日テレの夏の特番『24時間テレビ 愛は地球を救う』が今年も放送される。
そして、毎年やってるチャリティ・ランナーが、SUPER EIGHTの横山裕(よこやま・ゆう)さんに決まったと発表されて以来、日テレや番組に対する批判がSNSに増え続けている。
プロのアスリートでもなく、既に44歳になる横山さんがこの異常気象の炎天下を走り続けることに対して、心配の声が上がっているのだ。
11年前の2014年に、スポーツライターの酒井政人さんは、東洋経済オンラインで次のように指摘していた。
「24時間テレビのチャリティランナーは仕事と報酬のミスマッチが起きている。チャリティ番組とはいえ、走りのプロフェショナルではないタレントに“走る”ことで高額報酬が発生するのは、スポーツライターとしては違和感がある。アメリカやフランスのチャリティ番組に出演するタレントは、世界的に有名なアーティストでも全員ノーギャラだ」
昨年(2024年)の場合、お笑い芸人のやす子さんは、自分のX(旧twitter)で「チャリティーマラソンのギャラ1000万円ってデマが飛び交ってるけど、一銭もいただいてないですよ!」と書いていた。
しかし、彼女は当時25歳であり、ハードな訓練を日課としていた自衛隊に3年も働き続け、柔道は黒帯というスーパー健康体の若者だ。
一方、バンドマンである横山さんは、フィジカル面でやす子さんより、かなり劣っている。
44歳という年齢も考慮すると、体力もやす子さんにはかなわないだろう。
しかも、異常気象によって、これまで以上の暑さになることを、気象庁が公式に発表した。
気象庁は今日8月1日、今年7月の日本国内の平均気温が平年(2020年までの30年平均)よりも2.89度高く、統計を始めた1898年以降で最も高かったと発表したのだ。
気温が過去最高を更新するのは2023年以降、3年連続なので、これまでの暑さ対策が成り立たないおそれが出てくる。
もちろん、台風の影響も心配だし、走る距離も公表されていないので、さらに心配は募る。
ちなみに、明日(8月2日)にも、チャリティマラソンのゴールである東京には、環境省から熱中症警戒アラートが出ていて、このアラートが出たら「涼しい環境以外では、運動等を中止しましょう」と呼びかけられているのだ。
8月末までどんどん気温が高まると、『24時間テレビ』の放送中に、横山さんが熱中症で倒れる危険は高く、倒れるどころか、命を失う恐れすらある。
それを考えると、かつて週刊誌がすっぱ抜いたように、チャリティランナーに1000万円の報酬を与えるのも、理解できないわけではない。
ただし、あくまでもプロのアスリートだったら、プロとして体もできているし、それだけの高額報酬に見合う備えができるかもしれないってことだ。
もっとも、プロのアスリートは、プロだからこそ、チャリティで高額報酬を受け取ることは断るだろう。
そこで素人の横山さんが命を賭けてまで走るだけの価値が、本当にあるんだろうか?
これまでのチャリティランナーが全員無事だったとしても、この想定を超える異常な炎天下でも大丈夫である確証は、どこにもない。
では、なぜ横山さんは自分の命を賭けてまで、今回のオファーを受けたのか?
東スポの記事には、こう書かれている。
「子どものころ、貧乏やった。弟が2人いて、家計の負担を減らすために中卒で建設会社に就職。工事現場で働きながらジャニーズJr.として活動開始した。ただ、ハタチにもなっていなかった時、母が病に倒れた。弟は養護施設に行くしかなかった。僕が走って何か変わるとは思っていないが、子どもの貧困問題をちょっとでも分かっていただけたら、走る意味があるんじゃないかな」
僕はこの言葉に、どこか違和感を覚えた。
子どもの貧困問題を伝えるために走るのか?
ノーギャラで?
命を落とすかもしれないのに?
保険に入っているかどうかすら、番組の公式サイトでは公表されていないのに?
この番組は生放送でマラソン中の姿を中継するので、もし万が一、走っている最中に倒れてそのままあの世に行ってしまったら、視聴者の多くの子どもたちに大きなショックを与えるのでは?
これは、映画やマンガではなく、現実なので、トラウマになりかねないが、日テレも誰も責任が取れないだろう。
そうなると、全国の親は『24時間テレビ』を子どもに見せない方が心理的安全性を守れることになるため、横山さんの思いは空回りしてしまいかねない。
しかも、何より不思議なのは、横山さんが走って寄付を募る「マラソン子ども支援募金」は、現時点でどこの誰に寄付するのかが公表されていないのだ。
チャリティマラソンに参加する場合、ふつうなら日本赤十字など、具体的に寄付先の団体を決めてから、ランナーにオファーするものだ。
それが寄付のリテラシーなのだが、日テレはこの寄付のリテラシーを学んでいないようだ。
日テレは2023年、系列の地方局の幹部社員が、寄付金をネコババして使い込んでいたことが発覚し、大問題になった。
なお、この事件は、業務上横領の罪で懲役3年、執行猶予5年とした有罪判決が確定した。
日テレがこの事件から学ぶべきは、寄付リテラシーだったのに、横山さんにすら寄付先の団体名を伝えていないのだろうか?
寄付というものは、善意に基づいて金を出し、金を受け取る側も何に使うかを公開するのが、まっとうなリテラシーだ。
この寄付のリテラシーを、横山さん自身も学んでいないのかもしれない。
横山さん自身が養護施設で暮らすことになった弟たちから苦労を聞いているなら、養護施設を運営する全国の団体のリストを見せろと、日テレ側に要求してもよかったはずだ。
なぜなら、養護施設で暮らす子どもたちは、お金がないために、塾や通信添削など民間の教育投資が受けられない。
それどころか、奨学金のようなローンで入学金や学費を納めるリスクを負うことになるから、高卒後の進学をためらってしまう子も多い。
その結果、施設で育つと、大学進学率はがた落ちしてしまうからだ。
今日では、高校生全体の57.9%が大学へ進学するが、養護施設の出身者の大学進学率は24.2%。
親がいないとか、親があまりにも貧乏だったり、親が子どもを傷つける人だった場合、養護施設に入るしかなくなるので、勉強したい子ですら高卒止まりになり、大卒より低い賃金で働くしかないわけだ。
つまり、親がいないだけで一生貧乏を強制される仕組みがある。
その仕組みを変えない限り、いつまでも支援が必要な子どもが次から次へとあふれだし、養護施設で育ちながら貧困へまっしぐらに導かれるわけだ。
こうした貧困問題の深刻さを、横山さんはチャリティランナーになることで、命がけで訴えようとしている
なのに、日テレは寄付先の団体を公表しないまま、「詳細はホームページなどで追ってお知らせします」と公式サイトで書いているだけで、番組視聴の関心だけをあおっている。
僕は、正直、炎天下でのチャリティマラソンはやめてほしいと思うし、どうしてもというなら、横山さんではなく、プロのアスリートに変えてほしいと思う。
横山さんのファンの方も、彼の命が惜しければ、日テレに苦情のメールでも出すといい。
横山さん自身も、命がけで挑戦するなら、日テレ側に「寄付先の団体を一刻も早く公式サイトで発表してくれ」と強く要望した方がいい。
ちなみに養護施設では、進学や受験勉強の費用はもちろんないに等しいが、スマホの所有率は同世代より低いし、お小遣いも少ないし、休日でも外出禁止を強制する施設もあって、施設職員の給与も低いほど、とにかく金がないのだ。
なぜ親の都合で子どもが施設で育ち、貧乏へまっしぐらになり、施設を出てからの自殺率も高いのかについて、多くの人が関心を持ってほしい。
横山さんのファンなら、施設での暮らしが貧乏な一生を決定づける切実さを知っている横山さんの思いをくんで、日テレに「ランナー交代」を求めるメールを出したり、SNSで問題提起をしてみてほしい。
万が一、横山さんが走っている最中に倒れたり、亡くなってしまったら、それで集められた寄付金を手にする子どもたちは、きっと複雑な気持ちになるだろうから。
誰かをいけにえにするチャリティは、人権侵害だ。それを、事故があってから気づくようでは、愛がないじゃないか。
そこで、あなたにお尋ねしたい。
今回の『24時間テレビ』で横山さんが完走できても、せいぜい数億円レベルの募金しかできないが、それで子どもたちは人並みの暮らしを実現できるだろうか?
日テレの公式サイトによると、昨年の「やす子さんのマラソン児童養護施設募金」では、5億493万6310円が集まったが、そのうち約4億円で全国606か所の児童養護施設に図書カード、グルメカードはじめ、子ども達の希望の品を届けたそうだ。
また残りの約1億円で、児童養護施設を巣立つ子ども達を中心に未来へ続く複数年のサポートを計画しているというが、その中身は公表されていない。
いずれにせよ、複数年のサポートでは、4年後以降のサポートは、今年だけの寄付総額だけでは賄えないのだ。
養護施設で暮らしている子どもが、高卒止まりになったり、一人でお亡くなりになることがないようにするには、今年も来年も3年後もずっと、いつまでも寄付を続けなければならないわけだ。
そこで、『24時間テレビ』のチャリティのやり方を、もっと寄付総額が増えるように変更する必要が出てくる。
もちろん、誰かをいけにえにしない形での変更だ。
あなたなら、どのように変えたらいいと思う?
たとえば…
●日本中のミュージシャンを100人以上集めて、子どもの貧困をテーマにしたオリジナルソングを作り、毎年その印税から養護施設へ寄付する
●施設の子どもが自分で単価の高い仕事を作り出せるよう、勢いのあるベンチャー企業の社長や有名企業の社長が、無料の起業教育を提供する
●国会議員を番組に招いて、大学院まで含めた教育費の無償化と、施設で暮らす子どもが負担できない受験塾の費用を国が負担すると公約させる
●施設職員と子どもたちで会社を作り、みんなで利益を作って分配できる仕組みを作り出す。そのための事業資金を番組の寄付から出資する
●番組内で、施設で暮らしている子ども自身が貧しさを訴え、施設を出た後の夢を語るコーナーを設けて、視聴者や番組出演者が直接その子に寄付できる仕組みに変える。
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