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■児童虐待の殺傷事件の判決は親に甘すぎないか?


 児童虐待が裁判沙汰になるのは、超レアケースである。

 心理的虐待の認知が増えていても、精神病にならない限り、客観的な証拠を調達できないし、経済的虐待や文化的虐待は厚労省が認めておらず、性的虐待に至っては、裁判で公になれば、社会的立場も奪われる恐れもあるために、発覚しにくい。

 児童虐待が裁判になる時は、そのように「発覚しない虐待」の件数の多さを十分にふまえる必要があるだろう。
 一つの判例が、その判例を知ることになる多くの被虐待児の命や自尊心を傷つけるなら、それはセカンドレイプなのだから。

 児童虐待で子どもが死傷する事件では、法廷での判決が報道されることも増えてきた。
 もっとも、記事を見るたびに、首を傾げることも同時に増えた。
 「被害者が身内の子どもではなく、他人の成人だったら、こんなに親に甘い判決になるのだろうか?」と。

 ちなみに、僕は1998年12月に東京・中野の路地でいわゆる「オヤジ狩り」に遭ったことがある。
 ボコボコに殴られて全治1ヶ月ほどの全身打撲のケガを負わされ、財布を奪われたのだ。

 強盗致傷罪として、2人の容疑者を僕自身がつきとめ、中野警察署に名前と住所を教えたところ、任意で署内を訪れた2人を隣室のマジックミラーから確認でき、逮捕できた。
 その後、未成年の男子は鑑別所に1ヶ月、成人男性は執行猶予なしで2年半の刑期が確定した。

 たった1回、たった15分間ほどの強盗致傷ですら、一発でムショ行きなのだ。
 こうした経緯をふまえて、実際の児童虐待事件の報道を見てほしい。
 僕にはにわかに納得しがたいものが少なくないが、あなたはどう思うだろう?
(※判決の年は、明示されてないものは2017年)

★霊能者と共犯で娘を虐待しても執行猶予3年
 長女である女子高校生を虐待したとして、傷害と暴行の罪に問われた無職女性(44歳)の判決公判が8月4日、青森地裁八戸支部であり、遠田真嗣裁判官は懲役1年6月、執行猶予3年(求刑・懲役1年6月)の有罪判決を言い渡した。
 加害者の母親は、長女の右腕をカッターナイフで切り付けたほか、尻などをはえたたきなど棒状のもので数十回にわたり殴打し、打撲などの傷害を負わせ、長女の頭をバリカンで丸刈りにした。
 罪を認めて反省し、共犯の女性に多額の現金を支払うなど導かれるままに傷害や暴行を行った側面も否定しがたいなどから、情状酌量としたという。

★1歳の子を重体にさせても懲役5年
 1歳の次男を床に投げつけて意識不明の重体にさせたとして、傷害罪に問われた小国亮被告(30歳)の判決公判が8月4日、神戸地裁姫路支部であり、藤原美弥子裁判官は懲役5年(求刑懲役6年)を言い渡した。
 小国被告は5月23日、次男が泣きやまないことにいら立ち、床に投げつけるなどして頭に大けがを負わせた。次男は今も意識不明。
 次男の体重は当時6・1キロで、同年代の平均体重の約10キロを下回っていた。判決は小国被告と妻(24歳)=暴行罪で有罪判決=によるネグレクト育児放棄)もうかがわれると指摘し、「(事件に至る)経緯も悪質性が高い」と述べた。

★1歳の子に重傷を負わせても懲役2年8ヶ月
 1歳8カ月の男児に暴行し重傷を負わせたとして、傷害罪に問われたアルバイトの男(21歳)の判決公判が3月6日、奈良地裁で開かれ、宇田美穂裁判官は「犯行は取り返しのつかない重大なもの」として懲役2年8月(求刑懲役5年)を言い渡した。
 宇田裁判官は判決理由で、男児が精神運動発達遅滞などの重い後遺症を抱える結果となった重大性を指摘。男は2016年9月12日、同居する女性宅で、女性の長男の両脇を抱えて前後に激しく揺さぶるなどの暴行を加え、急性硬膜下血腫の重傷を負わせた。

★赤ちゃんに重症を負わせても懲役6年
 2007年に生後2カ月だった長女(9歳)の頭を殴り、頭蓋骨(ずがいこつ)骨折の重傷を負わせたとして傷害罪に問われた無職の公門友行被告(37歳)に、神戸地裁尼崎支部の堀部麻記子裁判官は1月11日、懲役6年(求刑・懲役7年)の判決。
 長女は事件後に心肺停止状態で搬送され、9年以上たった現在も意識が戻っていない。堀部裁判官は「泣きやまないという自己本位な理由で、生命の危険に直結する残酷な身体的虐待を加えた。犯行後もほとんど見舞わず他の家族との生活を優先させ、厳しい非難に値する」と述べた。

★幼児を殺しても、反省すれば懲役9年
 自宅で2015年6月、当時3歳の長男を死亡させたとして、傷害致死や監禁などの罪に問われた養父の派遣社員、常峰渉被告(33歳)の裁判員裁判で、大阪地裁堺支部は2月3日、懲役9年の判決。
 常峰被告は妻美香被告(23歳)=同罪などで起訴=と共謀し、浴室で長男英智ちゃんの頭を水に沈めるなどの暴行を加え、低酸素虚血性脳症で死亡させた。
 武田義徳裁判長は「ストレスのはけ口として虐待を繰り返し、エスカレートさせたもの。厳しい非難に値する。幼く抵抗ができない長男に対し、謝っているのに頭を複数回水に沈めた犯行は相当に危険で残酷」としながら、情状について「反省しており、被告の母親が被告の今後を見守ることを考慮した」と述べた。

★赤ちゃんに回復の見込みのないけがを負わせても懲役3年
 自宅で当時生後4カ月の長男に暴行を加えて重体にさせたとして傷害罪に問われた母親の無職、吉良美佑被告(22歳)の判決公判が4月18日、京都地裁で開かれた。
 奥山雅哉裁判官は「意識障害を伴う回復見込みのない傷害を負わせた結果は極めて重大」として、懲役3年6月(求刑懲役5年)の判決。
 吉良被告は長男の腰付近を抱え上げ、頭を床に打ち付ける暴行を加え、急性硬膜下血腫などにより、意識障害を伴う回復の見込みのないけがを負わせた。

★幼児を殺しても殺意がなければ懲役12年に減刑
 当時5歳の長男を放置して虐待死させたとして、殺人罪などに問われた元トラック運転手、斎藤幸裕被告(38歳)の控訴審判決で、東京高裁は1月13日、懲役19年とした裁判員裁判の1審・横浜地裁判決を破棄し、懲役12年を言い渡した。
 秋葉康弘裁判長は「適切な対応をしなければ死亡する可能性が高いと認識していたとは言えない」と述べ、1審が認めた殺人罪を適用せず保護責任者遺棄致死罪に当たると判断した。
 斎藤被告は長男に適切な食事を与えず部屋に閉じ込めて放置し、死亡させた。被告の弁護人は「実の子への殺意が否定され被告はほっとしていた。刑事訴訟法の原則に忠実な判決だ」と評価。

★赤ちゃんを暴行して殺しても懲役7年
 生後8カ月の長男が死亡した事件で、傷害致死の罪に問われた父親で会社員、内田翔大被告(25歳)の裁判員裁判の判決公判が2017年2月16日、千葉地裁で開かれ、吉村典晃裁判長は「抵抗できない乳児に危険な暴行を加えた」として、懲役7年を言い渡した。
 内田被告は2014年10月30日頃から翌11月6日午後4時5分頃までの間に、長男に対し、複数回にわたり顔や頭に強い衝撃を与える暴行を加えて傷害を負わせ、硬膜下血腫による呼吸不全により死亡させた。
 吉村裁判長は量刑理由で、「気に入らないとか、泣くといった理不尽な理由で身体的に弱い乳児に日常的な暴行を繰り返すなど自己中心的で極めて身勝手。長男に対する愛情や親としての責任感は感じられない」と強く非難。責任を元妻に押し付けるような虚偽の弁解をしたことについて「反省している様子はまったく見られない」と指弾した。

★赤ちゃんを暴行して殺しても懲役7年6月
 生後3カ月の長男を死亡させたとして、傷害致死の罪に問われた父親の無職、川崎仁被告(41歳)の裁判員裁判の判決が2016年2月12日、大阪地裁であり、浅香竜太裁判長は、懲役7年6月の実刑を言い渡した。
 浅香裁判長は「長男を野球のバット代わりにしてボールを打つなどの不適切な養育態度を改めなかった。非常に危険な暴行で、強い非難に値する」と述べた。
 川崎被告は自宅で長男を放り投げて和室の引き戸に当てた上、強く揺さぶるなどし、急性硬膜下血腫などのけがをさせ、死亡させた。


●虐待から必死で生き残った人たちの声を聞こう

 こうした判例を紹介しつつも、僕は子ども虐待事件の加害者の親に対して厳罰化を求めるわけではない。
 児童虐待に執行猶予がつけば、虐待した親は子どものいる家に帰れる。
 刑期が短ければ、その分だけ早く家に帰ることになる。
 自分を虐待した親が帰宅するとき、子どもはどう思うかな?

 そういう懸念は確かにあるが、他の方のページに書かれている通り、厳罰化を進めても親に児童虐待をやめさせる見込みは無い。

 もちろん、人間の中で一番弱く完全に無力な幼少児への殺傷事件なのに、大人の被害者と同等に加害者が情状酌量されることに正当性があるのかも疑問だ。
 そこで、せめて殺人罪による立件を求める声もあるが、それも本質的に虐待の抑止効果としては期待しにくいと、僕は考える。

 というのも、判例をあさっていると、親自身が産後うつだったり、ADHDだったり、統合失調症などの困難を抱えていたり、そもそも子育てが孤立しているためにストレスフルだったりするような現実を、厳罰化が変えられるとは思えないからだ。

 児童虐待がエスカレートする背景には、親自身の弱者的な属性や、孤立する子育て環境などの問題が常にある。
 しかし、そうした背景を下支えしてしまっている根本原因を見る必要があるだろう。
 その根本原因とは、「親は聖なるものであり、子どもは親に従うもの」とする家父長制の文化と、両親2人だけに養育と保護監督の責任を追わせる親権だ。

 敗戦後から、日本は民主主義社会になったはずなのに、社会をもっと生きやすいものに変えられる主権者としてのマインドも公教育で育てられることがなく、同時に家督を相続する長男直系にそれ以外の人間が隷属する家父長制の文化も否定してこなかった。

 これは、端的に教えるべきことを教えない教育の敗北とも言えるし、政府による文科省を通じた市民支配の構図ともいえる。

 また、3世代で同居し、労働力でなくなった祖父母やお隣さんらと一緒に子育てを助け合っていた時代から、核家族として「親だけが子どもを育てる」という人類初の子育て環境にな変わったのにもかかわらず、親権制度の方が変わらないままだと、親として向いていない人や責任能力のない人にまで責任を押しつけるだけになり、親権を独占している親が子どもを支配する構図が続いていくだけだ。



 つまり、従来の文化や制度を変えない限り、どんな親だって虐待へ導かれることになるのだ。

 だから、「子育て環境さえ変えれば虐待が減る」というのもウソくさいし、親権を誰でもシェアできるように制度改革を求めない限り、子どもはいつまでも親の支配下になり、それは端的に子どもの人権を守れないことになってしまう。

 実際、児童が虐待され、検挙される事件・人員は増える傾向にあり、大人のストレスを弱い子どもが引き受ける構図が見て取れる。
 児童虐待とは、強者である親が弱者である子どもに対して、力に居直り、平気で甘えるという犯罪なのだ。

 弱いものイジメを容易にしているのが、文化であり、制度であることは、弱者である子どもにとって、とてつもなく恐ろしい社会に生きていることになる。
 世間が圧倒的な弱者である子どもの人権を大事にしないのだから、親が子どもの人権に思い当たることもない。

 「親を敬いなさい」という一方的な隷属が世間に認められていて、同時に保護監督の責任者である2人の大人が独占的に子どもを20歳まで監視・支配するのが正当化されている制度下で、子どもの人権をどうやって実現できるというのだろう?

 大人が子どもを守ろうとしないから、児童虐待を防止する国家予算は満足にとられず、防止する仕組みも作られないまま、虐待された子どもたちのための施設は満杯になり、児童相談所の一時保護施設は定員オーバーでも受け入れざるを得ない。
 詰め込まれた子どもや、施設から里親に入る選択肢も貧しい子どもは、制度の壁の前で高卒以後の進学だってガマンするしかない。

 そのように「子ども視点」で考えれば、日本人があまりにも親から虐待される痛みや怖さについて知らなすぎることに思い当たる。

 だからこそ、僕は「親に虐待されてもなんとか命だけは守り抜いた」100人分の思いを集め、『日本一醜い親への手紙 そんな親なら捨てちゃえば?』(Create Media編/dZERO刊)として1冊の本にしたのだ。

 年間70人ほどの子どもが親による虐待で殺されているが、彼らの声はもう聞けない。
 しかし、生き残れた人たちなら、親から虐待される痛みを、他の人に伝えられる。
 本にすれば、ネットを使えなくても、誰もが手にとって読める。
 図書館にも置かれるから、次世代の市民も容易に読める。
 そして、虐待に関心のない人にも、手渡すことだってできる。

 だから、僕はこの本の先払い購入を勧めるだけでなく、この本の制作費を調達するための寄付も受け付けているし、虐待について理解の足りない人にも匿名でこの本をプレゼントできるよう、先払い購入購入フォームの住所欄に著名人の名前と職種を書けば、編集部から発送する仕組みにもしている。
(※著名人の人数は何人でもOK。1人1冊として、人数分の冊数を購入すればOK。右のQRコードから公式サイトへ)

 なので、上記の判例をした裁判官へ贈りたい方は、先払い購入の購入フォームの住所欄に「裁判官」とだけ書いて購入を申し込めば、編集部から児童虐待の事件を裁定した裁判官を報道記事からリストアップして探して発送する。

 法制度はスグには変えられないが、それに比べれば、裁判官の児童虐待に関する認識の甘さを変えるのは容易だろうし、この本は読者の認識を改めさせ、目を覚まさせるほどインパクトの強い内容になっている(※参考までに1997年版のサンプル動画を見てほしい。公式サイトのトップページにある動画だ)。

 1人でも多くの市民がこの国の被虐待児の境遇を思い始める時、文化や制度だって変えられると気づくだろう。
 この国に子どもの人権を大事にしたい人が増えれば、判決も変わらざるをえない。
 子どもが、子どもゆえに裁判に訴え出ることもできず、泣き寝入りすることもなくせるだろう。
 前述の判決を不当と思う方は、ぜひ1冊、購入してほしい。

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