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シンガーソングライターの山下達郎さん(71歳)が、風邪によるのどの不調を理由に、ライブの途中で演奏を中止した。
71歳という年齢でも、若い頃と同じようにライブ演奏の高い品質にこだわるあたり、達郎さんらしいといえるが、まずは健康になってほしい。
彼には、価値の高い音楽を届けたいという職人気質があることは、よく知られている。
しかし、音楽を仕事として続ける以上、自分が仕事を通じて生まれるお金が何をもたらすかについて無関心であるなら、それは職人ではなく、無報酬ゆえに自由にやりたいアマチュア主義だ。
まだ社会に出ていない大学生が、キャンパス内で無料ライブを行うなら、社会的影響力はゼロだし、誰かが大儲けすることもない。
しかし、音楽をビジネスとして仕事にし、大金を稼ぐ以上、その額面が大きくなればなるほど、果たすべき社会的責任も大きくなる。
ジャニーズのタレントに楽曲を提供し、莫大な印税を得ることで生活を守り、自分のアルバムでは好きな音楽を売れ行きに関係なく作れる環境を整えたのが、山下達郎さんだった。
だから、達郎さんは自分のキャリアを支えてくれたジャニー喜多川に頭が上がらないのでラジオで「御恩」という言葉を使った。
しかし、その恩義を感じる情熱と同じくらいの情熱で、ジャニー喜多川の犯罪をなじることはなかった。
2023年9月、ジャニーズ事務所がジャニー喜多川による犯罪の事実を認め、今年2024年には1000人以上の人が子ども時代に被害に遭ったことが発表されても、達郎さんは沈黙を貫いてきた。
2023年3月にBBCでジャニー喜多川の問題が世界中で話題になり、2024年12月までの約2年間に、新聞・テレビ・ラジオ・雑誌・インターネット・BBCなどのメディアがさんざん報じてきた今も、達郎さんは「知らなかった」という言い訳が通ると思っているんだろうか?
もしそうであれば、「知らなかった」のではなく、「知ろうとしなかった」か、「知りたくなかった」というのが本音ではないか?
いずれにせよ、ジャニーズタレントに楽曲を提供することでさんざん稼いできたソングライターの中でも、達郎さんは最年長のベテランの部類に入る。
そのベテランが「僕は確かに楽曲を提供したけど、その仕事でジャニー喜多川がどうなったかなんて知らない」とダンマリを決め込んでいるようなら、音楽をただの商売道具に貶めてしまう。
才能あるソングライターがビジネスとして歌手の誰かにオリジナルソングを作ってリリースすれば、その楽曲の印税はソングライターだけでなく、歌手が所属する事務所に入る。
事務所の社長は、儲かれば儲かるほど、金と時間が余ることになり、好きなことができる。
ジャニー喜多川は、ジャニーズ事務所を作る前から小児性愛者として被害者を出し、姉のメリーから「あの子は病気なのよ」と警戒されている始末だった。
ジャニー喜多川は、自分の都合の良いように子どもを手なづけられるなら、少年野球チームでも、芸能事務所でも、どちらでもよかったはずだ。
芸能事務所の方が金になるから、野球少年をアイドルグループに仕立てあげたのだ。
NHKスペシャルを達郎さんが観たならば、ジャニー喜多川に犯罪を続けさせるための金を、自分の才能で作ってきたことに思い当たったかもしれない。
儲からなければ、社長は自分の趣味に時間や金を使う余裕はない。
だが、儲かればこそ、いくらでも子どもたちを襲うことができたのが、ジャニー喜多川だったのだ。
音楽を金に換えることで、1000人以上の被害者を生み出した。
それがジャニーズ問題だった。
それを理解できた時、その犯罪に加担した達郎さんは、死ぬまで沈黙を貫くだろうか?
音楽を、犯罪を続けさせる道具にしていいの?
もちろん、音楽を金に換えることで多くの被害者を生み出す「悪の構図」に参加したのは、達郎さんだけではない。
悪を支える金銭的な利害関係者は、5種類いる。
① アイドルの所属事務所(社長や副社長)
② 業務受注者(所属アイドルや作詞作曲家)
③ 労働者(事務所の社員)
④ 消費者(音楽やライブを買うファン)
⑤ 発注者(TV局やレコード会社、広告代理店など)
この5つの存在が、音楽を金に換えている。
そこで、「アイドルは悪くない」と言い出すなら、歌い踊ったアイドルに直接投げ銭できる仕組みに変えるしか、利益が一番集まる事務所の社長の犯罪を止めることはできなかっただろう。
「楽曲に罪はない」という屁理屈も同じだ。
音楽の良いところだけを見て、都合の悪いところは見ないというのは原理主義であり、音楽業界が原理主義に居直れば、愛や勇気を歌っても、空虚に響くだけだ。
なぜなら、口先だけで愛や勇気を歌っても、「結局は大金持ちになりたいんでしょ」という本音が透けて見えるし、実際、誰もが名前や顔を知っているジャニーズアイドルなら数十億円の個人資産を手にしている。
そこで、冷静に考えてみてほしい。
たとえば、外国で「偽ブランドかもしれないけどモノはいいから」と買ったとしても、税関で没収される。
真偽が判断できない商品を買って利益を違法企業に渡すこと自体が、犯罪に加担することだから だ。
当然、まともな大人なら、自分が犯罪に加担するかもしれない商品には、関わらないと判断するのが常識だ。
純粋に音楽を作りたいアーチストなら、音楽を金に換える際、音楽の価値を冒涜しないための最低限度の配慮と良心を考えるはずだ。
実際、シンガーソングライターの井上陽水さんは、東京高裁によってジャニー喜多川氏による性加害が認定された頃にジャニーズ主演のドラマの主題歌作成の話が舞い込んだが、陽水さんはジャニー喜多川の噂を重く考え、「受けない方がいい」と突っぱねたと、週刊文春が報じている。
子どもを傷つける社長の富を増やす仕事をしたり、アイドルを応援するつもりで実際は社長に利益を与える消費者になるなら、それは犯罪に加担する共犯者になるということだ。
「誰が傷つこうが、そんなの知らないよ」とか、「私が好きな推しのために金を出すのは自由でしょ」と思考停止を続けるのは、「俺には金が無いんだから高齢者を襲って何が悪い」と闇バイトに手を出す人の論理と同じで、犯罪者の居直りにすぎない。
そんな犯罪者と同じ構えの人が増えたら、どんどん生きにくい社会になってしまう。
僕は正論を吐きたいのではなく、これ以上、生きにくい社会になっていくのがイヤなんだ。
だからこそ、音楽を金に換えることで生まれる事実に関心を持つ必要があると考える。
ジャニー喜多川やスタッフ2名に「性加害の事実があった」と事務所が認めた以上、裁判がなくても、犯罪があった事実は変わらない。
犯罪は、本人の死後でも、裁判や逮捕とは関係なく成立する。
だから、イギリスで起きたジミー・サヴィル事件はBBCの反省をふまえて検証された。
今でもジャニーズの過去の歌をカラオケで歌ったり、映像を買って見ただけで、それらの音源や映像の収益や資産は、藤島家を潤すものになる。
ジャニー喜多川は、今頃あの世で笑っているだろう。
自分が傷つけた少年たちが、被害も言い出せず、黙って稼いでくれたおかげで、自分は金持ちになれた。
おかげで死ぬまで自由に子どもを傷つけることができたし、事務所を経済的に支えてくれた有名なソングライターたちも沈黙を貫いてくれてるのだから。
しかも、ジャニーズ事務所から社名変更したスマイルアップ社は今年11月、「当事者の会」副代表だった石丸志門氏への調停申し立てを取り下げ、スマイルアップの提示する1800万円を超える損害賠償責任がないことの確認を求めてさいたま地裁に提訴したという。
欧米では、未成年の頃に傷つけられた場合の損害賠償額は、1人1億円が相場だ。
日本では生涯年収が2~3億円なので、性的虐待のトラウマで働けなくなった被害者にとっては、1億円でも安いぐらいだろう。
東山社長は「法を越えた補償」をするとハッキリ言ったが、救済委員会は弁護士に任せきりで、賠償額を低くするための訴訟まで行うとは、呆れてものが言えない。
それでも、山下達郎さんをはじめ、音楽を金に換える仕事をしている有名なソングライターたちも、ファンも、テレビ局も、出版社も、ジャニーズ事務所から移籍したスタートエンターテイメントのアイドルの人気にすがりたいのだろう。
「売れてしまえば、犯罪でも無責任でもOK」という浅ましさに、僕はついていけない。
ジャニタレに楽曲を提供して大儲けしたソングライターが1人、また1人と、これから入る印税分だけでも、被害者への補償金の積み足しのために寄付してほしい。
もちろん、二度と子どもが被害に遭わないように、日本版DBSを民間企業に普及させる取り組みを支援するのもいい。
未成年の契約代行者である親どうしの保護者会を結成して、所属事務所に子どもを守れるように主張できる環境を作る取り組みも、生まれてほしい。
ジャニーズ問題は、多くの子どもを傷つけてきた。
補償金を払ったところで、傷は癒えない。
多くの子どもが傷つけられるのと引き換えに得た莫大なお金を、あなたなら何に使うだろうか?
音楽を、犯罪を続けさせる道具に貶めないようにするために、どんな仕組みが必要だと思う?