3選を目指す60代の市長に対抗馬が出ない状況があったのだが、そこに東大教授・安冨歩さんが出馬することになったのだ。
この選挙には、いまの日本が抱えるいろんな問題が露呈している。
そこが興味深いので、まずは安冨さんの街頭演説の書き起こしを読んでみてほしい。
(以下、チバサトミさんによる書き起こし)
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松山(※東松山市の中心部は市制施行前まで「松山町」と呼ばれた)は工業の街で、たくさんの工場があったが、次々と姿を消していっている。
なぜこんなことが起きるのか?
それは、松山の人が悪いからではありません。
かつて工場は人間が機械を動かしていたが、1930年代の終わりにノーバート=ウィーナーというアメリカの数学者がサイバネティックスという概念を提唱し、センサーとコンピューターがあれば機械を勝手に動かすことができることに気が付いた。
これをかつて「オートメーション」と呼んでいた。
人間が機械を動かすためにたくさんの人間を雇い、その組織を維持する必要があったので、この松山にも大きな工場があり、その工場を動かすためのたくさんの人員が雇われていました。
しかし、現代ではセンサーとコンピューターが機械を動かしているので、賃金の高い日本で運営する必要がないため、次々に海外に移転している。
この流れは、決して止めることは出来ません。
これからAIなどが発展すると、ますます人間のやるべき仕事は工場からなくなっていく。
私たちが現代の経済で人間が果たす役割は何なのか?
それは、機械ができないことをすることである。
機械ができないこととは何でしょうか?
一番大事なことは、遊ぶことである。
機械は、どんなに優秀であっても遊ぶことができない。
人間の最も大切な能力は、楽しく遊ぶこと。
現代の経済で利益が出ているのは、人間を遊ばせる産業である。
人々を楽しく遊ばせるということは、自分が楽しくなければできない。
食う、寝る、遊ぶ。
おいしいご飯を食べてよく寝て楽しく遊ぶ。
人間にしかできないこと。
これからの経済において成功を収めるには、楽しく遊ぶ人を育てることである。
とくに事業は、たくさんのお金を集めて大きな利益が出るという、19世紀後半から20世紀の半ばにかけての時代の概念である。
現代においては、大きなお金の塊や大きな人間の集団を作ってもメリットはない。
現代においては、大きなお金の塊や大きな人間の集団を作ってもメリットはない。
今必要とされているのは、小さな意味のある活動を積み上げて小さな機会をつなぎ合わせ、大きな渦にしていって人々を楽しませることである。
今、森田さん(※森田光一。東松山市長を2期務め、今回の市長選にも出馬)などが目指しているのは、20世紀の後半のモデル。
このようなモデルを現在に追求すれば社会を貧困に導く。
見かけ上利益が出たり年収が増えたりするかもしれないが、それは長期的に通用するものではない。
現代社会において、成功を収める鍵は楽しく遊ぶ人々が集うこと。
楽しく遊ぶ子どもを育てること。
子どもに無理強いして勉強させる、我慢させることが経済的に利益を生み出したのは20世紀の70年代までの話。
今の時代において、このような経済モデルを推進すること、子どもに無理強いして勉強させる、我慢させることは一刻も早く止めないといけない。
人間を破壊し、社会を破壊する反社会的行為である。
現代において、人間は経済の中で無理を発揮するのは楽しく遊ぶだけ時だけ。
私たちは遊ばねばなりません。
しかし、残念ながら、子ども時代に耐える教育を受けてしまった私たちは遊ぶ力を失っている。
私たちは遊ぶ力を取り戻させばならない。
子どもたちは私たちの世代とは違い、その力を持っている。
ですから、大人は子どもから遊ぶ力を学ばねばなりません。
●20世紀の夢を見続けるか? それとも未知の子どもに賭けるのか?
ここまで読まれて、もうひとりの候補者・森田さんのことが紹介されてないことにご不満な方もいるだろう。
でも、彼が既に2期務めた東松山市に足を運んでみたが、正直、「開発失敗都市」の印象を拭えなかった。
市民には見慣れた風景かもしれないが、市外の人間が初めて訪れれば、市政の失敗ぶりははっきりと見て取れる。
こんなパッとしない町を8年間もそのままにしている方を、また市長に選ぶ市民が多いのなら、東松山市はその程度の民度のまま今後も市政が運営されていくのだろう。
高齢化が進み、地元に退屈して若者が出ていく全国の田舎町の典型として。
だから、市民自身に変革を求める安冨さんを紹介するだけにとどめておきたいのだ。
安冨さんの出馬に関するホームページ「東松山あゆみの会」を見ると、下記のように書いてある。
★今回の選挙の第一の目的は、勝つことではありません。
選挙というメディアを使って、人々の感じ方や考え方を変える、ということです。
なぜなら、その変化がまったく起きない状態で、私がもし市長になったりしたら、確実に大混乱が起きて、あっという間にリコールされるに決まっているからです。
選挙を通じて人々の感じ方・考え方が変わるなら、自ずと私が選ばれるでしょうし、そうなれば、私は市長として意味のある仕事に取り組めるはずです。
★できもしないことを、権力で無理やり推し進めることなどありえません。
変革は、人々の感じ方、考え方が変われば、自ずから実現します。
政策をめぐる選挙ではなく、どのように感じ、どのように考えるか、という選挙だと位置づけています。以上だけでも、今回の選挙そのものが、当落とは関係なく、安冨さんにとって革命運動そのものであることが伺い知れることだろう。
実際、安冨さんの選挙運動は面白い。
なんといっても、「子どもを守る」という基本理念を何度も連呼し、詳細はすべて「東松山あゆみの会」で紹介するのみ。
あとは、音楽を演奏しながら街を楽しく練り歩くだけ。
選挙事務所もなければ、スタッフもおらず、市民がふらっと寄ってきては安冨さんの代わりに市政について意見を演説したり、音を鳴らす中、安冨さん自身は馬を引き連れて市民と気軽に話したり、「子どもを守ろう」とマイクを手に歌い上げたりしている。
それでも、彼はいたってまじめだ。
安冨さんは、2016年に東松山市で起きた都幾川河川敷少年殺害事件の現場にも足を運び、こんな感動的な演説をしている。
僕も、安冨さんと東松山駅前でストリート対談を行った。
安冨さんは、つくづく面白い。
こんな面白い人が市長になったら、きっと世界中から人が集まるだろう。
そして、それを実現できるのは、市民自身の「覚醒」だけだ。
これは、日本の地方都市が財政破綻を免れるために必要な覚醒だと思う。
20世紀の夢は終わった。
21世紀の今、高齢者たちの夢の延長線上に、子どもはいないのだ。
なお、安冨歩さんに関してもっと知りたい方向けに、以下のリンクを紹介しておこう。
★安冨歩twitter
★木内みどりの小さなラジオ
★安冨歩 Google news
★安冨歩スピーチキャス文字起こし
★安冨歩プロフィール 東京大学 東洋文化研究所
★東松山市長選と安冨歩さんパート1
★東松山市長選と安冨歩さんパート2
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