日本で子ども虐待として法的に認められているのは、身体的虐待・心理的虐待・ネグレクト(育児放棄)・性的虐待の4つだけだ。
しかし、現実には、経済的虐待(子どもの金や資産を一方的に奪う)・文化的虐待(宗教や政治思想などで洗脳して常識から逸脱させる)・教育虐待(子どもが耐えられないほどの学習を強制する)・ヤングケアラー(障害や病気を持つ家族のケアや育児・家事などを強制する)など、その深刻さの解決に十分に取り組まれていないタイプの虐待もある。
そもそも虐待は、法律では「親権の濫用」を意味する。
民法で決められた子育ての責任を果たすのが「親権」だが、その責任の範囲を超えて子どもを苦しめることが「濫用」に相当し、家庭裁判所で「虐待」とみなされるのだ。
ところが、子育ての責任を親権者(親)や親族が一般常識を味方につける形で親にとって都合よく解釈してしまうと、子どもが困ってしまうことがよくある。
その代表例が、児童福祉の世界ではほとんど語られていない「世襲的虐待」だ。
あなたは、以下のようなことを親に言われて苦しんだ経験は無いだろうか?
「先祖代々の土地がある。だから、おまえも農業をやれ」
「うちの家系は一子相伝の伝統芸能。おまえも一生芸人だ」
「先代が会社を作って大きくしたんだから継いでくれ」
「祖父の代から政治家だ。地盤を継いで議員になる運命だ」
「親は努力して病院を建てた。君が医者にならないと困る」
「この寺をおまえが継がなくなったら、檀家が困るんだぞ」
「うちの店の借金はおまえの代で完済できるようにしてる」
「代々続く老舗の旅館を、おまえの代で途絶えさせるのか」
「親の俺が一代で作った組織を、おまえは継がないのか」
「父親がヤクザなんだから、おまえが組を継ぐのは当然だ」
「家業を継がないなら勘当だ。この家の敷居をまたぐな」
「血筋はおまえしかいない。だから結婚相手も親が決める」
こうした親の声で、積極的に継ぐ気持ちもないのに仕方なく親の商売を継いだために人生の不全感に悩み続けたり、どう努力しても親のようには成功できずに苦しみ続けている大人は珍しくない。
そうした悩みや苦しみの結果、精神病になってしまったり、世間に理解されない孤独をこじらせて人間関係も難しくなったり、人生に意味を感じられずに希死念慮(自殺願望)に悩む人もいる。
世襲と世間の間で宙吊りになり、自分がしたいことができないストレスと不満を解消できないまま、いつまでも現状を変えられない自分の無能ぶりに対する自責をくりかえし、苦しんでしまうからだ。
幼少の頃から「親に資産があるなんてうらやましい」と言われて育ち、高校生になる頃には同級生や教師からも「将来の仕事に悩むことがなくていいな」と言われ、親の商売を継いだら世間からも「よっ、3代目!」とからかわれたり、「セレブは良いね」と皮肉を言われ、世間に理解してもらえないことは多々ある。
100年ほど昔なら、兄弟が7~8人でも珍しくないほど子どもが多かった。
だから、長男が世襲を嫌がれば、弟や妹などが跡取りにされることもあった(※弟や妹などにとって迷惑な話だが、「運命だ」と洗脳されて反抗することが難しかった)。
(厚労省ホームページより)
しかし、「子どもは1人もしくは2人」が既に当たり前になった現代では、子どもが世襲を断れば、先祖代々の商売や土地、建物、芸事、資産などが途絶え、家族で分かち合えないリスクが出てくる。
そうなると、世襲をめぐる親子間の争いは激化し、親は子どもに「おまえは恵まれた資産を他人に渡すのか」と詰め寄ったり、「おまえの代で価値ある伝統を途絶えさせるのか」と正論で説得にかかることもある。
そうした争いを避けたがる親は、子どもが幼いうちから代々続けてきた職業を好きになるように仕事に参加させたり、職場での親のカッコ良さを見せつけたり、世間から自分が信頼されているところをアピールすることもある。
こうなると、世間で20代の転職が流行っていようと、憲法に「職業選択の自由」や「個人として尊重される権利」(国家や力の強い者、多数者から何かの目的のための道具や手段、モノ扱いをされない権利)が書かれていようと、子どもは社会に出る前に、親から期待される職業以外の選択肢を模索することすら、ためらってしまうかもしれない。
職業を自由に選べず、家族のために個人が犠牲になることは、明確な憲法違反だ。
そうした不自由が子どもの頃から実質的に「強制」されてしまうことは、子ども虐待そのものといえないか?
では、「強制」とは具体的に何だろう。
以下のような言動に、心あたりは無いだろうか?
★幼い頃から親の仕事に最優先で付き合わされ、学校の勉強や友人との交友の時間、趣味で遊ぶ機会を制限させられた
★親には期待されない夢をもっていたのに、その努力には「金を出さない」「家ではさせない」などの妨害を受けた
★親の仕事に関係する勉強だけを徹底的に仕込まれ、それ以外の勉強をしたら「お小遣いを出さない」などの罰を受けた
★友人に「家業は継がない」と言っただけで何時間も説教を食らい、親に反抗する意思を徹底的に奪われた
★高校時代まで「先祖代々の仕事を継がないなら勘当する」と脅され、「従わないと進学費を出さない」と命じられた
★父が望む仕事以外に進みたくても、母も味方にならず、世襲するしか生きていく道がないと夢をあきらめさせられた
★親の望む進路に一定期間従っても、期間が過ぎたらべつの道で働ける資金を親が出す約束をしたのに、反故にされた
★子どもの頃から親の仕事人脈の大人を紹介され、親の望む仕事以外に働ける道がないかのように錯覚させられていた
★幼少期から親の仕事人脈の大人に「おまえが家の仕事を継がないと我々も困る」と言われ、縁切りを恐れさせられた
★親の仕事を手伝った時だけ小遣いを渡され、他のバイトは禁じられ、それが当たり前のようにグルーミングされてきた
★自分らしく働くことが大人になることなのに、親や世間からの期待を裏切ると罪悪感を感じるように育てられてきた
僕(今一生)は、以上のような「世襲的虐待」の被害当事者を取材し、朝日新聞SDGs ACTION!に書きたい。
匿名で取材を受けてみたい方は、下記までメールを。
conisshow@gmail.com