Breaking News
recent

■ネット署名「児童虐待八策」への疑問、続々!

 5歳女児の虐待死を受けて、「児童虐待八策」へのネット署名が10万人を越えた。
 もっとも、八策の内容を見て、行政職あるいは行政の現場を知っている人たちから、次々と疑問の声が上がっている。

 そこで、togetterまとめの児童虐待八策への疑問 ~警察・児相の全件共有で子ども虐待を防止できる?でさまざまなネット民の疑問を集約してみた。
 その中でも注目しておきたいのは、以下の2つの記事だ。

いま、虐待死をなくすために我々が向き合うべきこと
 ――児童相談所と警察との情報共有を強めることは、
 子どもを救う切り札になるのか
 山岸倫子 / ソーシャルワーカー

元公務員、「児童虐待八策」の欺瞞を斬る
 尾野里梨 / 10年以上も自治体で働いた元・地方公務員

 いずれも、行政の現場を知っている人材だ。
 児童虐待八策には、行政で働く人たちの事情がふまえられていない。
 そこで、日本人が意外とわかってない基礎知識を書いておこう。

◎児相を含む役所は、政治家が議会で予算をつけないと機能しない
◎政治家に市民が「予算を増やせ」と迫らない限り、予算はつかない
◎財源不足の自治体と国は、新規の予算を増やしにくい
◎政治家は票にならない未成年のためには動かない

 行政(お役所)で働く人は、法的根拠と予算がなければ動けないのだ。
 それは、警察も、児童相談所も、学校も、養護施設も同じ。
 つまり、子ども虐待を防止したい旨を行政に求めるなら、防止策を議会にはかり、政治家による議決によって予算をつけてもらう必要がある。

 そうでなければ、警察と児相の全件共有は、端的に情報共有するという仕事が増えるだけで、ただでさえ過労死寸前で働いている児相の職員を苦境に追いつめ、相談ごとの解決精度を落とすことにもなりかねない。

 ところで、この国の児童相談所へ寄せられる相談対応の件数をご存知だろうか?



 年間1000件レベルだった相談件数は、26年間で約120倍にまで増えている。
 では、予算も120倍になっただろうか?
 なっていない。
 120倍なんて莫大な予算を、これまでどんな政治家もつけてこなかった。

 だから、児童相談所では1日あたりの保護人数が増え続け、定員のある保護施設では平均在所日数も増やす他になく、全国の約2割の保護施設は既に定員オーバーでも保護せざるを得なくなっている。



 では、予算を増やせるのか?
 予算=あなたが納める税金だ。
 借金と増税でしか財政をやりくりできない国会議員たちは、前述した児童相談所の現状に見合うだけの大規模な予算を割いてくれるだろうか?

 おそらく無理だ。
 これまでずっとつけてこなかった予算をつけるには、増税するか、軍事費や五輪開催費、地域活性などの他の予算をわずかでも縮小させてひねり出す以外にない。
 だが、既得権益にずっとあぐらをかいてきた人たちが、有権者でもない未成年のために、やすやすと既得権益を手放すだろうか?

 そして、残念なことに、この国には子どもの人権を法的に保証するという文化も歴史もない。
 そうなると、虐待防止策に予算を増やせるだけの根拠がどこにもなくなる。
 主権者である国民=有権者が政治家を動かせるだけの論理も戦略も破綻しているのに、満足な予算がつけられると期待するのは、あまりにもむなしい。

 政治家の誰もが思わず大規模な予算をつけたくなるような、よほど画期的な予算割当の仕組みが「児童虐待八策」に描かれているなら別だが、その内容は「青年の主張」の域を出ず、子どもの人権を度外視していることにも無自覚だ。
 無自覚というより、無関心なのだろう。

 関心があるなら、これまで動かなかった政治家が思わず動きたくなる仕組みを考えたはずだし、「べき論」では予算配分はそうそう変わらない過酷な現実に向き合う覚悟もできたはず。
 いずれにせよ、制度改革をしないまま予算増を求めても、虐待防止策としての有効性は担保できず、子どもの人権を大人が無視して進んでいく構図は変わらない。
 そこで、制度自体が子どもの人権を侵害している事実をひもといてみよう。


★子ども側のニーズを聞かなければ、子どもに信頼されない

 あなたが今、5歳の子どもだったとする。
 そして毎日、両親に虐待され続けている。
 殴られたり、食事を与えられなかったり、煙たがられるまなざしを向けられている。
 もう、限界だ。

 でも、抵抗すれば、今度は死んでしまうぐらい痛く蹴られるかもしれない。
 怖い。本当に怖い。
 「ごめんなさい。私が悪いんです。何でもあなたの言うとおりにします」
 そんな奴隷の構えを見せれば、一時的には親の満足した顔にありつける。

 お父さんが見ているTV画面には、どこかの親子が仲良く遊んでいる映像。
 隣の家からは、お友達の笑い声や、家族団らんの楽しげな声が聞こえてくる。
 「ああ、隣の家に行きたい。そうすれば殴られないで済むのにな」と思う。
 でも、そんなささやかな望みも叶わない。

 隣の家の人がかくまってくれたら、その家の人が逮捕される恐れがある。
 親権者と児童相談所以外には、未成年を保護できる権利がないから。
 ご近所だからそう外れのない現実認識をもっていても、児相へ通告するには勇気がいるし、昨日までにこやかに挨拶していたお隣さんの「虐待」を警察へ密告のように電話するなんて、本当に良い仕組みだろうか?

 たとえ隣の家の人が児相へ通告しても、今度は誰かわからない大人に連れられ、児童相談所の一時保護施設に入れられてしまう。
 一時保護の施設には、万引きなどの犯罪で保護されてきた子もいれば、定員オーバーでイライラしてる子もいて、いじめもあれば、脱走してしまう子もいる。

 なぜ大人は離婚できるのに、子どもは一律に「判断能力がない」とされ、知らない人ばかりのハコモノに閉じ込められ、親権の一時停止もなかなかしてもらえずに、虐待する親が待つ家に帰されたり、養護施設へ送られたり、里親の元へ行くという選択肢しか与えられないの?
 しかも、里親になれる条件がうるさくて、なかなか里親は地元で増えてくれない。
 大阪ではLGBTも里親になれるのに、東京ではなれない。
 たとえ里親の条件を満たしても、行政のマッチングの条件は明らかになってない

 隣の家の友達やその両親は私に、「いつでも泊まりに来ていいんだよ」と言ってくれたし、親族ではないけれど、幼稚園の先生も同じことを言ってくれた。
 なのに、私には自由に居場所を求めたり、決めていい権利がない。
 施設に入って、18歳になっても、その権利はない。
 なんで、親権者を父母に独占させてるの?
 なんで、誰もが親権者になれる親権フリー&シェア制度を検討しないの?

 それどころか、児童相談所に「あなたの親はもう虐待しないから」と勝手に判断され、家に帰ることを提案され、戻ってみると、また親に裏切られる繰り返し。
 再び施設で暮らし始めると、大学進学の夢も厳しくなったし、行くにしても奨学金という大借金を負うことになるし、勉強と生活費のための仕事の両立は大変だし、少年犯罪をしつこく誘う子もいて勉強に集中できないし、もう踏んだり蹴ったりだ。

 なのに、この国では「子どもの人権」を考えてくれるどころか、被虐待児の要望を聞かないうちに「警察と児相の全件共有を!」なんて叫んでる。
 そんなこと、親から虐待された子どもが頼んだ?
 そもそも、親から虐待されて施設で育っている子に要望を聞くなんて、誰もしてこなかったじゃん。
 日本は、子どもの権利条約に批准してるはずなのにね。


 子どもを虐待する親をなんとかしたいと思うのは自由。
 でも、そもそも自分以外の親が悪くて、自分だけは虐待しておらず、子どもの人権を大事にしているなんて考えてる親がいたら、それこそが無自覚な虐待そのものだろう。

 本当に子ども虐待をなくしたいなら、特定の誰かを毒親として敵視するのではなく、社会のダメな仕組み(制度や法律)によってどんな親も毒親になることを学んでほしい。
 それは、アイヒマン実験で証明済みのことなんだから。

 まずは、大人である自分自身が子どもから信頼され、気軽に相談したくなるだけの人物に成長しよう。
 虐待された子ども側の痛みにも目を向けようともせず、深刻そうだからと目をそらすばかりでは、虐待の現実をふまえて防止策を作ることはできないから。

 僕(今一生)は、twitterに「#こども時代に大人にしてほしかったこと」というハッシュタグを作った。
 親から虐待された経験者が、このタグで自分が負った苦しみを伝えている。
 あなたも、子どもの頃を思い出して書いてみてほしい。

 そうしてこそ、虐待防止策を考える上で、警察や児相などの「大人の事情」よりはるかに大事なことに気づくんじゃないかな?
 そして、親から虐待された100名が書いた本『日本一醜い親への手紙 そんな親なら捨てちゃえば?』を読めば、さらに具体的かつ実践的な虐待防止策を考えられるようになると思うよ。

 それに、警察や児相への権限強化を進めれば進めるほど、子どもの人権や市民が自由に課題解決できる裁量がせばめられていく。
 市民が民間で解決の仕組みを作り出すのが、自治に基づく民主主義なのに、真っ先に政治や行政に課題解決をお願いする構えは、全体主義への進軍にも聞こえる。
 この国は、主権者が国民の民主主義国家だったよね?
 その話はまたいずれ。

【関連ブログ記事】

毎月2000円で子ども虐待防止を応援!
★今一生のYouTubeチャンネル登録はコチラ


上記の記事の感想は、僕のtwitterアカウントをフォローした上で、お寄せください。


 共感していただけましたら、下にある小さな「ツィート」「いいね!」をポチッと…

Powered by Blogger.