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『#明日はもっといい日になる』をもっと楽しめる基礎知識 #毒親育ち #毒親 #児童相談所 #児童福祉 #子育て #育児 #ドラマ #フジテレビ #映画 #子ども食堂 #子ども #保育 #教育



(※このテキストの動画版は、コチラ

 2025年7月にフジテレビは、月9ドラマをスタートさせた。
 それが、児童相談所を舞台にした『明日はもっと、いい日になる』だ。

 既に第1話と第2話が放送され、それはTVerでも見れる。
 ただし、Xで視聴者の感想を見ると、このドラマを理解できてない人が圧倒的に多いので、基礎知識を解説していきたい。

 そもそも、児童相談所とは何の目的で作られた役所か?

 児童福祉法第12条には、都道府県は、児童相談所を設置しなければならない」と書かれており、その設置の目的を厚労省は次のように説明している。


 わかりやすく言うなら、児童相談所は困っている子どもを助けると同時に、子どもの権利を守る役所だってこと。

 その児童相談所で働く職員には、児童福祉司、児童心理士、一時保護所職員などがいるが、いずれも地方自治体が雇った地方公務員だ。

 公務員は、法律に基づいて仕事をする。
 つまり、法律を越えた仕事はできないし、やってはいけない。

 『明日はもっと、いい日になる』というドラマは児童相談所を舞台にしている以上、そこで働く公務員は、法律に書かれていないことは職務上できない。

 だから、彼らの仕事はあくまでも法律上の職権に基づいてやっているのであって、基本的にはそれぞれの人柄やキャラで何かをしたり、言ったりしているわけではないのだ。

 しかし、どこまでが法律上の仕事で、どこからが個人的なキャラで選んだ言葉や行動なのかは、このドラマではテロップで説明されない。

 だから、仕事でやる職務と個人的なキャラを混同し、仕事でやっていることまで、「この人はやさしい人だ」と勘違いしてしまう視聴者が少なからずいて、ドラマ評を書いているプロのライターですら、職務と個人を区別できないまま感想を書いている。

 それを説明するために、どんな話なのかを、まだ見てない方にかいつまんで紹介しよう。

 第1話では、警察から女性が児童相談所へ出向し、児童福祉司の男性とタッグを組む。

 実は、虐待する親を逮捕したり、事件性の高い相談案件に対応するなど、迅速な情報共有をはかるため、児童相談所に現役警察官が出向することはある。

 児童相談所の職員はあくまでも子どもを守るために働いているので、親を犯罪の加害者扱いするのではなく、困っている子どもが安心して家庭に帰れるように、虐待しかねない親をカウンセリングしたり、説得するわけだ。

 それが、児相職員の仕事だから。

 ただし、ドラマでは、その仕事ぶりそのものに疑問を感じる内容だった。

 第1話で登場した親は、過労で倒れて入院するぐらい昼も夜も働きづめで、毎日3時間しか睡眠時間がとれないシングルマザーだった。

 それだけ多忙でも、彼女は、子どもに出す食事をいつも手作りして、自分の靴すら買えない貧困生活だった。
 そんなギリギリでストレスフルな暮らしの中で、彼女は小学生の息子をビンタしてしまう。

 そこで、主人公の児童福祉司が「完璧な親でなくていいんですよ」とアドバイスしたため、このシングルマザーはデリバリーのピザを頼んだり、自分用に新しいシューズを買った。

 でも、ちょっと待て。
 彼女が貧困に苦しんでいるのは、別居父=彼女の元旦那が養育費を払わずにいるからだ。

 その元旦那を探し、養育費を払うように指導するのが問題解決の本質的な仕事なのに、シングルマザーに宅配ピザやシューズを買わせてしまった。

 これは、シングルマザーを助けているようで、何も助けていない。
 気の持ちようで所得が増えるわけではないし、支出を増やせば、さらに労働時間を増やすしかなくなるからだ。

 こういう相談案件の場合、せめて視聴者に対して、「兵庫県明石市ではシングルマザーに養育費を市役所が先に渡し、役所が別居父から金を取り立てる制度がある」という情報を最後に紹介してもよかったのではないか?

 フジテレビの制作スタッフは、「どうせ視聴者はこの程度で感動する」と小ばかにしているのだ。

 実際、あのオチに疑問を抱かない視聴者が多く、「泣いた」だの、「感動した」だのとSNSに書いている。

 ちなみに、児童福祉司で10年以上も続けて勤務する人は3割程度で、離職率4割の過酷な職場であることはドラマの中でも語られている。

 それをふまえると、このドラマが視聴者に対して伝えたいことは、次の通り。

「視聴者のおまえが児童福祉の予算にも法制度にも無関心で、『児童相談所の予算を増やせ!』と主張する立候補者に選挙で投票しないから、児相の職員は人員不足で過労に悩み、子どもを守る仕事の中身も安っぽくなるし、問題解決の精度も甘いままなんだぜ」

 ただし、そういうメッセージが含まれていたとしても、親子関係や、親子と児相職員の関係の中に閉じているドラマでは、有権者である視聴者の子どもの人権に関する無関心ぶりを自覚させることは、できないだろう。

 日本は歴史的に子どもの人権に関心がない「子ども差別の国」なので、脚本家もプロデューサも、制作したフジテレビの月9の担当社員も、子どもの人権を中心にしたドラマを作れないのだ。

 実際、第2話も安っぽいオチだった。

 週6日も中学受験塾に通っている小学生の女の子は、受験のために好きなピアノをやめさせられたことを納得できなかった。

 だから、塾のない木曜日は、隣町にある商業施設に通い、そこにあるピアノを弾いていた。
 お金のない小学生なので、そこに通うのに既に3度も無賃乗車をしていた。

 自分の部屋にあるピアノは、受験勉強のために親に禁じられ、閉じられていたからだ。
 しかし、その不満を口に出せない事情が、その子にはあった。

 パパとママがいつも激しく口論していて、ピアノを弾きたいなんて言い出せる雰囲気じゃなかったからだ。

 そこで、主人公の児童福祉司はこの少女の両親を児相に呼び出し、子どもの前で夫婦が激しく口げんかするのは「面前DV」であり、子どもの心を傷つける心理的虐待になりかねないことを指摘し、最後にこう説得する。

「大切なのは、口論をしないことではなく、口論の仕方だと思います。ともにその方法を模索していきましょう」

 でも、この子の父親はこんな優等生的なセリフを児相の職員の前で言った。

「次また何かありましたら、二人で解決しようとはせず、第三者を入れたいと思います」

 これは、児相職員という大人の前で、夫婦ケンカという世間体の悪い行いを指摘されたので、優等生的な返事をしただけだ。

 そういう親に必要なのは、自分自身の怒りを自分でコントロールできるようになるためのカウンセリングであり、アンガーマネジメントでるはずだ。

 そういう親の行動変容がない限り、夫婦間での口論は依存症のように簡単には治せないままだろう。

 ラストで少女の部屋のピアノが開かれているシーンがあったが、そもそも児相に呼び出された親が、児童福祉司の言葉を受けただけて改心するだろうか?

 娘を週6日も中学受験塾に通わせる、ほとんど教育虐待といっていい生活は変わらない。

 この第2話では、少女が何のために中学受験をしたいのかは描かれていないし、音楽大学を目指すわけでもなさそうなので、少女がピアノにこだわる理由もぼやけている。

 児童心理士の女性が少女に絵をかかせて、この子が「自己犠牲」に悩んでいることを発見するシーンがある。

 つまり、いつも口論している両親の前では自分の悩みをうちあけることができないけれど、
「自分さえガマンすればいい」と少女が苦しんでいることを突き止めたのだ。

 それなら、なおのこと、この両親が児相職員の前で優等生的にふるまうシーンが恐ろしく見えてくる。

 結局、この親は自分たちの口論が子どもの気持ちをどれだけ封じ込めてしまっているかの深刻さを受け止めてはいないのだ。 

 そして、話の途中でも「おや?」と首をかしげるシーンがあった。

 無賃乗車を続ける少女に、警察から出向してきた女性がこう言ったのだ。

「もし次に無賃乗車したら、もう取り返しがつかないことになるんです」

 このセリフを警察官が言うなんて、ありえない。
 警察官なら、キセルの罰金が1~2万円程度だと知ってるし、そもそも14歳未満は逮捕されないことも知っているからだ。

 このドラマの警察監修には、僕の友人の元警察官・大澤良州(おおさわ・よしくに)さんが参加している。

 おそらくフジテレビが監修スタッフの指摘を無視したか、「架空のドラマだからこの程度はスルーする」という方針なのだろう。


 もっとも、このドラマの児童相談所の監修には、実在する葛飾区の児童相談所も関わっているため、児相にとって不都合なことは「ないこと」にされている。

 たとえば、このドラマで児童相談所の中にある一時保護所を見た人は、とても明るく、やさしい保育士がいて、小さな子どもたちが自由に遊べる楽しそうなところだと感じただろう。

 しかし、全国の多くの一時保護所は、そんな雰囲気とはまるで逆だ。

 入る時にスマホなどの私物は全部取り上げられるし、子どもたちは食事中も勉強中も私語厳禁だし、私服は着れないし、学校には通えなくなるし、入浴は15分と時間が決められているほど、保護というより管理が優先されている。

 だから、第2話で保護した子どもを地元の祭りに連れて行くなんて、ありえない。

 手を離した瞬間に、人波にまぎれて失踪してしまえば、1人あたり常に40件の相談案件を抱えて多忙な職員にとって、仕事を増やすだけだから。

 そのように一時保護所は、職員によるマニュアル管理が徹底されている。

 だから、一時保護所に入ったことのある子どもからは「まるで刑務所だ」「二度と入りたくない」「入るぐらいなら家にいて傷つけられる方がマシ」という声が上がっていて、10年以上前から多くの新聞記事で報道されてきた。

 実際、僕も「一時保護所から脱走してきた」とメールや電話で子ども自身から報告を受けることが、これまでにたびたびあった。

 一時保護所にいる子どもたちはドラマのように明るくはないし、子どもを守るために作られた児相なのに、子どもの人権を守っていないのだ。

 もちろん、ここ数年に新しく建てられた児相だと、個室が与えられたり、自由が与えられたりするなどの改善は認められるが、そんな一時保護所は全国ではまだ超レアケースにすぎない。

 全国放送のこのドラマの制作陣は、子どもの人権を守らない多くの児童相談所の現実をスルーし、児相の良い面だけを誇張して見せている。

 このように、都合の悪いことを隠す表現を「ホワイトウォッシュ」という。

 このドラマは、現実にはまだない「異世界の児相」を描いてしまっているため、児相の現場を知る人たちは、違和感を覚えるわけだ。

 それに気づかず、「泣いた」とか「感動した」とSNSに書いてしまった人は、終戦直後の広島を舞台にしたドラマで被爆者が1人もいないシーンを見ても、おかしいと気づかないのかもしれない。

 そうだとしたら、僕の想像以上に、日本人の読解力は劣化しているのかもしれない。

 ドラマといっても、現実にある役所である児童相談所を舞台にしている以上、あまりにも現実からかけ離れた表現をすれば、理想すら空虚なものになってしまうのだ。

 では、なぜこんな「異世界の児相」を描いて、児相の現実を知らない視聴者をミスリードし、子どもの涙で視聴者を釣り上げるような感動ポルノになったのか?

 フジテレビは、自社の女性社員に中居正広の性接待させたが、この人権侵害に相当するこの業務命令に対して、社員は誰一人とめなかった。

 社員自身に人権意識が低いことが露呈したわけだが、それゆえにスポンサーが離れて莫大な利益を失ったフジテレビは、今回の月9ドラマのテーマを「ハートフルヒューマンドラマ」として企画した。

 おかげでスポンサー企業は戻ってきたが、子どもに関する深刻な現実を、「ハートフルヒューマンドラマ」として良い話にしようというねらいには、そもそも無理があったのだ。

 「ハートフルヒューマンドラマ」を目指したなら、親にひどく傷つけられても必死に生き残ろうとする未成年を主人公にして、どれだけ児童相談所や児童福祉法などの法制度が役立たないかをあぶりだした方が、主人公のたくましさや民間人のやさしさを描けたのではないか?

 しかし、中居問題の第三者委員会による調査報告で、社員の人権意識の低さを指摘されたフジテレビの社員が、仕事における人権意識の低さを改めるには、まだ長い時間がかかるだろう。

 テレビドラマは放送前に必ず社内で試写会をやるが、第1話も第2話も現実からあまりにかけ離れていることを誰も指摘できなかった現実を見ると、子どもの人権を軽んじているのは明らかだ。

 この問題は、ドラマが放送を重ねるごとに、児童福祉にくわしい新聞記者や、児童福祉の専門家の間で、遅かれ早かれ話題になるはずだ。

 現実の良いとこどりでドラマを作っても、そっれは現実から離れすぎてしまい、多くの誤解を視聴者に与えるからだ。

 全国向けの放送番組には、誤解や偏見を産まないようにする社会的責任と配慮が必要なのだ。

 もちろん、「これは未来の火星の話です」と最初から設定をSFにしておけば問題はないが、このドラマは実在の児童相談所が監修に関わっている以上、たとえドラマであっても、現実の法律と予算に基づいてしか仕事ができないはずである。

 刑事ドラマで銃を乱射してたら、誰もが「このドラマはアクションを描きたいだけなんだな」と納得するが、児相のドラマで保護した子どもを地元の祭りに連れ出したら、職員が勇気を出して管理マニュアルを破ったことさえ視聴者は気づかないだろう。

 ちなみに僕は、週刊フジテレビ批評BPOに既に苦情のメールを送ったが、子どもの人権については放送業界だけでなく、日本社会全体で関心が薄いので、このドラマの中身が改善される見込みはないだろう。

 せめて途中からでも、元・児相職員の飯島章太さんをこのドラマの監修スタッフに加えてほしい。

 飯島さんは、一時保護所で働きながら、その労働環境の過酷ぶりに耐えかねてうつ病になり、退職を余儀なくされたため、千葉県を相手取って訴訟を起こした。

 あるいは、ドラマの中で、後から出向してくる新キャラとして、飯島さんをモデルにした登場人物を追加してほしい。

 児相の職員がみんな「良い人」で、「どんな親子も職員に相談すれば即解決!」といった魔法使いのように描くのだけはやめてほしい。

 むしろ、優等生的な言葉を吐いた親に対して、親が帰った後で部屋に残った児童福祉司が、「あの親、また口論しちゃうんだろうな」とため息をつくようなシーンを入れておけばよかったのに。

 人間、過酷な労働環境を強いられる仕組みの中でガマンだけさせられてしまえば、子どもを守りたくてもできなくなる。

 変えるべきは、子どもも大人も人権が守られる仕組みであり、その予算と法制度は、有権者の大人が変えようと声を上げない限り、変わることがない。

 だからこそドラマは、視聴者にハッキリと伝えてほしい。

「あんたが選挙で『児童福祉の予算を増やす』という政策を掲げてない立候補者に投票するから、いつまでも児相の職員の忙しさは解消できず、その結果、子どもの人権が児相の中ですら守られないままなんだよ」と。

 日本人は、民主主義が何かもわかってないし、法律で自分の行動が制限されていることにも鈍感だ。

 だから、子育てが大変になるのも、「父母2人だけに子育ての全責任をかぶらせる親権制度があるからだ」と気づく人が少ないし、役人がまともな仕事ができないのも「有権者の自分が予算を増やせと国会議員に要求しなかったからだ」と反省することもない。

 そもそも子どもが親に傷つけられるのは、子どもに親を変える権利がないからだ。

 子どもが自分に危害を加える親をいつでもチェンジできる権利さえ法律で守られていれば、児童相談所の職員を増やす必要もなくなり、一時保護所も不要になる。

 子どもに当たり前の人権として、親を取り換える権利を与えてこなかったことに、多くの大人が思い当ってほしい。

 そこで、あなたに尋ねたい。

 あなたは、あなたに知識がないのを見越して、泣かせるのに都合の良い設定を作って子どもの涙で釣ろうとするお涙頂戴のファンタジーのドラマを見たいか?

 それとも、現実の深刻さをふまえつつも、現実的に解決できる具体的な方法や、現在の予算や法制度ではどうしても解決できない限界に直面しながらも、解決に挑戦していく人間の愛と勇気の人間ドラマを見たいか?

 このドラマ『明日はもっと、いい日になる』を既に見た方で、「もっとこうした方がいい」という意見をお持ちの方は、ぜひ僕のこの動画チャンネルの生配信のチャット欄か、コメント欄に書いてみてほしい。

 たとえば…

●最後のエンドロールに「このドラマはあくまでも空想であり、現実にはまだ多くの児童相談所では子どもの人権侵害が行われています」という注意書きを毎度出しておく

●ドラマの最終回に主人公が「もうこんな過労とストレスがたまるブラックな職場では働けない!」とブチ切れて退職するなら、「離職率が4割」という第1話のセリフが伏線だったとわかるので、そうしてほしい

●公務員の仕事の範囲がわかるように、根拠法でない選択を登場人物がした時は、せめて根拠法についてのセリフを足すか、テロップによる説明がほしい

●ドラマはドラマで現実とは違うことをハッキリさせるために、ドラマの最終回の放送の後に、児童相談所の闇を掘り下げたドキュメンタリー番組を放送してほしい

 あなたの意見も、以下の動画のチャット欄やコメント欄に書いてみてほしい




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