ジャニー喜多川という社長によって性被害に遭った被害者のうち、補償金額を求める被害申告者の数が、スマイルアップの公式サイトによると、もうすぐ1000人を突破する。
被害当時、彼らのほとんどは、8歳から14歳までの年齢層を中心とする子どもだった。
子ども自身、自分の被害を認知することは難しく、また大人に抵抗することも難しい。
しかし、虐待は権力差のある関係には生じやすいので、加害者が親や教師、兄姉や親せきなどになることも珍しくない。
ジャニー喜多川、あるいは元社員の大人2名が加害者だったと、スマイルアップの東山社長自身がBBCの番組で認めた。
だが、それでも同社との契約を続け、今はスタートエンターテイメントやTOBEなどに契約を移籍した「元ジャニ」のタレントたちが、この性加害問題についてまったく言及していない。
そのことに違和感を覚えた人は少なくないだろう。
では、なぜ「元ジャニ」の彼らは黙り続けているのか?
それについて、親子関係における虐待から考えてみたい。
長年属していた組織の文化に慣れてしまうと、その組織が持っている悪い部分を変
えようという意志がなくなってしまう。
自分がそこにい続けることが良いことなのかどうかを判断する思考力も失ってしま
う。
すると、組織は社会的な常識や規範から外れていき、どんどんおかしくなっていくけれど、内部にいる人たちは違和感を持つことすら難しくなっていく。
芸能事務所で言えば、自分に大金を稼がせてくれる会社と契約しているなら、その会社がどんなに罪深いことを重ねても、自分から契約をうち切ることがない。
自分さえ儲かり続けていれば、自分を稼がせてくれる会社に対する批判はしなくなるわけだ。
自分の利益さえ守れるなら、犯罪の深刻さを考えることもなければ、被害者の痛みをいたわる言葉を発することもない。
それどころか、犯罪が発覚しても、経営トップの社長自身が警察に通報せず、社内で問題を処理しようとしてしまう。
それが、ジャニーズ問題の本質の一つだ。
もっとも、これは芸能界に限ったことではなく、学校や職場でも同じこと。
自分が働くことで利益が増える会社の経営者や社員に犯罪者がいても、内部通報制度は機能せず、警察が動いて初めて事件の詳細が明るみになるケースは、これまでミートホープ事件など、たくさんあった。
こうした組織の文化に対する慣れは、虐待が起こる親子関係にもある。
実は、第三者から見れば、明らかに虐待されていると思われる現実があっても、被害者の子どもがそう感じていないことは珍しくない。
幼い子どもは、自分が親から愛されていないことを認めるのがつらいので、どんなに不当な扱いを受けていても、親を悪くは言えないのだ。
しかし、成長とは、「べつに親から愛されなくてもいいや」と思えるようになることだ。
友達や恋人など、家の外にいる人間と一緒に生きていける自信を持つことで、親を捨てていいと気づくことから、人は大人になっていく。
そうすることで、親を親として見ずに、ただのおじさん、おばさんとして見ることがで
きるようになり、「はたしてこのおじさん、おばさんと自分は付き合いたいだろうか?」と自問し、つきあいたいと思えば、対等な友人関係になる場合もあれば、付き合いきれないので縁を切る人もいる。
そもそも、親は子どもを育てるという役割を果たす期間限定の人でしかないし、それは法律上の責任・義務にすぎないので、子どもが恩義を感じる必要はない。
これは、芸能事務所と未成年タレントの関係も同様だ。
事務所は未成年タレント(=商品)を育てるのがビジネスであり、タレントがそれを恩義に感じる必要はない。
しかし、毒親が子どもを虐待しても、「身内の恥だから家の外で言うな」と子どもを黙らせたり、あるいは「おまえのことが大事だから殴ったのよ」と涙ぐましく説得するのと
同じように、社員に性加害をした男が 2 人もいるとわかっても、東山社長は社内処分でクビにするだけで、警察に情報提供しなかった。
これらは、大人と子どもとの間に大きな権力の差があるからこそ起こる問題だ。
小中学生の頃にジャニーズジュニアとして事務所入りしたタレントにとって、事務所の言うことは絶対であり、逆らえば事務所を出ていくしかないので、何があっても耐えるしかない。
これは、毒親のいる家で暮らさなきゃいけないのと同じ環境だ。
契約を親がしている以上、子どもは黙って事務所に従うしかない。
その延長線上で性被害に遭っても、親にさえ相談できないことは、多くの被害申告者の証言で明らかになっている。
せめて、成長するにしたがって、事務所と距離を置くことを考えられる力を養えれば
いいが、それを難しくさせるのが、法律や常識よりも、組織の内部の論理や習慣を優先することに慣れてしまうことなのだ。
家の中でも、事務所の中でも、大人が子どもを自分の理想的な人間に育てたがるのは、大人のエゴにすぎない。
大人は平気で理想を押し付け、努力しろと迫るけれど、では子ども側から大人に対して「理想的な親になってくれ」とか、「子どもの僕が望む事務所に変わってくれ」と望んだところで、親や事務所は決して子どもの望む理想へと変わる努力をしない。
それが、悪の組織のやり口なのだ。
悪の組織では、人は成長しない。
いつまでも従順な子どものままだ。
だから、自分の所属先が犯罪を放置したり、被害者の痛みを思いやることがなくて
も、何も感じないようになってしまう。
そこで、アイドルグループ嵐の会社設立のあいさつ文を読んでみよう。
主体性とは、自分の意志や判断において、自ら責任を持って行動することだ。
では、1000 人規模の被害申告者がいるジャニー喜多川事件について、ノーコメント
を貫いてきたことも、嵐 5 人自身の主体性だったんだろうか?
そうだとしたら、嵐ファン以外の一般市民はドン引きしてしまうだろう。
自分たちの活躍で事務所に莫大な利益をもたらした嵐は、事務所に貢献してきたのに、なぜ事務所自身が事実を認めた犯罪について何も言わないのか?
世界中にファンがいる嵐がジャニーズ問題に黙り続けていることは、社会的責任が大きいし、とりわけニュースキャスターとしても仕事をしている櫻井翔の責任は、罪深いほど大きい。
このまま無言を続けるなら、嵐の 5 人は「まるで毒親に手なづけられた子ども」のように見えてしまう。
そうだとしたら、毒親に虐待されても、育ててもらっただけで恩義を感じて親を悪く言
えない子どもと同じなので、嵐のメンバーにはカウンセリングなどの心理的ケアが必要だ。
彼らには、ぜひ悪夢から目覚めてほしいと思う。
嵐はスタエンと契約したが、1000人以上に増えるだろう被害者の痛みについてコメ
ントできる自由がないなら、「スタエンから逃げてもいい」と言っておきたい。
親子関係を対等にするために、子どもが親を捨てるように、「タレントも支配されてきた自分の痛みに向き合ってみてもいいんだ」と伝えたい。
事務所に逆らえなかった背景に、未成年の頃からずっと、親などの大人からの期待に応えなければならなかった重圧があるなら、そのことを人前で公然と話してもいいと思う。
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