも思っているのだろうか?
 もう、ネットの時代なのに…。

 21世紀に入っても、この国では子どもの人権を教師も親も配慮していないし、関心が高いとも言えない。
 だから、カウンターとして大人=子どもの間に対等な関係を許す行事は、発想すらされない。

 しかし、親から虐待され、孤立を強いられている子ども、あるいはそういう子どもだった大人には、『新編 日本一醜い親への手紙』へ応募する資格がある。

 親から虐待され、支配され、自尊心をつぶされたために、コミュ障に育てられたり、生きづらさを持て余していたり、精神病にさせられた人々よ。
 「良い子」の演技を強制する学校や家庭から距離を置き、本音をぶちまけよう。
 本音をぶちまけられる場所にこそ、僕らが自由に僕ららしく生きていける希望があるはずだ。

 なお、毎週金曜の夜9時からツイキャス生配信をしてるので、聞いてみてほしい。
 以下の動画は、「2分の1成人式」について話したログ。
 2時間もあるので、「ながら聞き」で聞いてみてほしい。




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