有名人に対する報道被害は、これまでもあったが、有名人ではないほとんどの人は他人事だと思ってしまうだろう。
しかし、いつあなたにも報道被害が起こっても、おかしくない。
なので、雑誌記者出身で、今は本を書いている僕としては、雑誌記事の作り方と、報道被害に対処する基礎的な知識を共有したい。
報道被害には、ウソの報道がされた後の問題と、報道されなかったけれど報道される前の取材時点で被害を受けた場合の2種類がある。
今回は、後者の報道されなかったけれど、取材時点で被害を受けた場合について、ケーススタディを試みよう。
実は今月、東京都議会議員のさとうさおりさんが、週刊文春から取材を打診された。
いきなり文春の女性記者から路上で声をかけられ、「さとう議員は経歴詐称をしている。以前に雇われていた事務所では正社員ではなかった」という疑惑をつきつけられたのだ。
身に覚えがなかったさとう議員は、その場で否定し、抗議する動画も公開した。
だが、その後、文春の女性記者は、さとう議員が渡した名刺にあるメールアドレスへ回答を求めるメールを送ってきた。
そこで、さとう議員は「生配信なら答えます」と返信したところ、文春から返事がないので、さとう議員自ら文春の編集部へ電話で問い合わせた。
ところが、電話を受けた文春の男性社員の返事はのらりくらりで、結果的に10月15日の時点で文春に記事が出ることはなかった。
この取材における文春の問題は、以下の3つ。
① 疑惑となる証拠を1つも示さないまま、勝手に疑惑だと決めつけてコメントを取ろうとした
② 文春側の記事公開の〆切の都合を一方的につきつけて、3連休でも多忙な人に証言を求めた
③ 取材される側のさとう議員からの問い合わせに対して、文春側は責任者が応じる誠意を見せなかった
以上の3点以外にも、報道被害はある。
文春が記事にするかもしれないという案件は、さとう議員の家族や友人、支持者、都民などが心配されるのに十分深刻な被害だからだ。
さて、こうした不当な取材に対して、どう対応すればいいのか?
そこで、知っておいてほしいのは、取材する記者には、何の対処もできないということだ。
記者には、社内の正社員記者と、社外のフリーランスの記者と2種類いる。
社員なら上司に従うしかできないし、フリーの記者なら編集部に従うしかない。
なぜなら、雑誌の記事は、そのメディア企業に属する編集権によって公表されるからだ。
編集権とは、記者が書いた原稿やカメラマンの写真の内容を、メディア企業が最終的に編集できる権利のこと。
だから、記者が取材して書いた内容を、出版社の社員編集者が勝手に内容や文脈を書き換えたところで、出版社は「報道の自由」を主張できる。
この編集権を実際に行使できるのは、雑誌では社員の編集長だ。
テレビ局なら、カメラマンが撮影してきた映像の編集権を持つのは、番組のディレクターになる。
だから、取材した記者個人の問題は、メディアには存在しない。
それを発表させた出版社やテレビ局にのみ、編集権がある以上、納得のいかない内容で記事や番組が公開された場合、記者はそのメディア企業とつき合わなくなるだけだ。
記者自身が問題を問われるのは、自分の名前で本を書いた時の著作権上の表現のみだ。
さとう議員の報道被害の場合、週刊文春に問い合わせるなら、編集長に会いに行くしか方法がない。
だが、現在の文春の編集長である竹田聖(たけだ・さとし)は、顔はメディアに一切出していない。
もちろん、記者は顔や名前が一般に知られない方が取材しやすい。
相手が有名人なら、取材される側は話を盛ったり、萎縮して話せなくなるからだ。
あなたも、突然田原総一郎のような有名ジャーナリストが現れて質問されたら、言葉に詰まるだろう。
それに、反社の組織や政治家、カルト宗教団体、犯罪者などを取材する場合、記事を書いて報復されるのは怖いから、顔と名前を隠す記者も少なくない。
だから、取材する側が身元を隠したい気持ちもわかる。
だからといって、報道の責任者である編集長が顔を隠し、取材した相手からの問い合わせからも逃げるなら、これは端的にアンフェアだし、証拠もないのに疑惑をでっちあげたなら、名誉棄損に相当する。
ところが、週刊文春の場合、たとえウソの報道をして裁判で賠償金を払ったとしても、雑誌の売り上げが増えれば、利益の方が大きくなる。
だから文春は、これまで何度も裁判で負けても、ひるむことなく取材を続け、記事を発表してきた。
しかし、さとう議員の場合、竹田編集長が逃げ続けている現実を見ると、「利益になれば取材される側が傷ついてもかまわない」という居直りをしているようだ。
そこで考えてみてほしい。
万が一、文春がウソの報道をすれば、その内容は他の雑誌やテレビ、ラジオ、新聞、webメディアも取り上げるようになり、メディアスクラムとして1個人を叩く文脈と空気が作られてしまうのだ。
恐ろしくないだろうか?
政治家や芸能人、人気YouTuberなどのインフルエンサーには、ファンが多いため、記事を出せば、読んでくれる人や買ってくれる人も多い。
だから、雑誌の企画として、スキャンダル記事が商品になるのだ。
そうした有名人は、有名になるしか仕事が成り立たないから、顔と名前を出すことのリスクを覚悟している。
一方、編集権を行使できる雑誌編集長は、記者でもないのに顔を出さず、リスク回避を徹底している。
文春の竹田編集長は、文春の影響力に比べて、あまりにも自分の責任を矮小化して、逃げ回っている。
記事によって傷つくのは、取材される側の有名人だけでなく、有名人の家族や友人など大勢の読者を含むのに、竹田編集長は自分だけは安全圏で仕事をしているわけだ。
これは、有名人だけが苦しむ話ではない。
雑誌は、有名人をねらい打ちするために、有名人の周辺の人脈から取材を始める。
これまでも、子どもの頃の映像や卒業写真が引用された記事を読んだことがあるだろう。
それは、有名人の知人が提供したものだ。
取材記者は、有名人の友人や知人からネガティブな証言やタレコミを見つければ、それを「 」(カッコ付き)の活字として紹介する。
本当は軽い冗談のつもりで言ったはずの内容が、うすいグレーのネガティブコメントであっても、1個1個増えていけば、どんどん黒に見えてくる。
だから、あなたが政治家や芸能人、インフルエンサーの知人・友人として取材を受けるなら、あなたの意図しないところでネガティブなコメントの掲載された記事が蓄積され、有名人を追い込んでいくことになるのだ。
おそろしいことに、雑誌業界では、有名人を持ち上げる記事を書くことで知名度をアップさせ、良いイメージをつけて読者を増やしたところで、次は必ずおとしめる記事を書く。
有名人の知名度を高めることで、ほめても、けなしても、雑誌の読者を増やして利益を得ようとするわけだ。
だから、噂レベルの記事や番組の内容に乗っかって、SNSで反応コメントをするのは避けた方がいい。
証拠もない記事について憶測コメントをSNSに垂れ流せば、そのコメントを拾って憶測を重ねる記事が量産されるだけだからだ。
当然、噂レベルの記事に反応しない方がいいし、もし取材を受けても、その記者に対する信頼を担保できないうちは、取材に応じない方がいい。
もちろん、さとう議員のように、メディア企業との電話のやりとりを生配信で公開するのも悪くないが、できれば弁護士と相談の上、記者ではなく、編集長との面会をするのが最優先だろう。
その際、音声の録音だけでもいいから、必ずメディア企業との話し合いの内容を記録しておくのがベターだ。
大事なのは、たとえ報道されなかったにせよ、あらぬ疑いをかけられたこと自体が、それに対処する自分にとっては、大事な時間や尊厳を奪われた被害だと自覚することだから。
しかし、残念ながら、前述したように日本のメディアは劣化を続けている。
売れれば誰かを傷つけてもいいという居直りをしてしまう雑誌編集長も存在するのだ。
それは、メディア企業として利益を保つ新たなビジネスモデルを開発できない経営トップの問題でもある。
さとう議員の報道被害の場合、伊東市や前橋市などで女性市長のスキャンダルが報じられたので、東京でも女性都議にスキャンダルはないかと、文春の女性記者は探したのだろう。
「週刊文春は記者や編集者が毎週会議で企画を5本提案しないといけない」そうだから、若い社員記者の場合、竹田編集長自身が言うように「人に聞くしかない」。
そうなると、さとう議員と同じように、証拠もないのに勝手に疑惑をかける報道被害は、今後も続くだろう。
それでも、さとう議員から逃げ続けている文春の竹田編集長は、何の反省もせず仕事を続ける恐れがある。
だとすれば、読者のあなたは、どんな内容を文春に期待するだろうか?
ちなみに僕は、自民と立民が味方にしたがっている日本維新の会の不祥事をもっとあぶりだしてほしいと思う。
僕はそれを動画でまとめたが、毎週5本も新たな企画を出すなら、いくらでも出るネタだろう。
あなたなら、どんなことを文春にすっぱぬいてほしいだろうか?
政治家のスキャンダル? 新たなジャニーズ問題? それとも文春による報道被害?
どんなことも、売れるなら何でもタブーなしでやる文春なので、ぜひ、以下の動画でコメントしてほしい。
★11月8日は、八王子の講演へ
★11月15日は、子ども虐待防止策イベントへ