大金さえ払えば、深刻な問題を起こしても「解決済み」になり、また大金を稼ぐ仕事を続けられる。
そんな現実がまかり通るなら、この社会は女性や子どもなどの弱者にとって、とても生きにくい場所になってしまう。
それを心配させたのが、元ジャニーズ事務所のアイドルグループSMAPのメンバーだった中居正広の謝罪コメントだ。
中居正広は、女性に何らかの被害を与えるトラブルを起こし、9000万円を払って示談したと雑誌で報道された。
このトラブルの内容が何なのかについては、まだ詳しい報道が出ていない。
だが、9000万円という大金を払う必要があったことから逆算して、人々の想像を超えるような深刻なトラブルだったことが推測される。
深刻さについて理解したのは、テレビ局もスポンサー企業も同じだ。
1月10日時点で、中居正広がレギュラー出演していた日テレ・TBS・フジテレビ・ニッポン放送のすべての番組が差し替えや放送中止にし、それらのスポンサーだったソフトバンクやタイミーは、中居正広の出演CM動画を削除した。
しかし、被害を与えた中居正広本人は、自分の経営する会社「のんびりなかい」の公式サイトで、次のようにコメントを出した。
「トラブルがあったことは事実です。
そして、双⽅の代理⼈を通じて⽰談が成⽴し、解決していることも事実です。(中略)
⽰談が成⽴したことにより、今後の芸能活動についても⽀障なく続けられることになりました」
示談とは、当事者どうしによる民事事件の解決にすぎない。
女性とのトラブルが犯罪に相当する内容であれば、今後、警察が捜査すれば、刑事事件に発展する可能性が残っている。
しかも、中居正広本人が、「このトラブルについては、当事者以外の者の関与といった事実はございません」と明言していることから、完全に彼自身の意思で起こしたトラブルだと認めている。
本当に今回の9000万円トラブルにフジテレビの社員がまったく関係していないという事実確認が既に終わっているなら、記者会見を開いて、番組を突然休止させた理由やスポンサーが離れた事情を説明するのが、視聴者を安心させる最も良い対策ではないか?
少なくとも、スポンサー企業から入る広告収入によってテレビ局やラジオ局は利益を得ているのだから、中居正広の騒動で失った莫大な利益を取り戻すために、事実ではないことを書いた雑誌を発行する出版社に対して損害賠償の裁判をおこしてもいいはずだ。
しかし、裁判をすれば、何か困ることがあるのか、中居の出演する番組の放送をとりやめたフジテレビ・日テレ・TBSは、裁判に関する声明を出していない。
まるで、視聴者に「早く忘れてくれ」と言わんばかりに、中居正広だけを切り捨てて事態を収拾しようとしている。
これは、どういうことなのか?
おそらく、中居とテレビ局の双方に、社会性が足りないのだ。
言い換えるなら、自分を稼がせてくれる相手さえ守れば、世間からどう思われようとかまわないという構えだ。
テレビ局やラジオ局にとって、稼がせてくれる相手はスポンサー企業だ。
スポンサー企業は、自分の会社の商品の宣伝に女性スキャンダルで有名になったタレントを使おうとは思わない。
だから、スポンサーに嫌われたタレントは、番組にもCMにも出られなくなる。
一方、中居正広にとって稼がせてくれる相手はテレビ局だ。
だから、どんなトラブルがあっても、「⽰談が成⽴したことにより、今後の芸能活動についても⽀障なく続けられることになりました」とハッキリ言ってしまえるのだ。
しかし、当事者どうしで解決したように考えても、世間には通らない。
まず、テレビ局側は、視聴者が納得できる番組を作らない限り、視聴率は低迷し、スポンサー企業が離れてしまい、利益を失ってしまう。
しかも、放送ビジネスは、電波法や放送法に従って総務省が免許を認可する事業だ。
放送法は、「真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保する」と定められており、「放送を公共の福祉に適合するように規律する」のを目的に作られている。
もしフジテレビが放送法を無視して、調査したはずの事実を把握しておきながら、中居案件に関する報道をしない場合、国会で野党議員が総務大臣に違法か合法かの判断を求める可能性がある。
その前に総務省は、第三者機関による事実検証をしたなら番組で報道するよう、フジテレビに通達するかもしれない。
もし番組にしない場合、放送事業の免許取り下げを示唆した行政指導をする可能性もある。
フジテレビ自身が番組基準の基本方針として、「基本的人権の尊重など民主主義の原則を貫き、公平で平和な自由社会を守ることに努める」と公式サイトで明言している以上、国民が総務省にクレームを入れたり、BPOに対して苦情のメールが集まれば、放送法を無視するわけにはいかなくなるはずだ(つまり、民度が問われる)。
もちろん、国家によるメディア規制は、なるだけ少ない方がいい。表現の自由が守られなくなる恐れがあるからだ。
だからこそフジテレビには、中居正広の騒動に関する事実を調査し、視聴者が納得できるだけの調査内容を公表する社会的責任がある。
放送法は、健全な民主主義の発達に資するよう、表現の自由に従って公共の福祉に適合することを規定している。
大金さえ払えば、女性トラブルを「解決済み」にできて、また大金を稼ぐ仕事を続けられる。
そんな現実を許してしまう放送ビジネスが、国に認められるようでは、健全な民主主義は育たず、そんな社会では弱者ほど生きにくくなる。
大金さえ持っていれば、どんな悪いことも取り消せるなんて、おそろしいと思わないか?
当事者間で解決済みの案件でも、それを許さない社会の仕組みがなければ、金も権力も知名度もない人ほど人権を奪われる。
それでいいの?
ジャニーズ性加害問題では、金も権力も知名度もない子どもたちが被害者になった。
彼らは、何十年も無視されてきた。
子どもを守らない社会は、金も権力も知名度もない人から人権を奪っていいとする社会だ。
そんな社会のままでいいの?
中居正広のトラブルは、そういう問いかけを僕らに投げかけている。
一番力の弱い子どもの人権を平気で奪えるような現実を変えたいから、僕は中居正広の今回の問題について語ろうと思ったのだ。
子どもの頃から、自分の人権が強い立場の人間に奪われたり、金のある奴しか救われないと教えられたりするような教育環境は、変えなきゃだめだ。
そのためには、芸能の仕事こそ子ども福祉の視点に立って、不当な命令に対して拒否できる権利を子どもに与えないと、同じ悲劇が大人になっても繰り返されてしまう。
もっとも、弱者の人権を勘違いし、加害者側にとって都合の良い文脈をまき散らす人もいる。
それは、今回の中居正広のスキャンダルに関して「被害者のことを考えているのか?」と指摘しながら、「当事者は黙っているのに、無関係の人々が勝手にさわいでいるだけ」と書いている人がいることだ。
その記事はあまりに醜いので引用しないが、「被害者女性は騒動を望んでいない」と決めつけていた。
守秘義務で話せないことがあるから、報道機関が事実を調査し、明らかにすべきなのに。
どんな被害の当事者も 立場と気持ちはそれぞれ異なる。
騒動に巻き込まれたくないから沈黙してる人もいれば、守秘義務があるから自分以外の誰かに事実の公開を託す人もいる。
同じ被害を受けたとしても、被害当事者の気持ちはそれぞれ違うことを前提にしないと、身勝手な正義で事実が隠され、同じ被害がまた起こることになりかねない。
実際、中居正広が女性トラブルで報道されたのは、今回が初めてではないのだ。
中居正広 は 28歳の時も女性トラブルを起こしていたと報道されている。
ジャニーズ事務所によって、社会常識よりファンを優先して大事にする教育が旧ジャニ系アイドルに徹底されていたら、スタエン契約アイドルのスキャンダルも、これから雑誌に掘り起こされるだろう。
中居正広が、後輩たちにまっとうな人間の見本を示すなら、大金を得る仕事に復帰するのではなく、きっぱりと引退を表明し、消えていく方がいい。
当事者間で解決済みでも、9000万円を払わないと解決できないほど、とてつもなく深刻な被害を与えた事実は消えないのだから。
では、あなたは、今後、この中居正広トラブルがどのような展開を迎えたら、納得するだろうか?