元タレントの中居正広の女性トラブルが、フジテレビの社員が部下に対して意にそぐわない「接待」を強いていたのではないかという疑惑へ発展し、外部の第三者による調査結果を3月末まで待つことになった。
この間、フジテレビから番組スポンサーが続々とCMから降り続け、フジテレビの親会社であるフジ・メディアHDは売上高を500億円以上も減らした(朝日新聞2025年1月30日付より)。
そこで、フジサンケイグループのトップに40年以上も居座る日枝久に辞任を求める声が上がっている。
女性自身という週刊誌は、フジテレビ関係者の言葉として次のように伝えている。
「日枝さんの辞任がなければフジテレビは何も変わらないんです。
この会社は秘書室出身者が“おかしな出世”をしています。日枝さんの近くで側近として働き、忠誠を誓った順番に出世するという“システム”があるのです。
参加者を制限して批判を浴びた最初の会見に出席した石原正人常務も、報道局長を務めていた時期はあまり振るわず、その後秘書室長になったのですが、それから5年でみるみる出世して常務になりました。
17年に社長に出世した宮内正喜元会長も秘書室出身、社内で問題を起こしたある人物も、秘書室への異動後に部長として“特進”しています。
日枝さんが退陣しないかぎり、こうした“院政”は何も変わりません。各所にいる子飼いたちのせいで、どこかで腐敗がまた始まってしまう」
これを読んだ僕は、「日枝が辞任しても第2、第3の日枝が現れるのではないか」と考えた。
なぜかと言えば、「社内で出世するために上司や経営陣から可愛がられたい」と望む社員にとって、立場の強い相手の言い分は、それがどんな不当な命令でも、ガマンして従うことを選ぶからだ。
もちろん、ガマンできなければ、早々に自ら退社する道を選ぶ人もいる。
しかし、会社に残る以上は、納得できないことを押しつけられても「仕方がない」と考えて、結局は自分の生活の安定のために従ってしまう社員が多数派だろう。
家族を養っていれば、なおさら高収入のテレビ局を辞める勇気は持てなくなる。
その気持ちがわかるサラリーマン上がりの社長は、高収入を社員に与えることで、上司に逆らえない弱い立場を社員に植え付けるわけだ。
つまり、出世すればするほど第2の日枝になってしまう構図があり、これはフジテレビに限った話ではなく、日本のどこの職場にも共通する。
当然、芸能界も同様で、立場の強い事務所と立場の弱いタレントとの間に大きな力関係を作り出し、タレントに大金を稼がせれば、それだけタレントは事務所に歯向かえなくなる。
1000人以上もの被害申告者を出したジャニーズ問題でも、人気アイドルとして大金を稼いだ人ほど被害を公には語らず、被害を公言できたのは被害によって心身の病気に苦しめられ、事務所を辞めるしかなかった人たちだ。
そんな被害者たちに補償するはずのスマイルアップは、損害賠償債務が存在しないことの確認などを求める訴訟を、東京地裁に起こした。
朝日新聞の記事によると、スマイルアップに訴えられたのは、アメリカのネバダ州で被害を受けて総額3億ドル(約470億円)の賠償を求めて提訴した元ジャニーズJr.の田中純弥さん(43)と飯田恭平さん(37)のほか、元Jr.の大島幸広さん(39)、アイドルグループ「忍者」元メンバーの志賀泰伸さん(56)。
田中さんは次のように会見で言った。
「米国での提訴が明らかになった直後に提訴された。いきなり被害者に対して訴訟を起こすのは乱暴すぎる。他の被害当事者たちもスマイル社から訴えられるのではないかと不安になる人もいると思う」
大島さんは次のように言った。
「果たしてこれが、スマイル社の言う『被害者に寄り添う行動』なのか。早くこの問題を終わらせたいだけのように思える」
彼らの弁護士である渥美優子さんは言った。
「スマイル社が一方的に設定した枠組みを被害者に押しつけて解決しようとしており、被害者に寄り添う態度とは真っ向から反するもの。米国での訴訟を阻止するための手段とも考えられる」
ジャニー喜多川やジャニーズ事務所の社員から性被害を受けた人たちは、被害当時、10代を中心とした未成年の子どもだった。
子どもが大人からの命令や指導を受けた時、それが納得できない内容だと思っても、抵抗することなどできない。
それは、ジャニーズ問題だけでなく、親子関係や、先生と生徒の関係も同じだ。
子どもの頃から立場の弱い側が一方的に人権や尊厳をふみにじられることにガマンして耐えるだけでは、この社会はいつまでも生きにくいままだ。
そこで、立場の強い相手から人権を踏みにじられる被害を受けた時、3つの対抗手段があることを学んでおこう。
一つは、同じ痛みを持つ人どうしで連帯し、解決のためにかかるお金をみんなで集めたり、仲間を増やしたりして、学び合う場所を作ること。
立場の強い相手は、弱い側を個別に分断する。
どんな組織でも上に立つ者は少なく、従う側の方が多数だから、本来なら多数派の意見がまかり通るはずだが、タテ社会では上司や先輩にたてつく人を否定し、追い出すことで、命令が通りやすい仕組みを作っているのだ。
だから、フジテレビ問題でも、株主であるダルトン・イベストメントも経営陣に対し、こんな声明を発表したのだ。
「私たちは、フジテレビの従業員が労働組合を通じて声を上げたことに
勇気づけられました。彼らは変革を求めています。彼らの声に耳を傾けてください」
職場でのトラブルなら労働組合だが、たとえば夫から暴力を受けている奥さんならDVの自助グループや女性支援団体に相談し、自分と同じ痛みを持つ人どうしの輪の中に入ることで、連帯していお互いの問題の解決を目指すことができる。
2つめは、メディア(報道機関)を味方にすることだ。
あなたの苦しみは、あなただけが苦しんでいる問題ではなく、他の多くの人も苦しんでいる。
だから、同じ痛みを持つ人をネット上から呼びかけ、仲間を作って連帯すれば、解決のためにアクションを始めた時、新聞やテレビなどの取材を受けやすくなる。
そうすると、記事や番組を通じて世間が味方になってくれる。
ジャニーズ問題がBBCの報道で世界中の話題となり、今もなお新聞やテレビなどに取り上げてもらえるのは、被害者どうしで団体を作り、記者会見やインタビューなどに応じてきたからだ。
なので、同じ痛みに苦しむ仲間を1人、また1人と増やした後は、メディアの力を借りて、自分たちが望む解決のあり方を模索していくといい。
3つ目は、裁判だ。
仲間ができて、メディアも味方にできれば、裁判で勝つ見込みも大きくなる。
そこで、ジャニーズ問題をアメリカの裁判所に訴えた弁護士にインタビューした朝日新聞の記事を読んでほしい。
子どもを守ろうとしない限り、子ども時代に大人からの不当な命令をガマンだけで乗り切ってきたまま職場で働くようになり、立場の強い相手に苦しめられた時、個人の問題として軽んじられ、自分だけが苦しむことになる。
だから、みんなが自分の身を守れるように3つの対抗策を提案した。
あなたは、自分より立場の強い相手から納得できないことを命じられた時、どう対処してきただろうか?
実例を引用して、考えてみてほしい。